10枚目 リベンジ
お久しぶりです。今回も前後編です。
予選2ブロック目の決勝。このブロックの中での一番が決まるということで、歓声も一際大きい。
そんな多くの観客が見守る中、
「輝石!」
「輝石よ!」
戦いの火蓋は切られた。
「僕の先攻!」
カードを1枚引いて手札は6枚。
「前と同じなら狼系のカードで展開してくるはずだが、油断はするな」
「もちろんわかってるよ」
ルムの初召喚の際は【ホーンウルフ】などの召喚された際に仲間をサーチ、決め手は狼の数だけ強化される【ハイホーンウルフ】などの種族を重視したシナジーデッキであった。
ロイが手札のカードを1枚選ぶ。
「【スライミー】を召喚!」
現れたのは、半透明な体を持つ粘液の魔物。
【スライミー】C
[水][粘魔]
消費魔力3
戦闘力1000
ダメージ1
・この魔物はターンに1回まで戦闘では破壊されない。
ロイの目の前に落ちてだらしなく広がる。
徐々に形を保つようになり、ようやく纏まる。
「僕の番は終わり!」
ロイの輝石の輝きが消える。
「相変わらず弱そうな魔物だぜ」
「その弱いのに負けたくせに」
ルムが小さく呟くが届いていないだろう。聞こえていたら激怒しただろうが。
「俺の番!」
1枚引き手札は6。魔力は4。
「あの時以来、頭ン中で何度もお前を倒した」
ガインの手札を握る手に力が入り、カードが歪む。その顔には悔しさがにじみ、相当堪えたと見える。
「それを今本当にしてやるよ! 出ろ! 【ホーンウルフ】!」
【ホーンウルフ】C
[闇][種族・魔狼]
消費魔力2
戦闘力3000
ダメージ1
・[率いる群れ]召喚された時、【ホーンウルフ】1枚を山札から加える。
ガインはまたもや前回と同じくホーンウルフを繰り出す。
角を持つ狼がカードから実体化した。
「[率いる群れ]!」
狼が吠える。
召喚時効果により山札から同名カードを1枚加えた。
「もういっちょ!」
先ほどサーチしたホーンウルフをそのまま召喚。
同じ魔物が2体並んだ。
「[率いる群れ]!」
狼が吠えて手札が増える。
「ホーンウルフ、攻撃しろ!」
ガインが指示をすると、ホーンウルフが角を突き立てるかのように突進する。
「スライミーで防御!」
不定形の生物が走ってくる狼に立ちはだかる。そのまま角で貫かれ、スライミーの体は散り散りに砕けた。
何の手ごたえはなかったかのようで、少し首をかしげてホーンウルフが自陣営に戻っていく。
しかし飛び散った破片は動いている。ゆっくりと破片が集まり、1つになっていく。そして元通りのスライミーに戻っていた。
「スライミーは各ターンに1回だけ破壊されない!」
「気持ちわりぃ魔物だな」
ガインが唾棄するように悪態をつくと、もう1体のホーンウルフに攻撃指示を出した。
「これは防御しない!」
「ガァァッ!」
ホーンウルフの角がロイの障壁を砕く。残りライフ9。
スライミーは1ターンに1度だけ破壊されない防御の壁となれる魔物。だがいくら不定形生物とはいえ低級で、再生能力にも限界があるため1ターンに1度のみしか再生はできない。
ガインがターンを終える時には体を完全に修復し、元通りとなっていた。
「ルムのチョイスだよねこれ」
「今のところ寄せ集めみたいなデッキだからな。汎用性ありそうなカード入れるしかない」
「……悪かったよ」
少しはぶてたようにターンを開始。
カードを1枚引き手札6枚、魔力は4。
「次はこれだ! 【ビルラビット】!」
「ふっきゅう!」
待ってましたと言わんばかりに元気よく実体化し、飛び出してくる兎。
【ビルラビット】C
[自然][種族・魔兎]
消費魔力1
戦闘力1000
ダメージ1
・[献身]破壊されたら山札から1枚引く。
手札6→5
魔力4→3
「魔術符【サクリファイス・コンタクト】!」
【サクリファイス・コンタクト】C
魔術符
消費魔力3
・手札1枚を捨てる。捨てたカードと同じ消費魔力、同じ種類のカードを山札から選んで手札に加える。
「消費魔力5の魔物符【怪虫ヘラーク】を捨てる!」
手札5→3
魔力3→0
