11枚目 転生の龍
ちょっとts要素あり
一方その頃、決闘場。
「俺はこれでターンを終わる!」
「ぼ、僕のターン──!」
ロイはデッキからカードを引く。
その引いたカードを見たロイは思わず顔をしかめた。これを前のターンに引けていたらルムを破壊されることはなかったのではないか、と。
しかしルムが言っていたことを思い出す。カードゲームにおいて「たら、れば」の話ほど不毛なものはない。そう言わなくていいよう、先を見据えた最善の手を出すのだと。
手札6→7
魔力0→6
ライフ9
ルムが破壊され、戦況は悪化の一途を辿る。
ガインの戦略は見事に成功していた。新たに追加したアダマンウルフを盾に小型の狼を守り、強化されたハイホーンウルフで各個撃破。
「小僧! 勝てる算段はあるのだろうな!」
「そ、れは……」
盤面には戦闘力7000、もう効果を発揮し終えたトーラ、ターンに一度までなら破壊されても再生できるスライミーの2体。
「僕は……」
ロイは考えた。今の戦況では攻めることも守ることもままならない。ルムならどうやるか考えた。
なぜそうなったか?それは最大戦力であるルムを使っても突破できない魔物が出てきてしまったからだ。
どうやったら突破できる? あの小型の狼を除去できなければ大型魔物は強大な力を持ったままだ。しかし戦闘を介した破壊はあの2体がいる限り困難を極めるだろう。
そう、戦闘による破壊ならば。
「魔術符、【アロウフレイム】!」
【アロウフレイム】C
消費魔力4
自分ターンに発動できる。
相手の戦闘力3000以下の魔物全てを破壊する。
手札7→6
魔力6→2
ロイの目の前に魔法陣が出現。いくたの炎が矢のような形に形成される。弓も無しにその矢達は、山なりに相手陣営へと降り注いだ。
「キャイン!?」
ちょうどアダマンウルフに近づいていて油断していた横っ腹に矢を受けた狼はそのまま炎に包まれ、焦げるようにして黒ずんだカードになって消え去った。
少しアダマンウルフが残念そうにホーンウルフのいた場所を一瞥したがすぐさま前に視線を戻す。それはわずかな怒りの色を宿していた。
相手盤面の狼はこれで2体。
「これで少しは戦闘力が下がったでしょ!」
「けっ、それでもこっちの方が有利に変わりねえよ!」
そう、それでもアダマンウルフが防御した場合は戦闘力+2000され8000、トーラでは突破できない。
「……ターン終了!」
「俺のターン! 俺は手札の最後のホーンウルフを召喚!」
最後にサーチしたホーンウルフが場に出現。全てのホーンウルフを引き切っているため[率いる群れ]は発動するが意味がない。
手札7→6
魔力7→5
「へっ、次はお前だ! ハイホーンウルフ! 灯龍トーラに攻撃! [標的]!」
「グルル……」
戦闘力は3000追加され9000。トーラの戦闘力7000をゆうに超える。体格の差はあるが数値という確固たる差がある以上、戦闘で勝てることはない。
「このっ、犬っころめが!」
高速でトーラの周囲を駆け回り、翻弄する。トーラも負けじとレーザーブレスを吐き応戦するが、擦りもしない。ハイホーンウルフにとって蚊が止まってしまいそうなほど愚鈍に感じるだろう。
「【ファイヤアブソーブ】!」
【ファイヤアブソーブ】C
[炎]
消費魔力2
相手のターンのみ使用できる。相手の攻撃を無効化し、相手の3000以下の魔物を1体破壊する。
カードを1枚かざす。
手札6→5
魔力2→0
これが先ほど引いた1枚。
アシルが使っていた【ダークアブソーブ】の炎属性版。攻撃を一度無効にする共通効果を持つ流行防御札である。
この【ファイヤアブソーブ】はシリーズの中でも「指定戦闘力以下の相手魔物を破壊する」という追加効果は、「相手にダメージ」という効果が腐ることのない【ダークアブソーブ】に比べればレアリティが低く、ロイでも簡単に入手することができたのだ。
炎がトーラを包むように壁を作る。その熱に気圧され、ハイホーンウルフは後退した。
その業火はいくつもの火球を作り弾けた。ハイホーンウルフは至近距離だというのにその火球など事もなげに避け、アダマンウルフは火球の熱をものともしない。
