思い出。
処女作です。
お手柔らかにどうぞ
愛してる、そう言われたのはいつの日だったか、もう思い出せない。
今年も桜の花が鮮やかに咲き、儚さを秘めて散っていく。
今日、私はあの人と初めて出会った場所に来ている。本当は来る気なんて無かった、だが、脚は勝手にこの場所へ向かっていた。
桜の花びらが風に揺れてひらひらと舞っている、その風景を見て、鼻の奥がツンとした。
“まだまだ、未練タラタラじゃん、”
心の中で自嘲気味に笑う。
「 彰人、貴方は自分を早く忘れて結婚しろって言ったけど、そんなの無理だよ。」
胸の奥で彰人の屈託の無い笑顔が浮かんだ。
頬に滴が、伝った。
叶うことならもう一度あの笑顔が見たい、その願いは届かない。
ーどのくらい、桜の木の前に立っていたのだろうか、辺りはもう橙色に染まっている。
明日は月曜日、仕事がある。
由奈は桜の木の前を後にした。
「思い出。」短編