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3枚目 神の理

決闘無し。

 大昔。かつてこの世界には魔力を持つ存在、魔物が存在し、魔力を持たぬ人間は、常に死の恐怖に怯える生活をしていた。




 運命の日までは。




 かつて1人の天才がいた。


 名前はブルック・ルー。

 稀代の天才魔法使い、千年に一度の逸材、神童を超え「神そのもの」とも謳われた存在。

 多くの術式を生み出し、改良。世界をより良くしていくために尽力を惜しまなかった彼。

 その彼が生み出した、世界を変えてしまう大魔法。



神の理(ルール・オブ・ゴッド)



 彼はその魔法を世界に放ち、瞬く間に魔法は世界を包んだ。

 発動した大魔法によってもたらされたのは「秩序」そのもの。


 1つ、魔物の根絶。世界から魔物が居なくなった。だが消えたのではなく、【異世界(エクストラワールド)】と呼ばれる特殊な世界に転送され、人間に害をなすことはなくなった。


 2つ、人同士の争いの禁止。人が人に危害を加えようとすると、天罰と呼ばれるものを受け、死に至る。


 3つ、人々が争える唯一の手段の形成。


 それが決闘だ。


 異世界に住む魔物を呼び出す【魔物符(モンスター)

 術式を紐解き様々な効果を出す【魔術符(マジック)

 作り出した武器を決闘で使用する【装備品(アイテム)


 これらのカードを用いた一騎打ち。それが決闘だ。

 決闘に勝ったものが正しく、正義。それが世界の決まりとなったのだ。

 そんな文字通り世界を変えた天才ブルック・ルー。



 彼は突然消息を断った。



 大魔法発動以降の彼について書かれた書物は一切無く、どのような余生を過ごしたかは明らかになっていない。

 なお彼が姿を消した後も、この大魔法【神の理(ルール・オブ・ゴッド)】は、





「数千年」経った今も、この世界を支配し続けている。


 〜世界正史記録の一部より抜粋〜





 =・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=






 



 時は変わって現代。


「ロイの家とうちゃーっく!」

「結局こうなるのか……」


 テンションの高いルムと顔の青いロイ。

 一応ロイの所有物であるルムはロイの家に住むことになったのだが、年頃の女の子とまともな会話をしたことのないロイにはハードルが高すぎるものである。いつまでたってもカードに戻ってくれない上にこの少女、まるで同性かのように無防備なのだ。

