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ツキノユメ

作者: 寒月

その日の夜、バイトで疲れていたのか私は月が落ちてくるような感覚がしたのです。

その夜、月が落ちてきた。


「またか…」


そう呟く。幼い頃から何度か見ている不思議な現象、しかし最近月が落下する頻度増した気がする。バイト帰りの僕は、普段なら人通りの多い道を選ぶが、その日はなんだか公園の方へ行かなければならない気がして、いつもの帰り道を通り過ぎた。


夜の公園は不気味だった。昼間は子供達の声で賑わっているのに、夜になるとどうしてこんなにも恐ろしいのか。薄暗い歩道には電灯が10m間隔で照らされているにも関わらず辺りは薄暗く、照らされていない反対側は木がざわめくばかりだった。風が吹くたびに轟々とざわめく木々はまるで怪物のようで、暗闇から手がにゅうっと出てきさえした。月が落ちる日は決まって何かが起きる。もしかしたら本当に怪物が出てくるかもしれない。足早に帰宅を急ぐ。ふと、足元を見ると猫がいた。暗くて気づかなかったが、黒猫だ。すりすりと頬を擦り付けてくる。撫でてみるとざらざらしていた。猫の毛並みとはこういうものなのか。


「いつも疲れた顔をしているね」


猫が喋った。驚いたが、月の落ちる日には不思議なことが起きる。こういうことか。


「ああ、うん」


曖昧な返事をする。猫は聞いているのかいないのかわからない素ぶりで尚もごろごろ唸っている。


「もう疲れたんだ。なにもかもさ」


しばらく沈黙が続いた。僕は猫に何を話しているんだろう。


「にゃぁん」

「なんだ、急に猫らしくなって」


猫はついてこいと言わんばかりに歩いていった。狭い路地、見たことない道、知らない場所。猫はひょいひょい通り抜けていく。僕は見失わぬよう必死に追いかけた。もう夜中だというのに、路地の向こう側からオレンジ色の光が漏れていた。


「え…」


道を抜けるとおもわず声が出た。

射的、金魚すくい、わたがし、かき氷、りんご飴、焼きそば…見渡す限りの屋台。ずっと奥まで続いているみたいだ。まだ涼しい風が吹く中、道行く人々は浴衣を着て、お祭りを楽しんでいる。長袖を着ている僕だけが異様な雰囲気を漂わせていた。

先程の猫は消えてしまった。仕方なく屋台を見ていると、懐かしいものを見つけた。カラフルなドロップ。僕は小さい頃このドロップが好きで、特にイチゴ味ばかり食べていた。そしていつも決まって残るのはハッカ味だった。今では食べられるかな。


「おじさん、これください」


店主を呼ぶと、なぜだか顔がぼやけていた。夢でも見ているのか?周りを見渡すと、やはりどの顔もぼやけて良く見えない。まあ、そういう時もあるかな。買ったばかりのドロップを口にする。出たのはハッカ味。小さい頃は苦手だったけど、今では美味しく感じられた。僕は大人になれたのかな。


______次のニュースです。昨日未明、〇〇公園で男性の遺体が発見されました。男性の周りには薬が散らばっており、自殺とみられます。近所の住民によると昨夜男性は、石を撫でながら話しかけたり、同じ箇所を何度も回り「月が落ちた月が落ちた」などと呟いていたりして、不気味だったと話しています。では、次のニュースにうつります。

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