第8話 連環
第8話 連環
その日の12時合戦は、比較的参戦率が良かった。
あんたはもちろん、ギースとそのサブ、ぺるりさんもいた。
それから夜勤明けの俺も。
連合創設以来初のSランク合戦だった。
まず相手連合の戦力がAランクとは違う。
連合内の戦力低い者でも、あんたぐらいはある。
無双となれば、300万は超えている。
それから、相手連合の参戦率も大きく違う。
何でもない通常合戦にも関わらず、ブリーズの合戦イベント並みはある。
つまりその全員が開幕から動けるって事。
あんたはいつも、開幕に強い応援スキルを使う。
そうやって前衛全員の能力を底上げする。
でもSランクの敵は、そこをちゃんとわかっている。
強い計略攻撃を打って、応援が当たらないように全員を沈めてきた。
その上で敵側も強い応援スキルを、前衛と後衛の両方で使うのだ。
あんたの開幕底上げを、いつもスキルのムダ遣いに思って来たけれど、
あれはSランクの戦い方だったのだ。
Aランクの合戦ではなかなか見ないはずだ。
…あんたはなぜ、この戦法を知っている?
相手連合が全員参加ではなかったのが幸いし、ブリーズはなんとか勝利出来た。
あんたの前衛応援スキルに、予備があったのと、
後衛のぺるりさんの能力上げスキルが、非常に強力だったのが勝因となった。
おかげで前にいた俺も、連合の戦力となれたし、
ラストの「空爆島津雨」では、ギースも力を十分に発揮出来た。
合戦が終わり、掲示板に皆のおつかれさまが書き込まれる。
俺もお疲れさまを書いたけれど、
「Sランクになると後衛すごい大事やん!」
と、付け足さずにはいられなかった。
「だね」
「同じく、後衛にもコンボが欲しいです」
ギースも同意し、ぺるりさんもそれに同意して意見を述べた。
「後衛は大事、すごく大事。
必要なら、いつでも自分が後衛に回ります」
あんたは至極冷静に発言した。
後衛に回るって言っても、兼光さんが抜けた今、
あんたは堂々たる連合2位の戦力だ。
あんたは前衛にいなければならない。
Sランクに昇格して、最初の1戦は運に勝たせてもらったようなものだった。
それからの合戦はざんざんなものだった。
格の違いというものを、嫌と言うほど見せつけられてしまった。
マウントの強さ、後衛の強さ。
ブリーズはまず前衛が立てない、後衛がぺるりさん一人でコンボが成立しない。
応援が弱いから前衛が立てない。
立てないから応援も当たらない。
戦うごとに、ブリーズはその弱点を露呈するばかりだった。
勝てない戦いが続いたことで、連合員の士気も落ちていった。
ぺるりさんの参戦率が日増しに下がって行った。
彼の穴埋めとして、俺が後衛に戻ることにした。
あんたを後ろに回すもんか、それだけは絶対阻止せねば。
いざ後衛に入ってみて、ぺるりさんの参戦率が落ちた理由がすぐにわかった。
参戦している後衛は俺ひとりだから、手数で敵の応援に負けてしまう。
行動で消費するポイントの補充に、どうしても空きが出てしまう。
もちろんコンボもないから、応援の効果もあがらない。
あんたはいいさ。
驚くほどの手数を誇るあんたにはコンボもくそもない。
あの鬼連打で、応援効果を上げる補助スキル「教養の極み」の発動率も高い。
「誰かひとり後衛に回して〜コンボないのきつ過ぎ」
合戦のあと、俺は掲示板に書き込んだ。
これにギースが返信した。
「耐えろ」
「スクラップとかどう?」
「スクラップ」とはギースのサブアカウントの名前だった。
普段はあまり使われておらず、動くのは合戦イベントの時ぐらいだった。
しかしもう落ちてしまったのか、ギースから返信はなかった。
あんたもクエストを走っているらしい、反応すらない。
俺はもやもやしたまま、夜勤へと戻る事にした。
それでもひとりは後衛がいなければ、Sランクの合戦は厳しい。
翌日の12時、疲れをこらえて参戦すると、
なぜか俺が前衛に回されていた。
その合戦はブリーズには珍しく、開幕から後衛のHP最大値上げを複数と、
強力な能力上昇応援が重ねられた。
誰だよ、そんな気の利いた応援するやつは。
ギースのサブか?
ログに目を通そうとした時、掲示板に書き込みが飛び込んで来た。
掲示板は合戦中も指示などに使われる。
「失敗した、申し訳ない!」
「島左近」、あんたからだった。
この応援はあんたのものだった。
この合戦はあんたが後衛にいたのだ。
もともと後衛専門で、あの応援鬼連打のあんたが後衛にいる事は、
心強い事この上なかった。
あんたにはコンボなんて関係ない、ただ30分間きっちり連打するのみ。
あんたの絶え間ない応援は、前衛全員に戦力と能力の上昇を供給し続けた。
その合戦でブリーズは敵を圧倒し、大量に点差をつけて勝利した。
合戦終了後、いつものように「おつかされま」が掲示板に書き込まれる。
「おつかされまです」
あんたからもそれは流れてくる。
しかしそれにはまだ続きがあった、少し遅れて続きが流れて来た。
「ペルソナさんと応援コンボを組もうとしたが失敗した。ちっ」