 現在、決闘中に生えていた頭の角はなぜか消えている。戦闘中にしか見えないのだろう。


「友達を1人泊める感覚でやれば大丈夫だ」

「女の子を泊めるとなると話は違うよ!?」

「……?」


 なぜか怪訝な表情をするルム。周りをキョロキョロ見渡し、自分を指差す。


「俺のことか?」

「えっ。違うの?」

「あっ、そういやそうだった。いやまぁ男と大差ないでしょ」

「大雑把すぎない?」


 ほぼ真っ平らの胸に手を置いてルムはいう。

 たしかに女性というには幼い体型ではあるが、露出度の高い衣装も相まってその成長段階の体を、触れてはいけない禁断の果実であるかのような錯覚を覚えさせる。


「それともこんなぺったんこに興奮すんの?」

「そ、そんなことはないし」


 男と大差ないと言い切ってしまうには可愛らしすぎる顔立ちを近づける。見た目は間違いなく美少女なので困ったものだ。


「じゃあ平気だな」

「もういいよ……」


 2人は家へと入る。






「親はいないのか?」


「僕が子供の頃に馬車の事故でね。この家は両親が残してくれたんだ」


 少し寂しそうにロイは言う。

 家族で過ごすためにある家、その家はロイ1人で住むには少々広い。


「そうか……なんか悪かったな」

「いいよ。もう気にしてないし」


 ロイが荷物を下ろす。

 変な空気になってしまったのを察して話題を変える。


「それより、こんな僕でよかったの?」

「正直良くないけど契約しちゃったからな」

「たしかにそうだけどさ……」


 事実なので反論できない。先ほどの決闘も、ルムの指示がなければ勝利には繋がらなかっただろう。ロイよりも決闘のセンスがあるのは明らかだ。

 ソファーに身を投げるルム。まるで我が家のような振る舞い。


「あ、そうだ、これ」


 ルムが1枚のカードを投げてくる。

 取り落としそうになるが、なんとかキャッチする。

 それは目の前でくつろいでいる【天龍の少女ルム】のカードそのものである。


「えっなんでカードが?」

「わかんねーけど多分俺の本体だ。デッキに入れといてくれ」

「それなら大事に扱おうよ……」


 よくわからない原理だが、ルムのはカードとして山札に入れつつ実体化し、会話などができる特殊なカードのようだ。


「君は一体なんなんだ……」


 通常の魔物とは大きくかけ離れた習性、意思を持ち、人間となんら変わらないように見える、人間ではない少女。


「そういえば言ってなかったな。俺がこの世界に来た目的」

「目的?」


 ソファーに座り直し、改まる。


「俺は【神々の欠片】を探している」


 ルムは話し始めた。自分が別世界から来た、元人間であると言うこと。神の落し物を集めて来いと言われ、生き返らせてもらう。

 あまりにも荒唐無稽な話を全て聞いたロイは半信半疑だった。


「……でもそれなら全部説明つくかも 」


 実際目の前の少女は何もかもが規格外、常識から外れている。ひとまずは彼女の言うことを信用することにし、話を進める。


「その神々の欠片ってどこにあるのかな?」


 集めることになる【神々の欠片】についての情報が少なすぎる。


「この世界に散らばるイメージを見せられたが、空から流れ星が降るようなものだった」


 転生前に神から見せられたヴィジョンを思い出す。

 空から落ちてきた。

 欠片はカード。

 神から与えられた情報はそれだけだった。

 全体的に不親切な神であると改めて思う。決闘のルールは、カードに転生した時、自然と頭に入ってきたから良いものの、肝心の探す物のありかがわからないのであったらどれだけの時間がかかるかわかったものではない。

 それとも、欠片の場所がわかる方法が何かあるのだろうか?


「なにかそんな話を聞いたことはないか?」

「流星かぁ……」


 ロイは顎に手を当てて考え、そして。


「あっ」

「なんかあったか?」

「大昔なんだけど、100年くらい前に流星群が降ったな」


 ロイが言うには、100年前、大規模な流星群が降り注ぎ、地上に隕石のように落下してきたのだと言う。

 その際の被害は甚大だったのだが……


「落ちた隕石にカードが?」


「うん。隕石に守られるようにして降ってきたんだ。そのカードの何枚かは国が回収して、今は国宝に指定されているよ」


 ロイが歴史の授業で習った事だ。カードは全てLカードで極彩色に輝き、この世にあるLカードよりもはるかに美しいのだと言う。


「間違いない、それが欠片だ!」


 その国宝群は【神々の欠片】これはほぼ間違いないだろう。

 ルムがロイに迫り、顔を寄せる。不覚にも近づけられた顔にロイはドキッとしてしまう。


「それは今どこに!?」


「た、多分国が大事に保管してる。国宝に指定されてるから仮に場所がわかっても僕らじゃ無理だよ!」


「そうか……」


 体を引っ込める。これは難易度が一気に跳ね上がった。そこらへんに落ちてるものを拾うのとはわけが違う。


「どんなカードかってのはわからないのか?」


「教科書に絵柄は乗ってるけど、テキストや名前はわからないんだ」


「わからない?」


「うん。どれも人が読む部分は掠れて解読ができないんだ。ちょうど君みたいにね」


 ルムも、決闘前までは解読不能テキストとなっていた。だからロイはシナジーの薄いルムをデッキにとりあえず入れていたのだ。


「ちなみにテキストが解読できないってことは」


「そのカードは使えないね。カードはその効果を理解して、初めて使用が可能だから」


 存在を理解し、呼ぶことによって魔物はこの世に姿を表すためだ。


「空から降りてきた美しい謎のカード……人々が崇めるには充分だな」


 ルムの前世でも、用途はわからないが、古代の黄金の物品などが発掘され厳重に保管されていたのを思い出す。人というものは謎が多く美しいものに惹かれるものだ。

 話が終わると、ロイは立ち上がる。


「とりあえず晩御飯にしよう、お腹すいたしね」


 クゥゥゥ。

 ちょうどルムのお腹が可愛らしく鳴る。


「……欠片についてはまた考えるか……」


 ルムは少し恥ずかしそうに言った。









 時刻は夕刻。

 日も沈みかけ、窓から見える人々が帰路につき、街の灯りが輝き始めた頃。


 ヴァイルド領、領主屋敷にて。

 まだ三十路手前、精悍な顔立ちの男が机に置かれた書類に目を通し、時折判子やサインをしている。長い時間書類作業をしていたためか、気分転換のつもりで男は立ち上がり窓から町並みを眺める。

