13枚目 オリジナルカード
メリケンはすぐ遅れるから駄目ですね。
地味に新章開幕です。
バトルなしのほぼ世界観語りですが許してください。
「課題終わったか?」
「……もう少しかな」
「これは全然やってないな」
予選終わりから初の週末、自宅にて。ロイは机にかじりついてカードと向き合っていた。この世界はカードゲームが全て。つまり学校の課題などもおのずとカード関連となる。
ロイの目の前にあるのは普段使っているカードだが、それらはすべて白紙のもの。さらに様々な記入欄のあるプリント。
「魔術回路書き写しに、……デッキコンセプト発表課題?」
「授業で作品を作って発表するんだ。強さのほかに、完成度や芸術点で評価されるよ」
「ふーん、面白そうじゃん」
いわゆる面白デッキ大会といったところだろう。娯楽に近い感覚でカードゲームを楽んでいるルムにとっては遊びの延長のような課題だ。
問題は机に散らばるカード。魔術符は魔物符と違い、人工的に作り出すカード。この課題では白紙カードに魔術式を書き写して簡単な魔術符を製作する。
何枚か書き込まれているがまだ半分以上残っている。
「手伝ってもらえないかなー、なんて」
「……しっかたねーなー」
机の向かい側に座ってルムもカードの書き取りに取り掛かる。
渡されたものは、魔術回路用のインクが入った書き込みペンである。そのインクには輝石を細かく砕いて混ぜており、魔力に反応して様々な反応を起こす。
「何枚作るんだ」
「【ファイヤアロー】をあと5枚、【魔力増強】を10枚だね、ここを写すだけでいいから」
「ほいほい」
指さされた教科書の書く内容を確認する。
転生時に頭に叩き込まれたため違和感なくルムには普通に読めているが、言語はすべて魔術回路用の言語で書かれている。
【ファイヤアロー】C
[炎]
消費魔力3
戦闘力4000以下の魔物を破壊する。
【魔力増強】C
[無]
消費魔力1
場の戦闘中の魔物1体の戦闘力を+2000する。
どちらも基本的な効果を持った初歩の魔術符である。これらの魔術回路は様々な魔術符の応用に使われている。
「しかし魔物符以外だけとはいえ自分でカード刷れる世界ってすごいな」
「神の理に認められないと使えないけどね。そっちの世界だと自分では作れないの?」
「こっちはあくまで娯楽の域を出ないからな。企業が玩具として刷ったものがこっちの世界のカードだ」
「神の理もないのにわざわざ決闘するなんて変わってるね……」
ロイは理解できないといった様子だ。ルムの世界で言うと無理にしなくてもいい勉強を自らしているような感覚なのだろう。世界も違えば価値観も変わってくるということだ。
そこでふとルムは思いついた。
「これさ、まだ白紙のカードが余ってんなら貰っていい?」
魔術回路の教科書を見ながらルムは呟いた。
「白紙ならいいけど……何するつもりなの?」
「なに、少しオリジナルカードを作ってみようかなって」
「さてと」
ロイの宿題も片付き、誰もいないリビング。宿題で疲れ切ったロイはまだ早い時間だというのに自室のベッドでぐったりと寝ている。
「書いてみるか」
この世界を包む神の理自体がカードゲームにおける「ルール」そのものとすれば、魔術回路はルムの世界のカードゲームにおける、「ゲームバランス」に類似する。
魔術回路は計算式のつり合いのようなもので、効果に見合った魔力を払うことによって発揮される。その均衡を破ったカードは基本的に神の理に認められず、決闘で使用できない。
「ファイヤアローの消費魔力を2に書き換えて……」
先程練習に書いたカード、ファイヤアローの消費魔力を3から2に減らす。すると炎の矢が描かれたカードは黒ずんで絵柄が消える。これがカードとしては使えない「エラー」の証拠である。
「戦闘力4000以下を破壊するには魔力が3必要、ね」
ルムは消費魔力の数字をもとに戻し、逆に破壊可能戦闘力上限を4000から3000に下げた。すると絵柄が変化した。
「【ファイア】か」
【ファイア】C
[炎]
消費魔力3
戦闘力3000以下の魔物を破壊する。
炎の矢はただの炎球に変化し、エラーは起きないが、ファイヤアローの完全下位互換が生まれた。これを実戦で使うことはまずないだろう。
しかしこのカードにはまだ書き込む余地がある。
「おそらく魔力1の対価が余ってるから、これで……」
効果の欄に、ある一文を付け足すと、またしても絵柄と名前は変わっていく。
【ファイアチャージ】C
[炎]
消費魔力3
