プロローグ
新作です。あんまり長い作品になる予定はないです
それは不運だった。
俺は学校帰りだった。疲れた体を動かして自宅を目指す。その横断歩道の真ん中に落ちている、怪しく光る「何か」。周りには結構な人がいるのに、誰もそんなものに反応を示さない。
俺は「それ」を拾い上げた。
「カード……?」
何かが書かれたカード。手触りは滑らかで、光り輝いているので、何が書いてあるかがわからない。それは子供の遊び道具のトレーディングカードゲームのようだった。
それに俺は懐かしいものを感じた。
「危ない!」
誰かが叫んだ。
不思議なことに俺の周りの人物は居なくなっていた。それはそうだ。俺の渡る横断歩道の信号は赤で、他の人はとっくに渡り終えているからだ。拾ったカードに気を取られて、車道のど真ん中で立ち尽くしてしまう。
ゴムとアスファルトが擦れ合う耳障りな高音。
ブレーキ音のする方を見ると、狙いすましたようにこちらに突っ込む一般車両。
俺の記憶はそこまでだ。
「目覚めなさい」
「……」
五感が鈍い。夢を見ている時のような、不確かな意識があるだけだった。
見えているような、真っ暗のような。立ってるようで、そうでないような。
しかし、頭に響くその「声」だけは、はっきりと理解ができた。
「あなたは死んだのです」
これは夢だと。俺はそう思った。告げられたものはあまりにも唐突で荒唐無稽で。即座に信じる方が難しい。
「これは夢ではありません」
俺の思考を読んだかのような声。その否定に何の根拠もないというのに、俺はその声のいうことを全て信じてしまう。不思議な力があった。
俺は絶望した。そんな。自分の人生がそんな呆気なく終わるなんて。
「死んだ貴方をここへ留めたのは、貴方にどうしても頼みたいことがあるためです」
頼みたいこと?
「そう」
不明瞭な視界が、一つの景色を見せる。
それは、どこかの街並み。
時代は自分の時代よりだいぶ前、中世のような光景だ。
「ここは【神の理】に縛られた世界」
神の理?
「この世界ではこれを使った争いが全てを決めます」
何もない空間に一枚の「カード」が浮かんだ。片面は光で見えず、裏面は幾何学模様の柄で構成されている。
それはどう見てもこっちの世界でいうカードゲームのカードのようにしか見えなかった。
「貴方は生前そのような遊戯に興じていたのでここにお呼びしたのです」
確かによくカードゲームはしてたけど。
ふと見ていた景色の空に、流星のような光の筋が流れる。
「私がこの世界に落としてしまった【神々の欠片】を、貴方に集めてきてほしいのです」
今見えるこの流れ星のようなものが、その欠片というものか。
神々の欠片は具体的にはどんなものなのかわからない分にはやりようがない。
「欠片は神の力を宿したカード。この世界に落ちた時に姿を変えたようですね」
あんたはもしかして神様なのか?
「そう捉えてもらって構いません」
映像が途切れる。
その神様とやらは何故俺にそんなことを頼むんだ?
自分で蒔いたものは自分で拾えばいいじゃないか。
「……そうしたいのは山々ですが、神々の欠片が無くては本来の力が出せないのです」
若干の間の後、声は答えた。
それでも神様か。
「もちろん、成功の暁にはそれなりの褒美を与えます。あなたの願いをなんでも叶えてあげましょう」
いきなり神様らしいことを言うようになったじゃないか。
それを聞いて俄然やる気が出る。
「それでは貴方の運命を操り、貴方に相応しい契約者の元に導きます」
契約者?
「詳しいことは転生中に知識を与えます」
声が遠のいていく。
「ご武運を」
読んでくださりありがとうございます。
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