表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

第3話 当たりアカウント

第3話 当たりアカウント


あんたのデッキの戦力は日増しに上昇していった。

こないだ100万をやっと超えたかと思えば、今日は120万を超えている。

1年ちょっとやってる俺でも150万ちょっとしかない、恐ろしい成長速度だ。


この連合の無双であるギースと、そのサブアカウントはもちろん、

高校生である兼光さんでさえも、バイトして課金している。

そして俺もそうだった。

このゲームのガチャの当選確率は、他のゲームに比べて格段に低い。

その上価格も高いと来ている。


俺は警備員の仕事をしていて、夜勤もある。

そしてギースのように家庭を持つ訳でもない。

課金する金だけはあった。

ソーシャルゲームのガチャとは上手く出来ており、

金を突っ込めば突っ込むほど、当たりは遠のいて行く。

まぐれでSSRカードが出ても、低コストや、スキルがいまいちな、

いわゆる「ゴミカード」ばかりだった。


あんたの急成長の秘密には、このガチャの引きも大きかった。

連合員で誰かが良いカードを引くと、それが連合の記録として表示される。

あんたの「島左近」は、しょっちゅうSSRカードを引いたと出る。

まだ365日にも満たないアカウントの新しさもあるとは思う。

しかし、あんたの引きの強さはそれだけじゃない。

あんたの引くSSRは、コスト20以上の高コストか、

でなければコストは低くとも重要スキルを持つ、当たりカードばかりだった。


…きっとあんたのアカウントは、いわゆる「当たり垢」なのだ。

それもただの当たり垢じゃない。

よくネットで噂されている「運営垢」が存在するならば、きっとこんな感じなのだろう。


今朝だって、あんたはコスト20の島左近を引いていた。

いくら「島左近」だからって、ギャグのつもりかよ。

「[桜花爆風]島左近」…あのカードには「空爆島津雨」という、すごい奥義がある。

上位の連合でも欠かせない重要な奥義だ。

あんたはそんな事ちっともわかってないだろうが。


それからあんたのデッキの前の筆頭智将は、コスト21の上杉謙信だ。

「[堕落の王]ダメ過ぎ謙信」…ならば奥義「わびへびの心」も持っているはずだ。

あの奥義だって、開幕に打つ大事な奥義だ。

あんたは重要な奥義を持っていても、やっぱり何もわかっていない。

そんな重要奥義たちを開幕直後に試し打ちしているくらいだ。


「島さん、ラスト4分半で『空爆島津雨』よろしく」


しかし兼光さんは古参だけあって、奥義の使い方をよくわかっている。

あんたにラスト奥義を担当させる事にした。

奥義とは、敵の能力を低下させたり、味方の能力を上昇させたりと、

攻撃の下地となるスキルだった。

合戦のラストに「空爆島津雨」を打つのは、上位連合でも定番だ。


あの奥義は一人に敵の攻撃を集中させる。

その一人が防御を高めれば、敵の攻撃は大ダメージにつながらない。

その上、他の味方の安全も確保できる。


あんたの奥義は、連合にとって大きな恵みだった。

ブリーズのようなリアル優先の弱小連合だと、奥義をはじめとしたスキルも揃わない。

それ以前に、仕事などリアル都合で人も揃わない。

このゲームは連合内の上位5名が前衛に選ばれる。

ひどい時には全員前衛どころか、ひとり参戦だったりする。


後衛に選ばれるには後衛希望を出すのだが、ブリーズのような連合では、

それも確実とは言えず、後衛を希望しても前衛に押し出される事がよくある。

しかし、戦力の低いあんたは確実に後衛に選ばれる。

補助スキル「教養の極み」を積んだ、鬼恐ろしい応援連打が後衛にいる。

そして今は運営アカウント並みのガチャ運で、応援スキルも揃って来た。


あんたは間違いなく連合の重要人物だった。

俺なんかいてもいなくても、連合にとってさしたる影響もない連合員なんかじゃない。

あんたがいない合戦は、ギースと兼光さんが力で押すけれど、

敵側の応援が強ければ、ブリーズに勝ち目なんてない。

終了間際の奥義だって、いまひとつ決め手に欠けてしまう。


あんたの目に、「ペルソナ」という連合員はどう映っていただろうか。

参戦も多くはない、ただ古いだけの人。

何も発言しない、不気味な人。

謎の古参連合員、違うか?



夜勤のある俺にとって、クリスマスは関係なかった。

24日は夜勤明けで、いつものようにただ寝て終わってしまった。

キャバや風俗に行けばいいのに、こんな男だから行っても時間と金のムダでしかない。

ソーシャルゲームに課金する方がまだ有益と言えよう。


夜になってようやく起き出し、コンビニでビールと弁当を買って来て、

それを一人きりの散らかった部屋で飲み食いし、

タレントらが騒ぐだけのテレビもそのままに、床に散乱する雑誌をひとつ取って、

ぱらぱらとめくっていると、自然と手が動き出してなんとなく始まる。

クリスマスイブなんて、そんなので十分だった。


醒め切ってけだるいまま、時計代わりにスマホの画面を見る。

22時を回っていた、合戦の時間だ。

ゲームを起動して合戦画面に入ると、そこにはいつもと変わりない戦いがあった。

ギースが前でサブアカウントと攻撃コンボを積んでいる。

後ろであんたが鬼のような応援連打をし、前衛に戦力を供給し続けている。

兼光さんはいなかった。

高校生だから、クリスマスイブは友達と遊びの予定があるのだろう。


ギースもあんたも淋しいやつらだな。

営業職のギースは、出張先の飲み屋かホテルからに決まってる。

あいつが家に帰る事なんてめったとない。

でもあんたは? 

俺とは違ってコミュ力抜群のあんたが、なぜこんなところで応援鬼連打をしている?

こんな夜なのに、女を抱きたいとか思わないのか?


その翌朝、兼光さんの書き込みを見つけた。


「しばらくイン率下がります」


短い内容だった。

俺は何も聞かなかったが、ギースはそういうのを見過ごせない。

兼光さんと挨拶でやりとりしていた。

どうやら兼光さんは女にふられて立ち直れないらしい。


それから3日ほど経った、12時の合戦だった。

適当な時間に参加すると、見た事のない前衛がいた。

ログ画面を開いて参加者を確認する。

見た事ないのも当然だ、だって後衛専門なのだから。

「島左近」、あんただった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