戦闘力3000以下の魔物を破壊して、1枚引く。
余った1コストでできることは1ドロー。
ファイヤアローの効果のまま一枚ドローする効果を付け加えるためにはおそらく消費魔力を4にしなければならないだろう。
それでも消費魔力を抑えて効果を多く発揮したい時に使う、デメリット効果というものがある。
「ファイアチャージの破壊上限を戻して、これを入れて……」
【ファイヤバレット】
[炎]
消費魔力3
手札を1枚捨てて発動する。戦闘力4000以下の魔物を破壊して、1枚引く。
発動条件に「手札を1枚捨てる」という魔力以外の対価を払うことによって、得られる効果の負担を減らすことに成功した。これがデメリット効果である。数式で言うところのマイナスの感覚が近い。
「これまだ余裕あるな」
手札1枚捨てるというのは結構重たい対価らしく、書き込むスペースにまだ余裕があった。
【ファイヤレーザー】
[炎]
消費魔力3
手札を1枚捨てて発動する。戦闘力5000以下の魔物を破壊して、1枚引く。
試しに上限を上げたところ、上位のカードに変化した。エラーも起きておらず、決闘で使用することが可能なカードになる。
「……でも手札1枚を捨てるってのは後々響くんだよなー!」
頭を掻きながらできたカードを机の上に放り投げる。
セルフハンデスというのは、通常のデッキであれば後半リソースが枯渇し後を引く。しかしルムの世界だと、わざとエースカードを手札から捨てて破壊されたカードを復活させる「リアニメイト」と呼ばれる手法を用い、エースカードを召喚する戦法がどのカードゲームにも大抵はある。
一見二度手間のような戦法にも見えるかもしれないが、リアニメイトを行うカードが、呼び出すエースカードよりもコストが低ければ、高コストの早期召喚、連続的な使いまわしなどを狙うことが出来る。
ふとここでルムは思った。
こっちの世界にリアニメイトみたいな概念はあるんだろうか?
魔術回路の教科書をパラパラとめくってその項目を探し、それらしきものを見つけた。
「死霊術系、降臨術系……」
この世界で魔物を呼び出す魔物符は、ルムやゼオンなどの例外を除いて、魔物の召喚チケットのようなものである。魔力を込めることによって魔術符が起動し、異世界から魔物を呼び出す。なので「魔物が破壊されてカードが砕けて異世界に返還される」のも、「カードのみが破棄される」のも、「異世界の魔物へのチケットを失う」という結果としては同じ状態になる。
しかし、決闘中に一度破壊され、死んだものを蘇らせる死霊術の魔術符では、「手札から破棄された魔物」は死を介していないため、呼び出すことはできない。
ルム自身の効果も疑似的なリアニメイトであるが、効果にはきっちり破壊される必要があると明記されているため、手札破棄によって転生龍の帰還は発動できない。
「さすがにこっちの世界とはだいぶ勝手が違うんだな」
冷静に考えればそうだ。ハンデスからのリアニメイトは生まれてもいない存在を蘇らせているようなものである。
「破棄されたカードを釣ってくるには降臨術系の応用か」
降臨術。特殊な召喚を司る魔術符である。大まかにいうとデッキからの直接召喚など、様々な場所からの召喚術である。その中に、「破棄されている魔物符を再利用する」という回路があった。これを利用すればハンデスからの疑似リアニメイトが可能となるだろう。
しかし大きな問題がある。
「でも使うのはロイだからなぁ」
ハンデスを意識したリアニメイトはこのルールの特性上、デッキ構築、プレイングともに非常に難易度が高いのは明白である。ルムでも少し自信がない。
「手札破棄のデメリット効果を組み込むのはまた今度にするか」
話がそれたが、教科書をもとの基礎ページに戻す。
あまり気にならない具合のデメリットをつけて、どうにかこの破壊してドローもできるローコスト魔術符ができないか画策していた。何を犠牲にして、何を得るか。前の世界のカードゲームには、コスト詐欺みたいなカードなんかいくらでもあった。しかしそれは娯楽だから許されたバランス崩壊である。この世界はカードゲームがルールそのものであるためそうはいかない。
そしてあることを思い出す。それはこの悩みの答えでもあった。
「……あっ、そうだ! あの書き方はどうなんだろうか」
ルムはカードにペンを走らせた。
読んでくださりありがとうございます。
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