第12話 連合の姫
第12話 連合の姫
ギースはギースで狡猾な男だけど、あんたも負けてはいない。
突然の盟主補佐交代は、このための布石だったのだ。
確かにこれはあんたじゃなければ出来ない仕事だ…。
長年の盟主補佐を除名する。
それはよそから来た新参のあんたがやらないと、角が立つ。
付き合いの長いギースや兼光さんでは、こんな大逆無道はとても出来やしない。
例えこれがギースの差し金でも、あんたもよく引き受けたものだ。
「ギース、あれあんたの差し金やろが」
「まさか。島さんが言い出した事やで」
俺とギースはリア友でも、離れたところに住んでいるから、
会話はLINEが中心だった。
俺たちはもともと高校時代の同級生だった。
卒業してしばらくは二人とも地元にいて、バカばっかやってたけど、
ギースは転勤や結婚で、俺は転職でと離れてしまった。
「ギースがそう言い出すように仕向けたんやないんか」
「だったら? ま、ペルソナには関係ない事やね。
このまま連合の姫で、大事にしてもろたら?
島さん、ペルソナの事女やて思ってるみたいやし♪」
「何アホな事言いよる」
こんなおっさん同士の乾いたやりとりも、ゲームでは嘘のようになる。
「ペルソナ♪」
「キモw」
俺が合戦に途中参加すると、ギースのネカマな書き込みが飛んで来る。
まだぶりっこ書き込みプレイが絶賛流行中かよ。
あんたもあんただ。
「ペルソナ3☆」
「だからわたしは別ゲーじゃないってw」
「ぺよん、ぺごもお願いしますw」
そこへ別の連合員が割り込んできた。
「真田」さんと言って、最近流れた来た人だった。
この真田さんはノリがいい人らしい。
合戦後にあんたともう一人、短期の連合員である「こいも」さんと、
三人で会話しているのを掲示板のログで見た。
でも真田さんはどうも挙動不審な人だった。
ほんの2〜3時間ほどの短時間で、何度も連合を出たり入ったりしている。
その翌日の22時終わり、またあの三人は掲示板で会話していた。
俺は夜勤の合間にガチャを引きにログインしていた。
彼らの話題は合戦時のエフェクトアニメーションのスキップ方法と、
デッキの系統、それからこの連合の実質的盟主がギースである事だった。
そんな中、真田さんが何かを発言しようとしたのをやめて言った。
「日本語難しい〜!」
「あら、真田さんは外国の方?」
あんたがそれに質問した。
こいもさんもいたけれど、もう落ちたのか無言になっていた。
「韓国です」
「日本語難しかったら英語で書いてくれてもおk。
簡単な英語ならば理解できます」
「ところで島さんはよくハートマークを使うけれど、女の人なの?」
「あ、そうです。顔文字が難しいから、よくハートとか音符使うね」
なんと…「島左近」は女だったのか!
ギースとの事務的な硬い口調から、おっさんだとばかり思ってた…!
「よし、今夜はもう遅いから落ちます」
「俺も落ちる〜♪ ラブホ行くけど、一緒に来ちゃう?」
「明日は仕事、4時起きだ」
「んじゃ、デリヘルで女の子呼ぼっと。じゃあね〜」
おいおい、セクハラかよ!
てか、あんたもくそ真面目に答えるなよ!
笑える…でもあんたグッジョブだよ、敵が退散して行ったぞ。
たった今、「真田」が連合を脱退したぞ。
さすがそこはゲーマー出身って訳か。
この手のセクハラだけじゃなくて、ナンパにもたくさん遭遇してきたのだろうな。
あんたはびくともしない。
でなきゃその世界でやっていけないって事か。
「俺は気付いてたよ、わりと最初から」
あんたが女だってことは、ギースも気付いていたらしい。
LINEの返信はあっさりしたものだった。
「知らんかったの俺だけかい…」
「聞くのはマナー違反やし、聞かれんから向こうも言わんだけやん」
「まあそうやけど」
「若くはないやろね、島さんは…俺らとそう歳変わらんやろ」
「あのゲームやしな」
「戦国☆もえもえダンシング」というゲームは、スマホゲームにしては年齢層が高い。
今どき珍しいくらいのポチポチゲーってのもあるが、
ガチャの価格が他のゲームよりはるかに高いし、当選確率も格段に低い。
上位連合だと、家が2〜3軒建つほど必要と言われている。
同じ社会人でも、ある程度の年齢じゃないと課金も厳しいのだ。
だからこのゲームの女は主婦か、でなきゃ夜の女が多い。
朝働いているなら、主婦なんだろうな。
夜の女じゃなければ、誰か後ろに男がいるはずだ。
ギースの奥さんがまさにいい例だ。
「ペルソナ、気になる?」
「いや…」
気になってるのはギースの方だろが。
ゲームでもリアルでも、彼はあの奥さんに頭が上がらない。
いつも尻に敷かれっぱなしだ。
そこへあんたの登場だ。
あんたは先輩連合員としてギースを立てて、頼ってくれている。
男として、そんな女が可愛くない訳がないだろう。
でも俺はリア友だから、ギースの性格をよくわかっている。
…彼が嫉妬深い男だって。
あんたももう気付いてるんだろ?