「キャン!?」
離れていたはずの、先ほど召喚されたホーンウルフに直撃。またもやその小さな体を焦がし消滅した。
炎が消え去り、トーラが姿を表す。その鱗に火傷は一切見られない。
「フン。小僧に助けられるとはな」
「こ、これでこっちの魔物はもう倒せない!」
攻撃可能魔物はアダマンウルフが残っているが、アダマンウルフの素の攻撃力は6000であり、攻撃時にはその能力を発揮することはできない。
「ちっ……ターン終了だ」
「僕の……っ!」
ロイの輝石に光が宿る。
「ターン!」
カードを1枚引く
手札5→6
魔力0→7
「だが時間の問題だな」
ガインはつまらなさそうに手札を見る。ルムを倒すという彼の目標は達成し、勝ちも見えてきているので心理的余裕を持っている。
ロイの方は決して有利とは言えない。未だ相手の盤面は攻守に優れた魔物が存在する。こちらは守ることで精一杯だというのに。
しかしロイの目は諦めていなかった。
「……まだ」
「あ?」
「まだ、負けて、ない!」
「……」
ガインは意外そうな顔をしたが、すぐさまニヤリと、牙のように鋭い歯を見せて笑った。
「いいぜ! 来いよ落ちこぼれ!」
叫び、挑発した。
決闘は熾烈を極める──
「くっそ、何もねえ」
ルムはどこかもわからない浮遊島の森をただひたすら歩いていた。相当な広さらしく、いつまで歩いても歩いても木々しか見えてこない。
流石のルムもイライラしてきたのか歩みが乱暴になってくる。
「仮にここがロイの言ってた【異世界】だとしても、魔物がいなさすぎる」
あの世界で戦う魔物は異世界から呼ばれた魔物だ。破壊されればそこに戻るらしいが、ルムが見たものは遠くを飛ぶワイバーンらしき翼竜のみである。
「というかビルラビットがいないのもおかしい。ここが異世界ならいると思ったんだが」
決闘で破壊されたビルラビットは異世界に送還されるはず。これは事実でありその兎がいないのは不自然だ。
しかしそこでルムはふと気づく。
「もしかして、魔物によって戻される島が違う……?」
この島が浮遊し、数多存在する理由。ビルラビットはビルラビットの住む島に戻されたのではないか?
自分は一応[龍]なので[魔兎]のビルラビットとは違う場所に送られたのだとしたら辻褄が合う。
「あー。そういうことなのか? なら待ってたらトーラもここにくるのか?」
ルムは手をポンと叩き納得した。だが同時にあることにも気付いてしまう。
「ん? でもじゃあ俺がいるこの島って」
その時だ。
「わっ!?」
突如、体がさらわれてしまいそうなほどの強風が吹き荒れた。轟々と吹く風に目は開けず、全ての音がかき消される。
だがその剛風の中でも聞こえる声。
『見ない顔だな、新入りなど何千年ぶりだろうか』
地の底から聞こえてくるような、体の芯に届かせてくる低い声。
ようやく風が弱まり、ルムは目を何とかその声の方を見た。
そこにいたのは。
巨大だと思っていたトーラよりも、遥かに巨大。鱗と翼は真紅、岩石のような漆黒の角。
その前足が大地を踏むたびに地が揺れる。
「龍……!」
「お、おい……まだ決着がつかねえのか?」
「あの落ちこぼれがか?」
会場がざわつく。それは未だに決着のつかぬ2人の決闘者にある。
すでに10数ターンは経過しており、
「魔術符【魔力増強】! 戦闘力+2000、合計9000のトーラで攻撃!」
眩い光線がトーラから放たれる。
「ソードウルフで防御だ!」
角のように剣を生やす狼が盾となり、ガインを攻撃から守る。一瞬にして塵と消える狼。
「続けて【ポイズンザビー】!」
「アダマンウルフ!」
飛び回る巨大な蜂がアダマンウルフに向けて針を射出。その針はアダマンウルフの毛皮に弾かれる。
アダマンウルフは跳躍しその蜂を地面に叩きつけた。文字通り虫を潰すようにポイズンザビーを撃破。
しかし。
「ポイズンザビーは戦闘した魔物をこのターン行動不能にする!」
着地したアダマンウルフの体を、潰した虫の毒が蝕む。苦しげに呻いて地に伏す。
