第10話 軍神
第10話 軍神
その合戦イベントは「攻城戦」と言う。
戦国系ゲームならば、「天下統一戦」の次によくあるイベント名だ。
たぶんそのシステムも、至極ありふれたものなのだろう。
連合の皆で協力して、強大な敵を倒す…。
つまり、普段の「合戦」や「合戦イベント」がGvG、ギルド対ギルドで、
この「攻城戦」は、対CPU協力プレイと言ったところか。
このゲームには「自動認証」の他に、「自動行動」もある。
その名の通り、プレイヤーが不在でも自動で行動してくれる機能だ。
ただしこの「自動行動」は、連合への貢献には含まれないし、
報酬もいっさい獲得できない仕組みになっている。
それでも一応コンボは成立するので、こういうイベント時には連合で許可している。
当たり前だけど画面ではちゃんと動いているように見える。
ちゃんと合戦に参加して、ちゃんと行動しているように見えるのだ。
「誰が動いていて、誰がいないのか見づらい」
あんたが板でそうこぼすぐらいだ。
連合員の活動を管理する側にとって、確かにこれは見づらい。
でもログを読めばすぐにわかるはずだ。
「自動行動」のプレイヤーは「通常攻撃」と「回復」しかしない。
スキルを一切使うことはないし、回復しても100%のHP自力回復はない。
それでもいちいちログを読むのは手間だ。
そこであんたは考えた。
「見づらいから、貢献度を管理するのにエクセル導入してみたよ」
「エクセルwww ワロタ、どうやって管理するん?」
ギースが笑っているが、俺はちっとも笑えなかった。
「とりあえず22時終わりに貢献度をメモって、それをエクセルに入れてね、
それだけだよ、計算とかは変化あった時だけ、後でまとめて手動ですればいい。
それだけでもぐっと見やすくなるよ」
それって…。
俺は思わず書き込んだ。
「それはわたしも管理されてるってこと〜?」
「いや、全員は見ないよ。大変だから。
見るのは新規の人だね、そこは前とおんなじ」
「なんだ〜人数少ないんだから全員でもいいのにw」
「それがベストだけど、さすがにそれはめんど…手間過ぎる笑」
二人してそうおどけるけれど、俺にはわかってる。
あんたもそうだろ?
貢献度を見るのは新規だけじゃないって。
あんたの中には「除名候補者リスト」があるって。
普段から合戦に参加している俺やギース、そしてそのサブが、
そのリストに載っていないのは明らかだ。
ぺるりさんもまだそこには載っていないが、このまま活動がなくなれば載るであろう。
そしてそのリストは、あんた一人が作ってる訳じゃないのだろう。
あんたは大事な決め事は、必ずギースや兼光さん…誰かに相談する。
盟主なんだから、自分で決めればいいのに。
思えばあんたは意見こそ述べても、反対する事はない。
連合の誰が何を言っても、あんたは必ず同意し、賛成する。
自分の意見がないおっさんだな。
兼光さんがいた時は兼光さんに逐一相談し、意見を求める。
そして今はギースがその役目だ。
ギース、命令してみろよ。
きっとどんな命令だって従うさ、賭けてもいい。
合戦イベントはさんざんだった。
みんなでまだ戦ったことのない敵に挑戦したからだ。
そもそも敵が硬過ぎる。
その上、人数が足りないから攻撃もささやかなもんだ。
このゲームはいつも何かイベントをやっているように思う。
大体がクエイベと合戦イベントの繰り返しだ。
何も目新しいものはない。
クエイベも決まりきった3種類のループなら、合戦イベントも同じ。
大体3ヶ月ほどで1周する。
だが俺やギースみたいなおっさんには、それが良かったりする。
今どき珍しいぐらいのポチポチゲーに、いつものイベント。
同じ事の繰り返しに安らぎすら感じる。
それはあんたも同じらしい。
さすがおっさん。
何の話題がきっかけだったかは忘れた、ギースとの会話であんたは確かに言った。
「…いやね、普段別ゲーで複雑な操作に疲れた時、
こういうポチポチゲーが、なんにも考えなくていいから安らぐんだよ」
「へえ…島さんはゲームするんだ、俺はあんまゲームとかしないけど」
「実はゲーマー出身で、別ゲーがメインす」
「珍しいね、どんなゲームやってるの?」
このゲームの主なターゲットは、同じおっさんでも酒やギャンブルが好きなやつらだ。
俺は時々パチンコやスロットぐらいはやるし、ギースは女の子のいる店が好きだった。
二人ともターゲットから外れてはいない。
だからあんたみたいな生粋のゲーマーは珍しい。
「箱でSTGだね、それから『宇宙攻撃軍』…これはチーム組んでVC付けてやってる。
このゲームはなんとなく似ているんだよ、戦力とか作戦が大事とか」
…かなりのガチゲーマーらしい。
「へえ〜強そうやね」
そう冷やかす俺だが、実はそのゲームを知っている。
シリーズ化されているほど古くからある、有名なゲームだ。
もちろんあちこちのハードに移植されてもいるから、俺でも知っている。
昔、家にあったゲーム機で兄貴が遊んでいた。
今はオンライン対応になっているのか。
「あ、ほんとに強いよ。動画配信とかやってないから目立たないし、敵もCPUだけど、
チームの全員が全員、廃人度とか、体力とか、作戦とか、何かしらで最強だから、
このゲームみたいにGvGがあったら、トップ3に入る自信はある」
確か、あのゲームは難しいと兄貴が途中で放り出した。
そんなゲームでそこまでやれるのなら、このゲームでの急成長もわかる。
ここではまだまだ初心者だが、あんたは必ず強くなる。
他ゲーのトッププレイヤー、それがあんたの下地にしてその正体…!