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14.求人

その後話し合いで大体の条件が決まった。


急募!宿屋の掃除担当募集!

仕事内容:宿屋の掃除全般

勤務時間:正午から日が沈むまで

給与:オーナーとの話合いにより決定

勤務日・休日:話合いにより決定、2日か3日に一度の休日。

採用条件:年齢、経歴不問。

その他:未経験歓迎。掃除が得意な方、経験者優遇。

体力に自信のある方待ってます!まずは面接にどうぞ!



 ……なんか怪しいバイトみたいだな……。



 この世界の採用基準があまり分かっていないから、ふわふわした募集要項になってしまった。見るからに怪しい。こんなの前の上司に出したら馬鹿にされてしまうだろう。しかし、そんな俺の気持ちを余所に、エスターたちはキャっキャッと手を取り合って喜んでいる。


「出来ましたね!これできっと素敵な方が来てくださいます!」

「わぁーい!これ大量に刷ってばら撒くぅ??」

「その前に町に張り出すべきでしょう。」

「ここへいっぱい人がいらっしゃったらどうしましょう……!」

「えー私ここ気に入ったのに!混みすぎは困るぅ!」


 エスターのためにも一人でも来てくれるといいが、もし誰も来ないようなことがあったら、どこかから誰かを拉致してこなければいけないかもしれない。そんな暗い考えが頭を過ぎる。誰も来なかった時にエスターが悲しそうに笑うのがありありと想像出来る。

 そんなことになったらノアの思う壺だし、何より俺が罪悪感で死ぬ。


 掃除の人に経歴なんて必要ないだろうと、募集要項には経歴不問と書いてしまったがこの世界の経歴ってどんなものになるんだろうか……。もしドラゴンスレイヤーみたいな経歴の人がきたらどうしよう。


『前職ではどんな事を?』

『ドラゴンを狩る事を生業としていました。』

『ドラゴンを狩る際に大切にしていることは?』

『相手も一つの生命である事を忘れない事です。』

『なるほど、ではその前職からなぜ弊社を?』

『一見関係のないように見えますが、ドラゴンスレイヤーという職には宿屋は欠かせない存在ですから……』


 想像するだけで頭が痛くなる……。でも本当にいろいろな場合を想像しておかないと、俺の想像をどれくらい超えてくるか分からない。後でこの世界のポピュラーな職を聞いておかなければ……。


 考え込み過ぎた俺はその日の夜、魔法使いやら戦士やら、昔ゲームで見たような格好の人達がたくさん会社に押し寄せて、上手く質問出来ずに剣で切りかかられたり、炎の魔法に追われる夢を見ることになった。


-


 次の日にはダリアとネリネがリューに連れられて町へ行くことになった。

 この間エスターとリューと3人で行った町だ。用事を済ませたらまたこの宿屋へ戻ってくると言うので、町の目立つところに求人の内容を書いた紙を貼ってくるのをお願いした。エスターが書いていたものに、途中からリネリが手を加えたものだ。エスターの字が綺麗だということは知っていたが、ネリネがこんなに絵が上手いとは知らなかった。


「行ってくる。ミタカ、任せろ。」


 地図が出来たとはりきるリューに、無言で親指を立てる。やってしまってから一瞬この世界で悪い意味だったらどうしようと心配になった。しかし、俺の親指を見て不思議そうな顔をしたリューは真似をするように、グッと親指を立てて返してくれた。問題なかったみたいで良かった。


「リューの地図は見せて貰ったけど確かに精巧ね。これならもう迷わないでしょう。」

「ダリアちゃーんそういうこと言うとまた迷っちゃうからぁ~」

「リューは迷わない。ダリアは安心できる。」

「リューちゃんかっこいいなぁ!頼れるぅ~」

「ネリネは心配し過ぎよ。」


 この三人はなんだかバラバラではあるが、絶妙に上手くやっていけそうな雰囲気がある。特に、一体何が琴線に触れたのか、リューはダリアを気に入ったようで早く行こうと袖を引っ張る。


「ま、待って!まだ心の準備が……。」

「じゃあ行ってくるねぇ~」


 ネリネがリューが掴んでいる方とは反対側の腕を掴んで歩き出す。ダリアは遭難したのがよほどトラウマになっているらしく、わーきゃー言いながら森の中へ連行されていく。ちょっと可哀想だけど、この宿屋から自分の家へ帰る時にも森を通らなくてはいけないんだから、今のうちに慣れておいた方がいいだろう。

 そんな微笑ましい光景に、エスターはそんな後姿に穏やかに手を振る。


「楽しみですね!リューさんも張り切っていらっしゃいましたし、私も負けていられませんね!」

「そうですね。人来るといいなぁ~」

「では早速、昨日の分のお仕事も片付けてしまいましょう。」

「そうでした……。」


 すっかり忘れていたが、昨日は使った食器を洗うとか最低限の掃除くらいしかしていないんだった。ダリアとネリネが宿屋へ帰ってくる前に出来ることはやっておかなければ。まだ俺はエスターの負担だろうけど、エスターに仕事を教えて貰わなきゃいけない。そして早くマスターしなければ。


「エスターさん!今日は客室の掃除のやり方を教えてもらいたいです!」

「分かりました。一緒にお部屋のお掃除をしましょう。ベッドメイクなどお部屋を整えるのも一緒にやりましょうね!ふふ、やる気がある従業員さんは素敵ですね!」


 嬉しさを堪えきれないといった様子のエスターに、今までここで働いてきた人たちが、どんな態度だったのかすごく気になる。それともあんまりやる気がないのが普通なんだろうか。

 今まで仕事の面接で見てきた人たちは、どれだけ酷くても一応表面上は取り繕う努力をしていた人達だった。だから、あんまりやる気の無い態度を取られたら全員不採用にしてしまうかもしれない。そんな余計な心配をしてしまう。


「ところでミタカさん、昨日はありがとうございました。」

「いやそんな。」

「優しいんですね。」

「いや、そんな……。」

「ありがとうございます。」

「いや……。」


 別に何も悪いことはしていないけど、なんとなくあまり触れられたくないことのとうな気がして、適当に相槌を打って誤魔化そうとする。


「撫でてたって怒りませんよ。」

「うわ、起きてたの……。」

「朦朧としてましたけど、分かっちゃいました。」


 ふふふっと首を傾げて笑うエスターの頰は、若干赤いように見えるのは錯覚だろう。


「ゆるして……」


 それに俺の顔が熱いのは錯覚だ、絶対。

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