地に魔方陣が発生し、選んだ手札をそこに投下。そのカードが魔術符に描かれた魔法回路に認識され、サーチを開始する。
「これにより僕は山札から消費魔力5の魔物符を手札に加える!」
腰の山札から選出されて射出される。宙を舞うサーチカードをつかみ取った。
手札3→4
「ちっ……」
一度戦ったガインならば何をサーチしたかは大方予想がついているのだろう。事実ロイもサーチしたカードは天龍の少女ルムである。
このデッキの最大戦力であるルムを早々に引き込むため、ルムに触ることのできるサーチカードを多々採用しているのだ。
「僕が手札に加えたのは【天龍の少女ルム】」
つかみ取ったカードが喋る。
「次のターンから早速仕掛けるぞ」
デッキの中にいた時よりもはっきりと鮮明に。
「うん。僕のターンは終わり」
現在ロイの魔物にホーンウルフを超える戦闘力を持つ者はいない。スライミーとビルラビットで捨て身攻撃を仕掛けても相手のライフは削れず、ビルラビットの破壊時効果で1枚引ける可能性があるが、それではリターンが少なすぎる。
ガインの輝石に光が宿る。
手札6→7
魔力4→5
「けっ。俺が戦った時より厄介になってやがる」
初戦のルムはトーラが無く、戦闘力の高い魔物でしかなかったが、現在のルムは出る際に強大な龍を連れてくる。自身も強力なだけに厄介なこと極まりない。
しかしガインも全くの無策で来るほど愚かではなかった。
「【アダマンウルフ】を召喚!」
【アダマンウルフ】H
[光][種族・魔狼]
消費魔力5
ダメージ1
戦闘力6000
・[孤高の掟]この魔物は自分の場に[魔狼]が5体以上いるならば攻撃、防御を行えない。
・[硬質化]この魔物が防御するとき、[種族・魔狼]の数だけ戦闘力が+1000する。
・[ハイスタミナ]この魔物は1ターンに2回まで防御できる。
召喚したのは美しき白狼。しかしその毛並みは普通ではなく、毛ではなく硬質な金属のようだった。その証拠に体が揺れるたびに鳴る音は体毛のそれではない。剣がぶつかるような金属音。
オォォォ!
会場が揺れるほどの大音量。その体躯に違わぬ威圧感のある遠吠え。
「見たことないカード!?」
「前とは違うってことだな!」
何度か戦ったことのあるロイも、そのカードを見たことはなかった。
「行け! アダマンウルフ!」
攻撃の指示を出す。全身凶器の狼が飛び出した。戦闘力6000の攻撃が迫りくる。
「スライミー!」
粘液体の魔物が立ちふさがるが、一瞬で轢かれ原型を失った。散らばった破片がなんとか一か所に集まるが、次また攻撃を受けてしまうと今度こそ終りだろう。
「続け! ホーンウルフ!」
先程より小型の狼が牙をむき襲い掛かる。
「ビルラビット! お願い!」
「ふきゅう!」
羽の耳を持つ兎が闘争心むき出しで立ちはだかる……が、そのままホーンウルフの角で一突きで吹き飛ばされ転がっていく。
「ふきゅ……」
「な、なんかいつもごめんね……」
気にするなといった様子で首を振り、最後の力を振り絞って光球を放つ。その光が腰のホルダーに吸収され、ロイの山札からカードを1枚引かせる。それを見届けたビルラビットは黒ずんだカードになって砕け散った。
手札4→5
「もういっちょ!」
別個体のホーンウルフが駆け出した。場にいる防御可能な魔物は体を修復中のスライミーだけ。
「防御しない!」
ロイは毎ターン一度は防御可能なスライミーを温存する判断に出た。
鋭利な角はロイの障壁を打ち砕いた。
「……っ」
痛みに顔が歪むが何とか耐える。
ロイの残りライフは8。
「俺のターンは終わりだ」
「僕の……ターン!」
魔力4→5
手札5→6
手札からある1枚を選び、天に掲げる。ロイの切り札であり、最高戦力。
彼の戦いはこの瞬間のために。
「いくよ!」
「おう!」
『遥か空の彼方より来たる!』
魔力を持つ言葉は大きな力を。
『光を纏い、龍を呼べ!』
光柱が会場を貫く。その光が収まり中心地にたたずむのは1人の少女。
「【天龍の少女ルム】召喚」
水晶のように透明な角。白銀の髪の毛先は虹彩を放つ。美しい少女は勝気な表情でガインを見据える。
