第16話 寄生連合員
第16話 寄生連合員
連合の幹部三役揃っての辞意表明は、他の連合員らには突然の事に思えただろう。
そして示し合わせての事と思った事だろう。
実際この解散と脱退は、あんたとギースが話し合って決めた事だった。
連合の主力である二人の思惑が一致した、いち連合員の俺に口出す権利なんてない。
でもなんだか置いてけぼりをくらったような気がした。
連合の解散は次の大きな合戦イベント終わりと、その期日ももう決まっていた。
これもあんたとギースで話し合ったのだろうな。
ギースの連合脱退はそれより一足早く、その前の小さな合戦イベント終わりだった。
そのイベントは退却なしのルールで、ひたすらコンボ数と得点を稼ぐという内容だった。
イベント期間はちょうど週末の三連休と重なっていて、
ギースもこれに合わせて、仕事の量を調整した。
あんたはいつも通り、イベントの全ての合戦に出られる。
開幕であんたが応援スキルをふんだんに使って、全員の能力を上げる。
それからみんなでコンボを積んで、連携ボーナスを稼ぎ、
最後に敷く奥義の発動で、ギースが大技を連発して得点を稼ぐ…。
お互いに狡猾な二人だから、息も読み合ってぴったりと合う。
このイベントで、ギースは自身の記録を大きく更新した。
兼光さんがいた頃は、彼自身も大得点を狙っていたので、
あんたほど応援に徹する事はなかった。
「前に立つ後衛」、こういうプレイはあんたにしか出来ない。
「今までお世話になりました、それではまた♪」
イベント終わりの23時きっかりに、ギースはあっさりと連合を抜けて行った。
「復帰したら声かけるよ」
今度はあんたも引き止めはせず、同じくあっさりと彼を送り出した。
そして、あんたは挨拶と掲示板の両方で連合解散の告知を出した。
「解散になるというので、早めに移動しときますね」
「こちらも抜けておくよ」
ぺるりさんを始め、他の連合員らも移動を表明し、脱退していった。
「解散なら俺も移動しとくね。盟主、挨拶待ってるよ。
動けるようになったらすぐ声かけてね」
かにさんも連合を抜けて行った。
最後まで勧誘を忘れないとは、なんとも彼らしい。
面白いのはぎりぎり除名されない程度に活動があるだけの、
ほとんど寄生プレイヤーに近い人らだった。
彼らは揃って「なかなか合戦に出られないけど」という言葉を添えて、
連合への残留を表明した。
当然だ、連合がなくなれば寄生も出来なくなるんだから。
イベントの報酬には「個人報酬」と「連合報酬」がある。
「連合報酬」は「個人報酬」より豪華だ。
そしてこの連合にはギースがいたし、あんたもいた。
イベントのごとに二人が中心となって動き、かなりの報酬を得ていた。
今までかなりおいしい思いをしてきたはずだ。
そんな寄生先がなくなる。
寄生に近い人らは全員が自動認証解放で流れてきた。
自分で次の行き先を見つけるとは、とても思えない。
連合が解散すれば、自動認証を解放している別の連合へ流されるまで。
そこがこのブリーズほどおいしいとは限らない、だから彼らは連合にすがりつく。
ギースが連合を抜けた後も、俺は連合に残った。
俺も彼らと同じ、ただの寄生連合員だった。
報酬なんかどうだっていい。
成長の機会を手放したくはなかった。
あんたがいれば、俺は成長し続けられる…。
あんたはそんな寄生連合員ら相手でも、誠意を見せるつもりらしい。
挨拶でひとりひとりに、連合が解散する事と謝罪し、その期日を告知し、
解散まで猶予を設けた事、その間に次の行き先を見つけて欲しい事を説明した。
その上で行き先がない場合は、自分が世話するなり、
新規連合を立てて、そこに引き取っても良いと申し出た。
それでは寄生する旨味がないと思ったのだろう、彼らは自ら連合を抜けて行った。
彼らは来た時と同じく、出て行く時も無言だった。
「ずっといたホームを奪う事になって、ペルソナさんにも申し訳ない」
あんたの謝罪で二人きりの連合は始まった。
「そういやこの連合長いね、島さんより1年ちょっと前からおるけんね」
長いというより、俺はこのブリーズしか連合を知らない。
ギースの招待でこのゲームを始めたから、連合も自動で決められたところじゃなくて、
始めたその日からこの連合だった。
「今回解散を決めたのは、自分の弱さに負けたから、それしかない。
ひとりでも戦場に立ち続けられなかった、甘い誘惑に心が動いてしまった、
自分の心の弱さ、それしかない」
あんたのくそ真面目は治らないな…それはあんたのせいじゃないって。
参戦率の悪い俺ら連合員のせいだし、
上位連合に誘われて心が動かないやつなんていないし、
それがあんたの努力の結果だから、詫びる事なんてない。
でも、出来る事なら…。
「島さんがこの連合辞めたら、俺も抜ける」
俺はそう返信した。
盟主のあんたなら、この言葉の意味もわかってるはずだ。
俺もわかって言ってる、それが無理な事って。
「抜けてどうする?」
「まあどこか適当なとこに入れてもらうさ」
すると、掲示板への返信ではなく、挨拶が飛んで来た。
“もし行き先がないなら、私と一緒に来ますか?
ペルソナさんにその気持ちがあれば、
かにさんには2名受け入れを条件に紹介を頼もうと思います”
かにさんはあちこちに顔が広いらしいから、
彼の紹介なら、きっとこのブリーズより上位の連合だろう。
勉強にもなるだろうし、あんたも淋しくはないだろう。
戦場でひとりぼっちになる事もないだろう。
“ありがとう、俺も一応行き先を探しているよ。
見つからなかったら、その時はお願いするよ”
そう返信したけれど、行き先なんて探してもいなかった。
俺が望んでいるのはそんな事じゃない。
あんたが上位連合で揉まれて成長する姿なんか、
そこのやつらと仲良くやってる姿なんか見たくもない。
あんたはこの連合のものだ、離すかよ…!