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第14話 極点

第14話 極点


俺はいつも通り適当に合戦に出ているが、ギースは相当仕事が忙しいらしい。

たまに参戦しても、出航前のフェリーからとか、山中からとか、

彼の参戦は、どんどん「エクストリーム参戦」になって来た。


何はともあれ、主戦力であるギースなしではまともな合戦にならない。

しかも彼は彼で、あんたの「空爆島津雨」に劣らぬ稀少奥義の持ち主だ。

「[心中上等]古天明平蜘蛛 SSR」の奥義「古天明平蜘蛛」。

この奥義は味方の計略威力が、わずかに上昇する程度だが、

特定カード「松永久秀」の支援に特化している。


ゲーム内に「松永久秀」カードは数種類存在しているし、

ギースが高コストSSRで2種類、俺がSRカードで1種類持っている。

それだけでも十分強いが、今はあんたの支援プレイがある。

奥義を二重に敷くようなもんだ。


そのギースがいないって事は、連合にとって一大事だし、

同時に連合の得点がいかにギース頼みであるかという、問題点が浮き彫りとなった。


「ギースさんいない時どうするか」


あんたも同じ事を考えていたらしい、板で問題提起をした。


「俺いる時は俺が指示出しますよ」


かにさんがそう言ってくれたが、彼だってそんなに参戦率は高くはない。

俺も夜勤があっていない夜がある。

結局、誰からもそれ以上の発言はなかった。

あんたは能力上げ下げ効果のあるスキルを、さらに多く積む事にした。

あんたのデッキはいっそう応援に特化していく…。


ギースのいない合戦はまったく得点が取れない。

いや、取るつもりもないらしい。

俺やかにさんがいる時は点を取りに行く。

参戦している連合のコアメンバーがあんた一人の場合は、格上相手なら点を取らせて負け、

格下相手なら低スコアで勝利しているようだった。


あんたは軍師としても相当優秀なのだろう。

よく考えている。

そうやって格上との対戦を避けるために調整しているのだ。

少人数でも勝てるように、ギースがいなくても勝てるように。


そんなある晩の日が変わる頃、久しぶりにギースからLINEが来た。

夜勤の前夜だったから、ネットの動画を再生しっぱなしにして、

部屋でコンビニ弁当をつまみに飲んで、

いい感じに酔いが回ってきたところだった。


「どうした? 今度は砂漠の中心からか?」

「アホ、普通に出張先のホテルからや」


俺の皮肉は通じなかった。


「あのさ、連合抜けようと思っとるんよ」

「いきなりなんでやのん?」

「いきなりやないよ、島さんには挨拶でそう考えてるとさっき話した。

仕事があまりにも忙し過ぎる」


それだけじゃないだろ。

あの連合はどこからどう見てもギースの連合だ。

サブアカウントまで入れて、しかも俺まで引き込んでおいて。


「それにもう俺いなくてもいいんやないかってさ…」


ほら見ろ、いつものパターンだ。

ギースのやつ、あんたに嫉妬してるな。

彼はいつも自分が一番じゃないと気に入らない男だ。

あんたの成長はそれを脅かすって事。

それが女ならなおさら気に入らない。


「島さんはなんて?」

「まだ返信は来ていない…あ、来た」

「まあどうせ引き止めやろ」

「ビンゴ」


ギースは得意げにコピペをよこしてきた。

やっぱり引き止めだったが、やっぱりあんたらしい内容だった。


“私はギースさんの影、プレイもデッキもそのつもりで成長してきた”


挨拶には文字数制限があるから、簡素な文章だったが、

あんたはやっぱりギースをよくわかってるよ。

嫌な女だね。

普通のネトゲやソシャゲだったら、リアルで女のあんたが姫になるところだ。

なぜあんたは姫にならない?

今のあんたは連合の姫どころか奴隷だよ。



よその連合からやって来た、短期連合員であるかにさんの目には、

そんなあんたが不憫で、いじらしく見えるらしい。


「盟主、ほんとに考えといてよ。

動けるようになったら、すぐにでも声かけてね」


彼は懲りずにあんたを短期滞在に誘い続けている。


「まあ、その時は遠慮なく声かけさせてもらうよ」


あんたは醒めて適当に流しているだけだったが、かにさんは本気らしい。


「そこはこないだ話した盟主以外にも強い人多いから、絶対に勉強になるよ」

「へえ…」

「俺からもよく話しておくから、行ったら掲示板でいっぱい質問するといいよ。

みんなでよってたかって答えてくれるよ」


あんたはあのギースと堂々タメ張るほどの狡猾さだけど、

かにさんはかにさんで、またひと味違ったずるさがある。


「…活気がある連合だね、うらやましい事だ」


かにさんはそう言うあんたの心の隙間を確実に読んでいる。

そしてきっと急所も特定している。

その上で彼は決めの一言を放った。


「とりあえずひとりぼっちの合戦は絶対ないし、

淋しいなんて思うヒマはない事だけは保証するよ…」


それはまるで細い針が、急所の中の急所である一点を突くような言葉だった。

あんたは返信を書き込まなかった。

でも俺はその沈黙に確信した。

…落ちたな。

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