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第2話 おにぎり

第2話 おにぎり


「みんな、おにぎり何個持ってる?」


クエストイベントと合戦イベントは交互に実施される。

そんな合戦イベント前日の、22時合戦終わりの事だった。

兼光さんは掲示板で、連合のみんなに回復アイテムの所有量を聞いた。

このゲームでは『おにぎり』なる、体力回復アイテムが多く配られ、

実質体力切れによる回復待ち時間はなかった。


「足りない人いたら、ショップで買おうと思ってるんだけど」


兼光さんが続けて書き込んだ。

連合には合戦勝利や寄付などで入手出来る「資金」があり、

管理者権限のある者がそれを使い、「ショップ」で買い物出来る。

ただしショップの商品は、連合員全員配布アイテムか共有アイテムに限られる。

回復アイテムもまた、そのショップの商品のひとつだった。


「俺は大丈夫」


ギースがすぐに返信をよこした。

おにぎりは俺も十分に持っている。

それは兼光さんも同じだったが、彼は聞いた。


「島さんは?」


初心者のあんたは回復アイテムもまだ少ないと思ったのだろう。

しばらくして、あんたが返信を書き込んだ。


「3600個あります」

「なら、買わなくても大丈夫だね」

「おにぎりがどんどん貯まって行くのは気のせい?」

「仕様だよ、俺5桁ある」

「すごい!」


ギースが返信すると、あんたも返信を書き込んだ。

兼光さんも発言し、会話が発生する。


「僕も1万超えてる」

「こちら5000はあってもおかしくないが、消費が激しくて意外と貯まらない」

「そりゃあんだけ行動すればね」

「ばれていましたか」


あんたもギースや兼光さんと同じように、発言は苦にならない性格らしい。

返信があれば、入力速度は遅くともちゃんと書き込む。


「ペルソナさんは?」


兼光さんは俺にも気を回して聞いてくれた。


「ペルソナも5桁持ってるから大丈夫」


ギースが俺の代わりにすかさず返信する、さすがリア友だ。

結局、発言の苦手な俺は黙り込んだままだった。


俺は発言しない。

いつまでたっても「謎の古参連合員」のままだ。

でもあんたは違った。

どんどん会話に参加するようになり、自分から話題を提供するほどになった。

あんたは連合内で「島さん」として、どんどん馴染んで行く。

あんたは「Sakura Breeze」の「島左近」になった。


「このカードって使えますか?」


あんたは質問もたくさんする。

連合には今は使われなくなった外部チャットもあったけれど、

今は兼光さんだけがたまの勧誘用に使っている。

あんたはデジタルにも強いらしく、外部チャットの利用も簡単だった。

兼光さんと個人チャットで質問し、勉強をするようになった。


兼光さんは連合員としては最古参で、俺より先に始めたギースより古かった。

このゲームにも詳しい。

彼はあんたに魔法をかけた。

デッキは連合員同士で閲覧出来る。


「えっ…細川忠興! しかも3進してる!」


クリスマスも近づいた19時合戦終わりだった。

あんたのデッキを見た兼光さんが、掲示板でびっくりしていた。

俺もあんたのデッキをこっそり覗いてみた。

…やっぱり戦力は大した事ない。

これでも成長しているのだろうが、まだ100万にも満たない。

デッキの組み方も全然なっていない。

「手持ちのSSRカードをありったけ詰め込んでみました」的な。

3進化したコスト19のSRカードなど、目にも入らないか。


「戦力要員だけど?」

「島さん、今覚醒アイテムいくつある? 黄色いの」

「6個あるよ」

「それ、限界まで突っ込みましょう!

クリスマスにはSRカードのトレードがあります、他にコスト19のSRカードある?」

「1枚ある」

「それをトレードに出して、このカードを4進化させましょう!

4進化で秘技の『教養の極み』解放しましょう!

上位の後衛でも必須の補助スキルです!」


あんたはそのスキルの貴重さと、重要性にちっとも気付いていない。

「教養の極み」という補助スキルは、応援効果を高めるスキルで、

発動率は低いながらも、その効果は抜群だ。

かつて期間限定のガチャでしか入手出来ないカードの、しかも秘技だった。

秘技を解放するには、同じカードを4枚集める必要がある。

つまり恐ろしく高価で、入手困難極まりないスキルだった。


それでもあんたは戦力に目が眩み、兼光さんの言われるまま、

カードに覚醒アイテムをつぎ込み、クリスマス期間のトレードで4進化させ、

それを智将の筆頭に据えて、スキルを積んだ。

もともと行動回数の多いあんただ、「教養の極み」の発動率も上がる。

一般の攻撃与ダメージ上昇スキルと、さして変わらないぐらいだ。


4進化したコスト19のSRカードは、戦力も半端な高コストSSRカードより高い。

筆頭の戦力が高ければ、クエストも俄然走りやすくなる。

あんたはクエストを走り、カードと覚醒アイテムの収集に奔走した。

そうして智将と同じようにして、筆頭の武将を作り上げた。

服部半蔵SR、クエストイベントで入手出来るカードだ。


コストも15と低い、スキルも大したものではない。

しかし確実に数は集まる。

あんたはそこから始まったんだ。


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