ネク・ネクル(1)
今日こそ、突き止めてやるんだ。謎解明だ。
私が私の使う身体について、ひとつでも分からないことがあるなんて、もう耐えられない。そんなのは絶対に、私のプライドが許さない。
そうだ、私を誰だと思っている? 宇宙を席巻する、ネク・ネクルだぞ。死体を扱わせたら右に出る者なし、のネク・ネクル族だぞ。宇宙に広がる私の分身たちは、今も絶賛勢力拡大中なのだ。すごいのだ、私は。
その私が……地球人の死体ひとつ、満足に扱えないだなんて。いい物笑いじゃないか。
「……遅いな」
そろそろ、ガッコウから帰ってくる頃合いのはずだが。何をやっているんだ、彼は? 私を待たせるなど、全く。私はネク・ネクルだぞ?
まあ、私が勝手に待っているだけだから、彼に落ち度はないわけだが。
「む……」
しかし……なんだ? 先ほどから道行く地球人に、じろじろと……何か、見られているような気がする。ヘンだな? 遠目にはバレないと、ロリーも言っていたんだが。
私は、今やこの家の住人だぞ? 庭先の生垣に身を潜め、隣家の住人の帰宅を密かに待つという行為の、どこにおかしなことがある? それともこれはおかしいのか、地球人的に?
ああ、いや待て。分かったぞ。そうか、そういうことか。
私はこの身体に、服を着せていない。
「……何やってんの? キルスティン。そんなとこで。そんな恰好で」
「うひぃぁはぅ!?」
「うわ、ヘンな声だ」
まただ。この感覚だ。この声を聞くと、この身体はびくりと跳ねるのだ。どうにも、上手く動かせなくなるのだ。
動かせ。口を。怪しまれないように、上手く。
「や……やあ。あの、おかえり、エリオット……その。私はただ、あれだ。その、あれなんだ」
「またおばさんに追い出されたの? ひどいよね、そんな下着姿で」
「そう。それなんだ、そうなんだ。全く、参ってしまうな。ははははは」
ああ……何だというんだろう? この感覚は? 地球人特有の疾病の症状だろうか?
この地球人の子どもを目にすると、どうしてもぎこちなく、身体が固まってしまうのは、なぜなんだろう?
「ていうか、お隣同士なのに、なんか久しぶりだよね。昔は良く一緒に遊んだのにさ。小さい頃は」
「あ、うん……そう、だな。良く、遊んだな……小さい頃に、うん」
彼と会話をすると体温が上昇して、心臓の脈動速度がとめどなく上昇してしまうのは、なぜなんだろう?
この、頭が真っ白になってしまうような……身体の芯からとろけて燃え尽きてしまうような、この奇妙な感覚は、なんなのだろう?
「……ねえ。キルスティンって、そんなしゃべりだっけ? その目も、どうしたの? ケガ?」
「いや、あの、これは。この眼孔の損傷は非常に特殊で、私にも修復できなくて、今は私自身の器官を再構成して補完しているのであって」
ああ。思わず顔をそむけてしまう。ロリーにいくら見られたって、何でもなかったはずなのに。
何だか彼には、この左目を、見られたくない。
「なんか、変わったね。キルスティン」
「そう……だろうか?」
ああ。なぜだ。知られたくない。彼にだけは。
「……そう。そうなんだ。変わったんだ。私は」
「うん」
屍生生物、だなんて。私は。
「この地球に暮らすには、誰もが、変わらずにはいられないから……」
「ふぅん……? そうだね。確かに、そうかも」
なぜ私は、こんなことを言っているのだろうか。なぜ、こんなことを思考しているのだろうか。
そもそもネク・ネクルは、思考する生物だっただろうか。
「今のほうが、ずっといいと思うよ。だーって前はさ、キルスティン、ボクに意地悪ばっかしてたもんね? ちょっと年上だからってさぁ」
「そ、そうだった、かな。それは、あの……謝る。ごめん。ソーリー?」
「あはは。ヘンなの!」
ああ……なんなのだろう。本当に、この感覚は。
頬が、ひどく熱を持っているんだ。