大地に杖を突き立て、魔法陣が現れた。
「龍召魔法陣!」
足元から生まれる光の粒子は形を成す。
「出番だトーラ。力を貸してくれ」
『御意。ルム様のためならば』
魔法陣から生み出されるカードに話しかけ、それをロイに向かって投げた。カードを受け取り、そのまま詠唱が始まる。
『優しき光よ、照らされし者に新たな力を!』
「【灯龍トーラ】召喚!」
欠けた翼、山吹色の鱗、琥珀色の眼。何より巨大な体。威圧感の権化がこの戦場を見下ろしていた。
「貴様に癒しと知恵を」
かの龍の能力は召喚時1枚ドロー、ライフ1回復。暖かな光がロイを包んだ。
手札6
ライフ8→9
魔力5→0
「やっとおいでなすったか。あの時のリベンジだ!」
この巨大な魔物群を見てもなおガインの戦意は喪失しない。それどころか好機とばかりに士気が高まる。
「でもあのアダマンウルフをどう突破するか……」
そう、アダマンウルフの効果である[硬質化]は、先日の決闘でガインの召喚した【ハイホーンウルフ】の[群れの長]と似た効果だが、アダマンウルフのこれは防御時に発揮する。現在の状態でアダマンウルフが防御を行えば他の狼と自身を含め+3000され、戦闘力は9000となり、ルムやトーラですら突破できない。ロイの十八番である【ブレイブブースト】も戦闘力が同じでなければ使えず、相打ちに持ち込むこともできない。
さらに防御を2回行える効果を持ち、数による優位すらものともしない。ハイホーンウルフと違い防御に振り切った魔物だ。
ただしこのアダマンウルフは自分の場の狼が多いと防御と攻撃ができなくなる能力を持っており、上記の効果を1つも使用できない。いわゆる強力だがデメリットを持つ魔物である。
相手の場を見ると、小型のホーンウルフがアダマンウルフに近づいている。
「クゥン」
「……」
アダマンウルフは喉を鳴らして威嚇。味方だと言うのにずいぶん邪険にしている。だがその硬そうな尻尾を振って決して本気で嫌がっているわけでは無いようだ。孤高という割には狼の数だけ強化されるのはそういうことなのだろう。
それはそうとして、今のルムでとトーラではこのアダマンウルフを突破するのは不可能だ。
「これは部が悪い、アダマンウルフの効果は防御だけだからここはターンを渡すほうがいい」
「ターン終了!」
「どうだ! 小遣いの半年分を前借りして手に入れたHカードだ! これでお前は俺に攻撃できねえ!」
「世知辛いな……」
「ね……」
タダでLカードを拾った身としては少し申し訳なくなってしまうロイだった。
輝石の輝きが交代し、ガインは待ってましたとばかりにカードを引く。
手札6→7
魔力0→6
「俺は【ハイホーンウルフ】を召喚するぜ!」
【ハイホーンウルフ】R
[闇][種族・魔狼]
消費魔力5
戦闘力6000
ダメージ2
・[群の長]攻撃時、自分の場の[種族・魔狼]の数だけ戦闘力を+1000する。
・[標的]この魔物は攻撃する時、相手の好きな魔物と戦闘を行うことができる。
魔力6→1
ホーンウルフをそのまま巨大にしたような大狼が出現。遠吠えで会場を揺らす。
「っち……」
ルムは思わず舌打ちをする。
防御だけでなく攻撃までも強力な狼が出てきたのだ。前回よりも数の多い魔狼により、ハイホーンウルフの攻撃時追加戦闘力は+4000により合計10000。ルムですら太刀打ちできない。
「ハイホーンウルフの標的対象はもちろん……!」
ガインが指をルムに向ける。
「お前だ! 天龍の少女ルム! 攻撃しろハイホーンウルフ!」
「ガアァァ!」
その指示を聞くや否や弾丸の如く地面を蹴りルムに向けて牙を向く。
「……ごめん! ルム!」
「仕方ないさ」
自身の背丈ほどある長杖を構えて迎撃態勢をとる。
その戦闘の結果は目に見えているが、ロイには防御指示を出すしかない。そんなロイを気遣ってか、負け戦をしに行くというのにルムの表情はいつもと変わらない。
ハイホーンウルフの重たい牙を杖で受け止めるが、前とは比べ物にならないその力にルムも後退りし、そしてーーー
「ガアッ!」
「ぐぅっ!」