「これで2回目の防御は行えない! ビックマンティス!」
「アアアア!」
がら空きとなった決闘者へ大鎌が襲う。障壁は砕け散り、残光を残して消えた。
ライフ4→3
「俺のタァン!」
魔力0→16
手札4→5
「【ジェネウルフ】!【シルバーウルフ】!」
顔に傷のある狼、銀の毛並みをもつ狼。どちらも上級の魔物だが魔力の溢れるこの状況では召喚など容易である。
もはや何でもありの戦場だった。
手札5→3
魔力14→2
【ジェネウルフ】C
[魔狼][無]
消費魔力6
戦闘力6000
ダメージ2
・[指揮][魔狼]全てを+1000する
【シルバーウルフ】R
[魔狼][光]
消費魔力6
戦闘力5000
ダメージ1
・攻撃時、戦闘で相手の魔物を破壊した時、もう一度攻撃できる。
「行けぇ! ハイホーンウルフ! 」
場の狼は4体。追加のジェネウルフの効果あわせ11000の戦闘力。
「魔術符!【スタンウェーブ】!」
【スタンウェーブ】C
消費魔力4
相手の攻撃時に発動可能。
自分の魔物1体を指定する。その魔物はこのターン行動できない。指定した魔物の戦闘力以下の魔物全ては行動できない。
「ウグアァァァアァァ!」
トーラがうめき、咆哮した。窓ガラスが割れ、鼓膜が破れそうな轟音が会場を包み、観客も思わず耳を塞ぐ。この魔術符でトーラ行動権と引き換えに、戦闘力7000以下の魔物全ては敵味方関係なく行動できなくなる。
「これでトーラは標的で防御不可能!」
「じゃあダメージ2を食らいな!」
巨躯がロイの障壁を吹き飛ばして激痛を与える。
「うぐっ!」
ライフ3→1
痛みに片膝をつく。
「ふん、ターン終了」
「僕の、ターン!」
自分の腰のデッキに手をかける。
手札3→4
魔力0→16
ライフ1
あれから長いターンが過ぎた。もはや殴り合いのようにな決闘を、皆が見守っていた。
防御不能化、攻撃無効、戦闘力アップ。あらゆる手を使って攻撃の要であるトーラを守りつつ戦った。ハイホーンウルフの標的の中、ここまで生き残っているのは奇跡としか言いようがない。
だが、もうそれも限界が近い。
「グズにしてはなかなかやるじゃねえか……!」
「……」
肩で息をする。痛みで意識が朦朧とする。
(どうすればいい? どうすれば……)
指に力が入らず、デッキトップのカードが重い。
ロイの視界は、じわじわと黒くなっていった────
一方異世界ではルムが龍と接触していた。
『我が名はゼオン』
大地が揺れる。ルムとは大きさも荘厳さも桁違いの爆音だ。その名乗りで大地に亀裂が走った。
『焔皇龍、ゼオン也!』
ゼオンと名乗ったその龍は、ルムの姿を視認すると、興味深そうな声を上げた。
『ほう……?』
「な、なんだよ!」
真紅の龍が長い首をルムの目線まで下ろした。その迫力に腰を抜かし、尻餅をついてしまう。
その龍はこう言った。
『美しい』
「へっ?」
唐突な称賛に間抜けな声を漏らすルム。
『それでいてこれまで見てきたどの同胞より異質。だがお前は美しい。』
「そ、それはどうも……?」
龍とはいえ褒められて悪い気はしない。素直に礼を言う。
「でもその美的センスはどっち基準なんだ……?」
『我ら龍は見た目など見ぬ。魔力、魂、その者の本質を見るのだ』
「そっすか……」
トーラの時もそうだったが、龍は龍独自の基準があるのだろう。
『お前、名はなんという?』
ルムは転生者であり、元人間だ。幼い魂というのはそれを感じ取っているのかもしれない。
「お、俺はルムだ。天龍のルム!」
精一杯の大声で答える。自分のカード名にあった天龍を名乗って。
「もうちょっとスピード落とせませんかねー!?」
『はっはっは! 落ちても死にはせんが、振り落とされんようようしっかり掴まれ! 拾いに行くのが面倒だからな!』
眼下に広がる大空。真上も大空。大地という概念のない浮遊島の世界にてルムはゼオンの背に乗って空中散歩と洒落込んでいた。
背に乗るといっても、ゼオンの大きさと速度では屋根なし航空機である。魔物化した身体能力でなかったら速攻で振り落とされていただろう。
