カム・カムフラム(1)
「はっ……はっ、はっ……はァ、はっ、はっ……はァ、はァ……」
いい星だ、地球は。本当にそう思う。今じゃすっかり、愛着も湧いた。
こんな綺麗な星は、見たことない。故郷で良く眺めてたあのガス雲に似た青い空は好きだし、地球人の作るゴチャゴチャとした町並みだって、住んでみれば悪くない。最近は釣りにハマってる、食うこと以外の楽しみがこの世にあったなんて、俺は初めて知ったんだ。
それに何より、空気がウマイ。空気をウマイと感じるなんて、一体、この世の誰に想像が付くっていうんだ?
ああ、こんな星があったなんて。
「はァ、はァ、はっ……はっ、はァ……ああ、くそ。ちくしょう。はァ、はァ、はァ」
地球に溶け込むために、俺はあらゆる努力をしてきたから、そんな俺だから、分かるんだ。出会いがしら、一目散に逃げだす時間を一瞬でも弾きだすことができたのは、その知識のおかげだ。
一目で分かった。こいつは最悪だ、と。
「くそ……ああ、はっ、はっ、くそ、ちくしょう……ああ、ああァ」
だって、そうだろう。普通、地球人は背中から触腕を三本も生やしてないし、手のひらに螺旋状の歯列だって並んでないし、腹にぽっかり開いた口から唾液だって漏らさない。
最悪だ。最悪のヤツに目を付けられた。ネク・ネクル。この宇宙で最悪の屍生生物。こんなところにまで来ていたなんて。楽園だと思ったのに。この星は、最後の……。
「う、あああ、ッ」
伸びてくる触腕を間一髪、腰をひねって避ける。
逃げるしかない。俺のちっぽけな擬態なんて、今さら通じやしないだろう。連中はハンターだ。狩り、殺し、植え付け増える。そうなったら、終わりだ。星は全部、こいつらに覆われ尽くして終わる。つまり、もう終わってるってことだ。
ああ、くそ。ちくしょう。こんなイイ女を。地球人の美醜の基準ってやつが、俺にもようやく分かりかけてきたところだ。すこぶる条件の良い死体を見つけたらしい、汚らしい寄生虫め。
「ああ、ああァ……嫌だ。こんな、こんなの……こんな死に方、俺、そんなのの……そのために、来たわけじゃ……あああ、うッあ!!」
触腕が壁を砕いて、転がった瓦礫に蹴つまづいて、ああ。やっちまった。やっちまった。
こんな。こんな終わりか。故郷を遠く離れて、ずうっと旅をして、ようやくたどりついたのは、楽園じゃなかった。なんてこった。ああ、なんてこった。こいつらに寄生されて、死んで身体を乗っ取られるなんて、そんなのが俺の、俺たちの、
「……止まれ!!」
止まるさ、止まる。けど俺だって、タダでお前らのために、居心地いい家を提供してやろうだなんてつもりはさらさらない。そうだ、そうとも。宇宙の害虫め、クソッタレな病原菌め。
……ん?
「待て。お前を殺す気は無いんだ、落ち着いてくれ。ちょっと聞きたいことがあるだけだ。頼むから」
「……は、えェ?」
害虫が妙なことを言った。