押し負けてしまい、吹き飛ばされる。ルムは地面を何回転かしたところで止まり、投げ出された杖が地に突き刺さる。
「やっぱいったいな……」
「ルム!」
龍とはいえ見た目は年相応の少女であるため、その光景は痛々しい。観客からも小さく悲鳴らしきものが上がった。
ロイが駆け寄ろうとするも、それはルム自身に制止される。
「お前が怪我するぞ」
「でも……!」
「ただの戦闘破壊だ。俺は魔物だから」
「……!」
片膝でなんとか立つも、狼はその攻撃の手を休めることなく再び飛びかかってきた。
「後は任せたトーラ!」
「ルム様!」
「ルム!」
まだ場に残っている魔物の中では最も戦力になるトーラに後を託し、狼の牙に倒れる。
ロイが手を伸ばす。だがルムの体は他の魔物と同じように、黒ずんだカードになって崩れ去った。
「っしゃぁぁ! 倒した! ざまあみろ!」
「そんな……ルムが!」
ガッツポーズで喜ぶガインとは対照的にロイの表情は暗い。
「よくもルム様を! おい小僧! しっかりせんか!」
落ち込むロイをトーラが珍しく励ます妙な光景となっている。
「ルムは……」
ロイが落ち込んでいるのは、相棒であるルムがいなくなったこともあるが、それとは別に、彼女の性質にあった。
通常、召喚した魔物が破壊されると、魔物は元いた【異世界】に返還されるが、それを呼び出すための魔物符は一時的に失われ、【死霊術系】などの特殊な効果が発揮しない限りその決闘では使用できなくなる。
しかし元々この世界で過ごすルムはイレギュラーだ。カードになったことがあるが、異世界に行ったことはない。
「ちゃんと戻ってくるよね……?」
決闘は、まだ終わらない。
「ん……?」
ルムは目を覚ました。薄めを開けると、柔らかな木漏れ日、心地よいそよ風が頬を撫で──
「いててっ!?」
しかし全身を襲う痛みで微睡は吹き飛んだ。
「これで死ぬのは2回めだなっ……! そうだっ、決闘は!?」
軋む体を無理やり起こし、辺りを見回す。そこは先ほどまでの決闘場ではなかった。暖かな日の指す穏やかな場所。
自分の体を確認すると、体に走る痣、頭から突き出た鉱石質な角が確認できるので今自分は魔物の状態なのだろう。
「うわっ……?」
目に飛び込んできたのは高く、真っ青な空。しかし、そこにあるものはルムがいた世界ではありえないものだった。
「島が浮いてる……?」
広大な空に、宙に浮くはずのない巨大な島がいくつも点在していた。よく見ると火山が噴火している島もあれば、氷で覆われた島も確認できる。現実離れした光景だが、島端から流れ落ちる滝を見る限り島以外は重力はしっかり働いているようだ。立ち上がり崖の端まで行くと、底なしの青空が広がっているため、この土地自体も浮き島の一部であることがわかる。
振り向き自分の島を見ると、鬱蒼とした森の広がる島のようだ。
よく見ると数匹の鳥のような生き物も飛んでいる。が、鳥と言うにはあまりにも大きい。それは以前ルムがロイの家でカードとして見た【ワイバーン】によく似ている。
どうやら魔物が住んでいる世界のようだ。
「天国みたいな場所だな」
ここはいるだけで心地よくなりそうな多幸感が湧きいてくる。先ほどまで痛んでいた体はもう苦痛を感じない。
ルムは直前の記憶を整理する。自分はガインのハイホーンウルフに戦闘で破壊されて──
「っ!」
破壊に至る程の痛みを思い出し冷や汗を流す。自分が魔物で、しょせん決闘で使われる1枚に過ぎない「カード」なんだと自覚させられる。決闘のたびにこんな痛みを感じないといけないと思うと少々気が滅入る。
「ロイ……」
ルムが最後に見た戦況はとてもいいと言えるようなものではなかった。さらに最大戦力で助言役である自分が抜けたので余計不利になるだろう。しかし今のルムにここからロイにしてやれることは何一つなく、手をこまねいているしかない。
なので立ち上がり、目の前の森を探索すると決めた。
「ひとまず何か無いか探すか」
ルムは森に向かって歩き出した。
読んでくださりありがとうございます。
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