『見よ。あれが溶岩族の砦、あの島が怪鳥の楽園だ』
横にはマグマの噴火する火山の島、豊かなオアシスのような島。遠間隔に様々な島が見え、それを案内してもらっているのだ。
『ルム! この世界がなぜできたか知っているか!』
「確か、大昔にどっかの変態魔術師が作ったんだよな?」
ロイの教科書からちらと見たこの世界の歴史。1000年以上前にブルック・ルーによって引き起こされた大魔術【神の理】によって生まれたこの世の秩序。
『いかにも! ここは無数の島からなる魔物だけの世界。ここでは死という概念が存在せぬ。魔物は永遠をこの世界で生きることとなる』
ルムが先ほどから感じる謎の多幸感もそれが原因であろう。空腹も痛みもない。
『各島々には種族ごとの魔物が生息している。お前がいた島は空席、なのでお前の島とも言える』
通りで歩いても歩いても生き物に出会えないはずである。
『通常、島を覆う結界で魔物はその島から出ることは叶わぬ!』
「えっ?」
ルムは思わず声をあげる。現在絶賛脱出中だからだ。
『はっはっは! この魔物の頂点に立つ龍を舐めてもらっては困る! 島の結界など我を阻む要素になりはしない!』
「龍ってすげーな……」
『貴様も同族だぞ』
そんなことを言われても、ほとんど人間の体で元人間のルムにそんな自覚は全くない。せいぜい角くらいか。
気づくと眼前には一際大きな島。周りの5、6倍はあるかという巨大さ。
『着いたぞ』
「どこに?」
『我の住処だ』
そこは先ほどいた島よりかは緑は少なく、禿山が目立ち、荒れ果てた印象を受ける。
いくら目をこらしてもルムとゼオン以外の魔物は見当たらない。ゼオンだけが住む島のようだ。
『この世界を統べるのは我ら龍族。ここ一帯は我の縄張りだ』
「どこかにゼオンクラスの龍ってまだまだいるってことなのか?」
『ふん、いるが隣の奴は好かぬ』
ゼオンと馬が合わない龍らしく、心底嫌そうな顔(といっても龍の顔だが)で鼻を鳴らす。こんな巨大な存在がまだまだこの世界にいるとはスケールの大きな話である。
「んで、なんでここに俺を呼んだんだ」
『うむ。それなのだが』
シートベルトなし絶叫マシンから解放され、地に足つける安心感にホッとしていると、ゼオンが改まったようにこちらに向き合った。
『一目惚れだ。我のモノになれルム』
「ふぇ?」
唐突なプロポーズ。それに面食らったルムは間抜けな声を上げてしまう。
『その清廉な魂、無垢な魔力。我はお前が欲しい』
「い、いやちょっと……」
巨大な顔を近づけ、鼻息荒く褒めちぎってくるドラゴンに生前が男のルムでも困惑はするが悪い気はしない。
「いやでもゼオンはオス……だよな?」
『龍に性別などないに等しい、なんの問題はない』
ゼオンからしたらなんの問題もないかもしれない。だがルムはそんなわけにはいかない。
「い、いやぁ……」
人差し指を合わせ照れる仕草は無意識ながらも愛らしい少女そのもの。
転生前から、ここまでのストレートな好意をぶつけられたことのない中身が童貞男子であるルムには、どのようにして断ればいいのかわからないのだ。
そして人ではなく完全な龍に言い寄られているため同性である嫌悪感が薄い。巨大な龍と契約するファンタジー物のようでどこかワクワクしている自分がいたのだった。
『ふむ。お前に合わせれば問題はないか?』
「え」
ゼオンの体が炎に包まれ、徐々に小さくなっていく。
「これでどうだ?」
赤に黒のメッシュが入った髪、赤き衣を纏う端正な顔立ちの青年がそこに立っていた。
「我くらいになれば姿など飾り、本質は中身である」
「え、えと」
じりじりとその距離を詰めていき、ルムも後退していたが、ちょうど後ろにあった岩に背がついてしまった。
「我と共にここに住め、永遠に」
ゼオンが壁に手をつくいわゆる壁ドンとやらの姿勢となる。人型とはいえルムよりもはるかに巨大な背丈の男に言い寄られ──
「や、やっぱ無理だ!」
拒絶の言葉をはっきりと口にした。
「な、なぜだ!? 我、高位の龍! 魔物の頂点ぞ!?」
「ちょっとカタコトになってんじゃねーよ!」