 その男ーーこの土地の領主セルジオは窓から己の治める土地の夜景。若くして領主になった男の顔は疲労が伺え、1日の終わりを憂いているようにも見えた。

 そんな時、ノックの音が響き、部下が入ってくる。

 とあることを報告するために。




「龍のカード?」

「はい」


 部下を一瞥すると、すぐさま窓のほうに向き直る。領主が部下の報告を聞いて詳細を促す。


「詳しく」

「本日の午後、エンバー学園付近で生徒同士の決闘から龍の魔力が確認されました」


 エンバー学園はロイの通う学園である。ここ一帯ではもっとも大きな学園であり、決闘専門の学科が有名な学園である。これまで多くの決闘者を排出した。


「たしかに龍の魔力ですが、これまで未確認の波形です」


 魔物には固有の魔力と波形があり、空気中の魔力を解析することでどのような魔物が召喚されているかを把握することができる。

 龍などの希少な種族は、魔力が確認され次第調査されるのが基本だった。


「新種か?」

「間違いありません」


 そして――と、部下は付け加える。


「その魔力が確認された推測時刻に、学園敷地内から()()()が目撃されています」

「……召喚の余波か」


 強大な魔物が召喚されれば、その周囲の環境に与えるものも大きい。大地を砕き、海を割り、天を裂くなどの余波が起こることもある。

 多くの人が目撃した光の柱とは、ルムが召喚された際のエネルギーに間違いなかった。

 ルムはそれだけ強力な力を有するということである。


「レアリティはわかっているのか?」

「……極彩色の輝きから、確実にL(レジェンド)カードであると思われます」

「なんだと?」


 それを聞いてセルジオの様子が明らかに変わった。

 古代より強大な力を持ち、魔物の頂点とされてきた龍。多くの王族が龍を所持し、支配者の証とも揶揄されてきた。

 その龍のLカードとなると、最低でも国家が管理するレベル。領主としては無視できないものだった。


「……所持者のコンタクトを図れ」

「はっ」


 本人の知らないところで、事が、動き出す。






 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー







「ロイ、龍のカード買おう」

「無理言わないでよ」


 そんなことなどまったく知らない2人のいるロイ宅。

 ともに夕飯を済ませたからか、すっかり打ち解けた2人。山札のカードを広げて腕を組むロイの背中に抱きつくようにして、ルムが覗き込む。相変わらず距離が近いが、ロイもいい加減慣れたのか、好きなようにさせている。

 ルムの召喚時に使用できる【龍召魔方陣】は、種族が[種族・龍]なら何でもサーチし、コストダウンできる能力だ。強力なドラゴンを確実に引ける能力ではあるのだが、もちろん山札にサーチ先である[種族・龍]がなければ全く意味のない能力となる。


「前にも言ったけど龍はとっても高級なものなんだ。僕の山札全部売却して買えるかどうか……」

「そんな高そうなカードなさそうだけど」

「まぁそうなんだけどさ……」


 自分のデッキを見て少し落ち込む。

 安いカードで組んでるがゆえにカードパワーは低い。それに加えてロイのプレイングの低さが弱さに拍車をかけている。

 レアリティの高いカードほど希少で高額かつ性能がいい。

 順番としては

 枚数が多く、ありふれたC(コモン)

 Cよりは希少だが比較的に入手しやすいR(レア)

 高額で希少、高級品のH(ハイレア)

 最高級。一部は国宝に指定されているものもあるL(レジェンド)

 の4段階。カードのレアリティは術式の完成度や魔物のランクで決まる。


 今日の決闘で使用したビルラビットはC。レアリティとしては最も低い。基本的にビルラビットのようなどこにでも生息しそうな魔物はCレベル。逆にルムのように固有名を持つ魔物はHかLになる。


 Cカードの色は銅色。ロイのデッキの大多数が茶色い。Cカードばかりだ。


「それに僕が買えるようなドラゴンなんてタカが知れてるよ」

「安いのでいいからさー」

「いいけど、安いドラゴンは種族がたぶん違うよ?」

「え?」


 ロイがたくさんのカードが入った収納箱(ストレージ)を探る。「あったあった」と呟くと、中から1枚のカードを見せてきた。


「これ」

「ほん?」


 それを受け取って見る。


 そのカードには、前足が蝙蝠とよく似た翼の形状になっている、小型のドラゴンが描かれていた。




【ワイバーン】C

 [炎][種族・翼竜]

