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第4話 ポジション

第4話 ポジション


後衛専門の「島左近」が前衛にいる…。

ギースは何も言わないけれど、あいつも驚いているに違いない。

前衛にいても、戦力の低いあんたはすぐに沈められてしまう。

プレイヤーレベルも低いから、HPの最大値も低い。

あんたは湯の中に舞う紅茶の葉のように、戦場で浮き沈みを繰り返しているだけだった。


それでも、あんたは立ち上がろうとする努力をやめる事はなかった。

別の合戦に開幕から入ってみると、あんたはきっちり30分間いて、

応援鬼連打と同じく、回復とわずかな攻撃を休みなく続けていた。

…あんたがどうして前にいるのか、俺は理解した。


このゲームの「合戦」はGvG、ギルド対ギルドの対戦だ。

そして、味方は前衛と後衛に分かれている。

後衛にも一応「攻撃」はあるが、でもそれはあくまでも「支援攻撃」でしかなく、

まず大得点にはなり得ない。

大得点をあげるには、連合が勝つには、前衛の攻撃がなければ話にならない。

つまり、前衛には得点力以上に参戦率が要求される。


そこであんたなのだ。

あんたは1日3回の合戦のうち2戦ぐらい、しかも毎日参加している。

そして30分の合戦時間のうち、きっちり30分間参加し、

手を休めることなく、行動し続けられる。

最古参の兼光さんは、俺より先にそこに気付いているはずだ。

その上で自分のイン率低下をきっかけに、あんたに前衛を任せたのだろう。

あんたほど前衛に向いたプレイヤーはいない、俺はそう思う。



あんたが前衛に立つ事で、今までの前衛から一人が後衛に下がる事になる。

その日の22時合戦で、この事について話し合いが持たれた。

これには兼光さんが立候補したが、ギースがすぐに反対した。


「兼光さんは前でしょ、絶対」

「同じく。兼光さんの火力は前に必要」


あんたもギースと同意見だった。

何も発言しなかったけれど、それは俺だって同じだった。

兼光さんの戦力は、連合でも第2位にある。

それを後ろに下げてしまうのは、もったいない。

前にはギースの他に、彼のサブアカウントと俺もいるが、

サブアカウントは別の端末なので、毎回参加している訳じゃないし、

敵が格上だと、ギースでも動かす余裕がない。

一方の俺は俺で戦力もスキルも、全てにおいて兼光さんに劣る。


この合戦には、ほぼ幽霊と化している連合員「看板持ち」さんが珍しく参加しており、

兼光さんは彼にも意見を求めた。


「なんだったら俺が後ろに回ろうか? 仕事忙しくてイン率クソだし」


すると、看板持ちさんがそう申し出てくれた。

彼は今でこそほとんど幽霊連合員だが、前は活動している時期もちゃんとあった。

戦力も俺と同等で彼の方がわずかに高く、前衛の一人だった。

しかしその戦力ゆえに、彼が前衛から外れることはなかった。

連合にはもう一人、完全な幽霊連合員がおり、

兼光さんによる、例の加入申請の自動認証許可によって、

固定連合員の中で、彼と俺が後衛に回る事になった。


後ろに回された…それはかなりこたえた。

合戦の華は前衛で、後衛はあくまでも裏方だ。

陽が当たる事はほとんどない、これは降格に等しかった。

日なたから日陰へ回されて、こたえないやつなんていないだろう。

それが男ならなおさらだ。


しかも「島左近」という初心者に毛の生えた程度のあんたに、その座を追われたのだ。

実力ではなく、参戦率…ただそれだけで。

この時、俺は初めてあんたが憎いと思った。


憎いと気付いてしまうと、連合でのあんたの一挙一動が鼻につく。

掲示板への書き込みのやや硬い口調から、あんたは男なのだろう。

時々出る方言からして、西日本の人なのだ。

参戦の様子や、ガチャを引いている時間帯から、たぶん夜勤がある職業だ…。

そのくらいの事、頭の悪い俺でもわかる。


なかなかの屈辱だったが、ゲームそのものは面白い。

それにギースとの付き合いもある。

その翌日から、俺は後衛として合戦に参加した。

何戦か戦ってみると、後衛も面白いかも知れないと思い始めるようになった。


後衛は応援で敵や味方の能力を上げ下げする。

応援がうまく決まると、敵や味方全体に能力の上下を示す表示がどっと出る。

特に敵能力を下げる応援が決まると、敵の得点が驚くほど減少するのが面白い。

通常攻撃で6桁〜7桁、大技で8桁〜9桁あったのが、たったの3桁だ。

敵の能力が紙切れのようにぺらぺらになると、味方の攻撃も通りやすい。


俺はこの下げる応援に取り憑かれた。

まずデッキの内容を見直し、敵能力を下げる応援スキルを多めに積んだ。

あんたがラスト4分半に奥義「空爆島津雨」を打つのは、もう連合の定番だ。

そして敵もまた同じ奥義を鏡のように合わせて来るはず。

この奥義は敵の攻撃を味方一人に集中させる、敵は大技を連発して来るだろう。

その時、敵能力を思い切り下げる事が出来れば…。


読みは大当たりだった。

あんたは戦力こそ少ないが、囮としては魅力的この上ない。

あんたはどんなにやられたって、立ち上がろうと終了まできっちり粘り続けてくれる。

あんたを盾にして、ギースや兼光さんが複数攻撃を連発する。

弱小連合「Sakura Breeze」は連勝に連勝を重ねた。


「あれ? これってSランク近くない?」


年明けのある昼合戦終わり、あんたが発言した。

連合はSランクを筆頭に格付けされており、合戦での勝敗で週ごとに上下する。

ブリーズはAランクとBランクを行き来する弱小だが、

最近の連勝でSランク昇格が目前に迫っていた。


「どうする? 兼光さん、調整します?」

「だね。この時期Sランクとか選抜が恐ろし過ぎ」

「だよね」


調整…そんなの合戦イベントで10位以内に入るような、雲の上の事と思っていた。

それがこのブリーズのような弱小連合に…!


「出来れば降格を狙いたいですね。

でも、調整て具体的にどうやって?」


あんたが二人に質問した。


「攻撃しないで、ただひたすら回復ボタンを押すの」

「奥義はもちろん『自業自得』ね」


兼光さんとギースは、顔文字たっぷりのきゃぴきゃぴした文章で説明した。

こいつら、絶対回線の向こうでによによしているに違いない。


「オッケー! 奥義セットしとくよ」


あんたもノリノリだった。

それからの1週間、連合は調整と称して負け続けることになった。

休眠連合が対戦相手のこともあって、負けるのもなかなかに難しい。


そんなある19時合戦終わり、兼光さんが突然衝撃の発言をした。


「僕も今年3年で、就職活動しなきゃだからリアルが多忙になります。

そこで盟主を島さんに交代したいのですが、どうでしょうか?」

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