人型になったことで同性に言い寄られる嫌悪感の方が勝ったのだ。正気を取り戻したルムはゼオンの脇下をくぐるようにして逃げる。
「っく、ならばこれはどうだ」
また炎に包まれさらに体が小さくなる。
現れたのは、先程の青年を少女にしたかのようなとても気の強そうな美少女だった。歳はルムと同年代のように見える。
「お前はそういう趣味なのだな! 我ら龍族にとって姿など」
その口調にに合わず声も鈴を鳴らしたように美しい。すっかり同じになった背丈、しっかりと目を合わせて肩を掴まれる。
男の感覚からするとこんな美少女から言い寄られれば満更でもないに決まっているが、ルムは現世で待っている相棒を裏切るほど薄情ではない。
「それでもダメだ!」
「ぐぬぅ……」
可愛らしい少女になったのが余計ルムに良心の呵責を感じる。
「俺は、この世界にずっといるわけにはいかない」
「……お前、人間と契約しているのか」
それをいうと、ゼオンは悔しそうな表情をする。
ルムには目的がある。神の欠片を集めて元の世界に帰ること、決してこんなところに閉じ込められることではない。
「それに俺が今こうしている間にロイは戦っているんだ! こんなところで遊んでられるか!」
おそらく今ごろ決闘は佳境を迎えているだろう。ロイはまだまだ未熟だ。きっとガインに追い詰められてるに違いないと、ルムは踏んでいた。
そう言ったとき、ルムの体にある痣が光る。
「おっ!?」
痣が疼くと同時に、ルムに現在戦っているロイの姿が見えた。そして自分の能力を「把握した」。
本能で理解するかの如く。
「これが俺の追加効果……!」
新たな力の解放に喜んでいるルムを尻目に、振られてしまったゼオンの暗い声が響く。
「……我よりその人間を選んだのか?」
ゼオンは俯いてワナワナと震えている。
「だから気持ちは嬉しいけど、そういうことで……」
「……我より……劣等種を……?」
「ん?」
しばらく考え事をしていたゼオンは、何かを決心したように顔を上げた。
「……そうだな、我も現世に落ちるとしよう」
ゼオンから嫉妬の炎が溢れた。
その頃決闘場では。
「……?」
ロイは手にかけたカードが熱を帯びているのを感じた。燃えているかのように、熱い。それは痛みとなってロイの痛覚を刺激した。
「あっつ!?」
唐突に来た痛みに自分の指先を見る。しかしそれに変化はない。再び触ると、何も変わらない、いつもの山札だった。
「なんだったんだろ?」
怪訝に思ったが、今はそれどころではない。そのカードをそのまま引く。
「ん?」
引いたカードに見覚えがない。ロイの知らないカードなのだ。そしてそのカードは。
「また読めないカード!」
それは最初にルムを拾ったときのように、掠れてテキストが読めないカードだった。ただルムのときと違うことといえば、今度は絵柄すら目視できないということである。
「ロイ! ロイ!」
「えっ? ルム!? どこ!?」
破壊されたはずのルムの声が聞こえる。久しぶりにも感じるその声を探すが、どこにも彼女の姿はいない。
「ルム様! よくぞご無事で!」
トーラも安堵の声を漏らす。しかしそれとは裏腹にルムの声は緊迫したものだった。
「異世界だ! 俺の新しい能力で話せるようになったんだ!」
「えっ?」
『こやつがお前の契約者か』
「誰!?」
聞き覚えのない声が響いた。それは先程ドローした読めないカード。
『我は貴様に使われる気など毛頭ない。これは我の、ルムを助けるためのものだ。勘違いするでないぞ人間』
「あっ、なんかデジャブ!」
ゼオンは我、を強調して言った。トーラもロイに対して似たような態度だったことを思い出す。その瞬間、カードが光りテキストが現れる。
【焔皇龍ゼオン】L
[炎][種族・龍]
……以下全て解読不能。
「いや全然わからないや……」
「ロイ! 話は後だからゼオンを手札から捨てろ!」
「えぇ!?」
「なにまた1人で盛り上がってんだよお前」
ガインは呆れたようにいうがロイはそれどころではない。
いきなり新しいカードを捨てろとは。ゼオンの口ぶりからゼオンが力を貸してくれるのではないのか?