 消費魔力4

 戦闘力4000

 ダメージ1

 ・[飛翔]この魔物の攻撃は、この魔物より戦闘力の低い相手の魔物では防御できない。

 ・この魔物は相手の魔物を防御できない。




「翼竜……」

「すっごい珍しい種族なんだよ龍って」


 ロイがカードを仕舞う。

 この世界の言語は転生した時に頭に入ってきたので自然とわかるが、竜と龍は読み方が同じでも全く異なるものだ。

 同じ読みの「りゅう」でも種族の文字が違うのでワイバーンはサーチできない。


「……だったら人に見せてよかったのかな?」


 もしかすると希少な種族、しかもLカードとなるとルムのカードとしての価値はかなり高いのでは。

 子供の喧嘩で国宝級の武器を持ち出したとしたら、周りにいた子供が誰かに言って大ごとになっているかもしれない。


「どっかから盗んだと思われてないかな……」

「俺のこと拾ったんだから結局ネコババに変わりはないだろ」


「そ、それはそうだけど……」


 もともとルムは拾ったカード。ルムにその自覚はないが、封印から解かれるまでは誰かの持ち物だった可能性もある。

 何故そこに落ちていたのか、何故テキストが封印されていたのか。何故解読不能のカードをロイは使用できたのか。よくよく考えるとこのルムには不明であるところが多い。ルム自身も把握してないようなので、一層謎は深まるばかり。


「まあだいたい、今の俺見て龍だってわかるやついないって」


 手を広げて、自分の体を見下ろす。

 決闘でない今はその姿を隠している結晶のような美しい角。それ以外は年端もいかない少女である。

 人型の魔物も存在するため(ルムのように常時実体化して過ごしているのは聞いたことがないが)そこまで不思議ではない。


「まぁなんとかなるさ……あっ、このカード採用してみようぜ! こっち減らしてさ」

「楽観的だなぁ」


 能天気にロイのデッキ(自分の住処)の調整をしだす、年相応にしか見えない少女。微笑ましいが、カードで呼び出された魔物であることを忘れてしまいそうである。


「君はひとまず入れるけど、召喚された時の効果以外で何かないの?」



【天龍の少女ルム】L

 [光][種族・龍]

 消費魔力5

 戦闘力8000

 ダメージ2


【龍召魔法陣】召喚された時、[種族・龍]を山札から1枚手札に加え、消費魔力を−5する。

【転生龍……………(途中から解読不能)



 ルムのカードを見ても、後半の効果は全て解読不能になっている。効果を理解できなければ使用はできない。


「俺にもわからん! 俺も自分が何できるのかわかってない!」


 ニッコリとサムズアップ。

 無駄に可愛らしいが、清々しいまでに言い切った。ガックリと肩を落とすロイ。


「なんでそんな自信ありげなのさ……まぁ一番戦闘力高いからいいけどさ……」


 ロイの所持カードの中で最も戦闘力とレアリティは高いため、とりあえず入れておく。

 そのうち思い出して下の効果もわかるようになるかもしれないと、わずかな希望を込めるが、


「おっ、このカードのコンボ強そう」


 嬉々としてカードを選定している、全くこっちを気にしない少女を見ると不安になる。


 そのとき、家の呼び鈴が鳴らされる。


「こんな時間に誰だろ」


 もう時計の針は真夜中を指している。そんな時間に来客とあれば少々不信に思うのも無理はない。


「案外ロイのこと捕まえに来た組織だったり」


 ルムが茶化すように言う


「怖いこといわないでよ」


 洒落にならない

 玄関まで歩き、戸の鍵を外す。


「はーい」



 全身黒ずくめが立っていた。

 比較的整った顔をした金髪の男。優男のような顔だからか軟派な雰囲気を漂わせるが、隠しきれない緊張感が見える。

 にこりと笑みをこちらに向けた。


「夜分にすいません。少しお聞きしたいことがあるですが」


 その声は随分と穏やかだったが、ロイには威圧的にも聞こえた。


「龍のカードについてなのですが」


 ルムの怖いことが的中してしまったようだ。




読んでくださりありがとうございます。

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