第17話 一蓮托生
第17話 一蓮托生
上手く言えないなら、行動で示すまで。
その翌日から、俺はだんまりを決め込んだ。
会話は合戦後の「お疲れさま」の用意されてあるスタンプだけだ。
あんたは「連合作戦」を更新した。
今まであった初心者向けの内容や、連合員の所有する奥義の一覧も、
何もかもを消して、新しく解散の手続きについて書いてあった。
解散すれば普通、連合という箱は消滅する。
サービス開始より、3年とちょっと続いた老舗連合「Sakura Breeze」も消滅する。
ところが狡猾なあんたはそこもよく考えてあった。
この連合の箱の譲渡を、すでに他の連合へ譲渡する事を決めていた。
譲渡先はあんたの知り合いだと書いてあった。
そしてその知り合いは2名で休眠しているとの事。
つまり休眠している知り合い相手なら、連合の箱を譲渡しても使われない。
今までみんなで貯めた連合資金もそのまま。
必要とあらば、話して返還もしてもらえる。
うまい事を考えつくもんだ…。
しかし連合の箱を譲渡するからには、あんたも俺も一度連合を出なければならない。
そこであんたは俺にいくつかの選択肢を提示した。
かにさんの紹介を受けて、二人で移動するか。
新規連合を作成して、そこで二人休眠するか。
譲渡先と合流して、みんなで休眠するか。
…肝心の選択肢がないよ。
俺はその選択肢のどれも選ばなかったし、回答する事は何もなかった。
ただ連合に居座るまでだった。
俺が動かなければ、あんたは動けない。
盟主は自力で脱退出来ないし、誰も除名出来ない。
連合を解散するには、盟主が最後の一人となる必要がある。
最後の一人となった盟主が、どこかからの勧誘を受ける事で、
連合ははじめて解散となるのだ。
「あんたが連合を抜けたら、俺も抜ける」…無理難題極まりないね。
俺が動かない限り、あんたは動けない。
このゲームがサービス終了しない限り、あんたはこの連合を抜けられない。
一蓮托生だ、あんたを連合に縛り付けてやるよ。
サービス終了のその日まで、俺と二人きりの連合でもがき苦しめばいい。
除名? やってみろよ、人のいいあんたに出来る訳ないさ。
あんたが俺を除名したって構うかよ、何度だって加入申請してやる。
謎の古参連合員からのささやかな抵抗だ。
俺はあんたがこの連合を離れる事を許さない。
あんたが他の連合の人間になる事を許さない。
毎朝4時、ゲーム内の日付が変更される。
二人だけの連合になって、俺はこの時間にログインするようになった。
連合から除名されていないか。
あんたがちゃんと連合にいるか、それだけを確認するために。
「ペルソナさんは最後までこの連合にいるつもりなのか?」
あんたは半ば呆れたような発言をする。
もちろん答えは無言だ。
「もしペルソナさんに行きたい連合がないなら」
俺が無言で返すのも読んでいるって訳か。
あんたも構わず続ける。
「私と二人、ここで一緒に眠るか?
かにさんはずっと待っていてくれるだろう。
箱の譲渡先も知り合いだから、話せばわかってくれる」
その発言の翌朝、ログインして連合にあんたを探す。
盟主「島左近」…よかった、あんたは今日もちゃんと連合にいる。
でも俺は目を見張った。
盟主補佐、軍師「ペルソナ」…!
それだけではなかった。
クエストでの獲得経験値上昇や、体力回復率上昇のため、
一般連合員に与えられる「役職」も、
「戦国恋慕」から、「修羅の道」に変更されてあった。
「どうだ、プレゼントは気に入ってくれたか?」
12時の合戦で、あんたが戦いを中断して話しかけて来た。
さすがにこれには俺も答えずにはいられなかった。
「何の事?」
「最高の効果を持つ役職と管理者権限」
「それは見たけど…どうして?」
敵も少人数連合だ、こんな昼間からガチで戦いやしない。
あんたは合戦を完全に放棄して、俺の質問に答えた。
「もう二人しかいない連合だ。
解散まではまだ少しある、この機会にクエスト走って強くなるのも自由、
上限はあるが、連合ショップで資金の限り買い物するのも自由、
連合ページの背景やコメント、連合作戦をいじって遊ぶのも自由」
自由…それは俺がこの連合の解散を阻止しても?
あんたをサービス終了まで、この連合に縛り付けても?
「何を言ってもしても無礼はないし、通報もしない。
連合掲示板に好きな事を好きなだけ書くのも自由、わがまま放題言うも自由。
ネタプレイや寄生プレイに走るも自由。
解散が不服ならば勧誘でもして阻止してもいい。
最後まで残るペルソナさんに、これは盟主からの詫びと感謝の品だ。
この連合の全てを許そう」
全てを許す…その言葉に俺はもう何も言えなかった。
俺のささやかな抵抗など、あんたにはお見通しなのだ。
その上で許すというのか、あんたはどこまで人がいいんだ。
そんなんだから、連合員らが好き勝手したんだろうが。
そんなんだからあんたも心が折れて、連合が解散になるんだろが…。
「なら…」
スマートフォンの画面に、涙の粒がぱたりぱたりと落ちて弾ける。
…馬鹿だな、あんたは。
そんなんだから放っておけないんだよ。
でももし、あんた俺のする事の何もかも許すのならば…。
「島さん、俺と会ってもらえませんか?」
直結はチートに並ぶ重罪だ。
何もかも許すんだろ、あんたはこんなタブーも許すのかい?