第11話 無双
第11話 無双
ギースもあんたの成長力にはびびっているらしい。
前は連合員に公開していたデッキも、今は非公開にしている。
そりゃそうだ、そうでもしないとあんたに学ばれてしまう。
あの兼光さんもしょっちゅう、「抜かれる」とびびっていた。
質問の多さからしても、あんたの学習能力はかなり高い。
合戦に負けてもなお、そこから何かしら学んでいる。
掲示板でのギースとのやりとりは、基本的な戦い方から次第に細かくなり、
補助スキルの個数や発動率、攻撃スキルの最大ダメージ条件へと変わっていった。
今でこそギースが連合最強プレイヤー、「無双」でいられるが、
なにしろ彼はこのゲームをやり込むには、あまりにも忙し過ぎる。
いずれはあんたが戦力も、実戦経験も、全ての面でギースを抜き去ってしまうだろう。
あんたは比較的時間に融通がきく。
何よりも他ゲーでトッププレイヤーにまでのし上がった、その経験はあまりにも大きい。
具体的な職業は知らない。
おっさんだから、どうせ市場関係者か新聞配達なのだろう。
でもあんたが俺と同じ、特殊時間勤務者なのはわかっている。
俺は夜勤があるけれど、あんたは早朝勤務と言っていた。
ならば、仕事上がりの12時合戦にはまず出られる。
12時合戦の後で昼寝をすれば、19時、22時も出られる。
そして22時終わりにまた寝れば、睡眠時間は十分だ。
俺が参戦すると、あんたは必ず戦場にいる。
それは連合の誰がいつ参戦しても同じだろう。
誰も来なくてもあんたは戦場にいるのだろう。
連合の対戦記録を見る限り、得点が0になる事はない。
どんな低得点だって、記録には必ず得点がある…。
次の合戦イベント前夜、ガチャを引きにログインしてみると、
連合の人数に変化があった。
どうせ流れてきたやつにログインがなくて、自動脱退になったのだろう。
このゲームは14日以上ログインがないと、連合から自動脱退となり、
別の連合へと自動で流される。
俺はゴミSRを引いただけでも更新される、連合の活動記録に目を通した。
“月影が連合を脱退しました”
…あんただな。
あんたが「月影」さんを除名したのだ。
予想通り、掲示板に除名の報告があんたから書き込まれた。
これも裏でギースが糸を引いているのだろうが、実行に移したのはあんただ。
あんたは本当にすごい事をしてくれたよ。
「月影」さんは確かにほとんど参戦もない、幽霊連合員だが一応は古参だ。
兼光さんはそれを考えて除名できなかったんだと思う。
でもあんたはそれをやってのけた。
新参が古参を除名する、冷たいね。
あんたの実行力はそんなもんじゃなかった。
イベント終了後には、盟主補佐が交代になった。
「看板持ち」さんから、「スクラップ」…ギースのサブアカウントへと。
これは完全にギースの差し金だろう。
「盟主」と「盟主補佐」には、獲得経験値の上昇や、
体力と消費ポイントの回復率上昇がある。
「『スクラップ』さんは連合でも重要な戦力だから、回復率を上げてあげたい」
あんたもそう説明している。
その言葉に裏はないと思う、それが至極真っ当な決断だとは思う。
だが何か違う…。
ずっと「看板持ち」さんだった、盟主補佐を解任するとはただ事じゃない。
「島さんはずいぶんと思い切った事をするな」
俺はLINEでギースに話しかけてみた。
リア友だからこういう連絡手段もある。
「やりたい放題やないか」
「いいさ、今は島さんの連合なんだから」
ギースの返信は冷たかった。
「そうやけどさあ…」
「俺ら古参じゃああいう思い切った事はムリやし、角が立つよ。
島さんみたいなよそから来た人にしてもらお」
「あの人、前はどこの連合におったんやろ?」
「なんで?」
俺もあんたをただの復帰者だと思っていた…最初のうちは。
いつの間にかログインしなくなって消えていく、そう思っていた。
「盟主の仕事も嫌に手慣れとる、リアルでもリーダーなんやろか。
それに底上げとか、開幕の入り方が俺らクラスのやり方やない。
連合がSランクに昇格しても、ちっとも驚かん」
「あーそれね、盟主交代する時、兼光さんが挨拶でちょこっと言ってたよ。
島さんはうちらよりちょっと上の連合から来た人って」
「マジか」
そりゃ驚かないはずだ。
あんたはたぶんSランクも初めてじゃないのだ。
「たぶんそれも兼光さんが島さんを盟主にした理由やね。
盟主にしちゃえば連合移動できないから」
「まるで囲い込みやん、ひっど」
「何を今さらw 兼光さんだって同じだよ、当時まだ初心者だったしwww」
ギースはずっとそうやってきたのだ。
盟主の影に隠れながらも、戦力で権力を持ち続ける。
なかなか上手い事やるな…。
「了承ありがとうございます♪ 今日からお世話になりまーす☆」
「月影」さんがいなくなって、
空いた枠には連合にはまた新しい人が来るまでだった。
新規が来るのは、大体イベント後の自動認証解放か勧誘だ。
あんたもなかなか上手くやる、そうやって連合員を入れ替えしていくのだ。
連合全体の戦力も上がって来た。
連合員の参戦率も悪くない。
でもそれは古参でも、参戦率が悪ければ除名になるという事だった。
ある朝、「看板持ち」さんが連合を脱退した…。