話が見えてこないロイはルムの言われるまま、先程せっかくテキストが見えてきた【焔皇龍ゼオン】を手札から捨てる。
ルムの【龍召魔法陣】と似た魔法陣が現れ、火柱が上がった。
【天龍の少女ルム】L
[光][種族・龍]
消費魔力5
戦闘力8000
ダメージ2
・【龍召魔法陣】召喚された時、[種族・龍]を山札から1枚手札に加え、消費魔力を-5する。
・【転生龍の帰還】この魔物が破壊されているならば、手札の[種族・龍]を持つ魔物符を捨て、異世界から召喚する。このとき、この魔物は捨てた[種族・龍]によって変化する。
・【………以下解読不能テキスト
『受け取れ、我の力の一端を』
『紅き空より来る』
ロイの口から詠唱が溢れる。全ての言葉に魔力が流れ、新たな魔物を呼び起こす。
「またこのパターンかよ!」
前回も同じ展開を見ているガインの心からの叫びだった。
『焔を束ね』
天に掲げたロイの右手には何もない。しかし、そこに炎が収束し、新たなカードが出現した。それを掴むと最後の詠唱を終える。
『龍となれ!』
「【焔龍の少女ルム】召喚!」
火柱を天からの光線が貫き、炎を振り払った。火柱が収まった時、その魔法陣の中心の中にいたのは、白銀の髪を持つ少女。ルムだった。
しかし今までの彼女とは様子が違った。
「ルム……?」
いつもの長杖はなく、手ぶらだった。本来、様々な色に変化する毛先は、燃えるように赤く、透明な鉱石のように透き通った角は冷えて固まった溶岩のように漆黒。
鋭い爪が見える手足、それは赤い鱗に包まれていた。服の下からは尻尾が見える。
ゆっくりとロイの方を振り向く。その瞳は血のように真っ赤だった──
「あとは我に任せるがいい。ロイ」
ニヤリと笑って、言った。その表情は別人のようだが、ロイの名前を確かに呼んだ。
ルムの背中から炎が勢いよく噴出。それは翼となり、舞い上がった。
ロイはその熱さに腕で顔を覆うが、顔をあげた時には、もうルムは決闘場のはるか上空だった。
「なんと狭い場所よ」
ルムが手を掲げる。ロイが確認できたのはそこまでだ。なぜなら目が潰れてしまうのではないかというほどの強い光が会場を襲ったからだ。
小型の太陽が出現した。
会場の屋根は完全に破壊され、大穴が開いた。会場にいた観客の何人かが逃げまどうのが見える。観客席には決闘用の結界が貼ってあるので安全だと思われるが、こんな終末めいた光景を見れば恐怖するのも無理はないだろう。
「え? あ? ……え?」
ガインはその光景に間抜けな声しか出せなかった。信じられないものを見たと言った様子だ。腰を抜かし、尻餅をついている。
「消え去るがいい! 【終末の夕暮】!」
【焔龍の少女ルム】L
[炎][種族・龍]
消費魔力9
戦闘力10000
ダメージ3
・【終末の夕暮】召喚時、この魔物以外の全ての魔物を破壊する。この効果で破壊された魔物は効果を使えない。
・この魔物は破壊される時、【天龍の少女ルム】に変化する。
その太陽が、戦場へと放たれた──
なるべくカード生成とか避けたかったんですけどね。仕方なし。
感想など待ってます。




