リコ・ガルボア(1)
「俺の、何が分かるんだ。お前に」
今までに、何度か言ってやったことがある。そのたび真っすぐな目で、こいつは俺を見る。
そう、俺を真っすぐに見つめる、この目だ。
「分かるってば。リコって結構分かりやすいよ? みんなはそう思わないみたいだけど」
見透かすような……青く透き通ってて、混じりけがなくて。それでいて深くて、底が知れなくて。
いつだって、こいつはそうだった。
「でもさ、だから良いって思うんだ。ボクはさ。リコだから、ついてこうって思うんだ」
「やめろ。やめろ……」
何だったか、くだらないイタズラがバレて、先生に頬を張り倒された時も。ツーリングの最中に転んで、とがった木の枝がざっくり、腕を貫通した時も。
ネッドのクソ野郎にナイフ突きつけられて、囲まれて、ライターで前髪焦がされた時でさえ。
痛みに涙こそ流しても、こいつはいつだって叫び声ひとつ上げやしなかったし、顔を歪めることすらしなかった。ただの一度も。
「おい、よく考えろ。黒人のリーダーなんてものがいかに体が悪いか、お前は分かってない。理解してない、全く、ひとつもだ。俺は……」
「そういうのさ。ダサイよ、いい加減。なんだってのさ、くだらない」
いつだって、こいつは言うんだ。戸惑いもためらいもなく。
細っこくてなよなよしてて、女みたいな顔してるくせに、こいつは。顔色ひとつ変えずに。
「言わせとけばいいじゃないか。分かってるよ、ボクは。リコ。本当はそんなのどうでもいいって思ってるくせに、ボクらのことばっかり考えててさ。キミはさ」
「……エリオット。分かってない。お前は」
「リコ。知ってるでしょ? キミはさ、ボクたちがキミのこと、どう思ってるか」
このところ……いや。もうずいぶんと、付き合いも長い。昔から、何となく感じてはいたのかもしれない。
頭の片隅にちらつく俺のそんな思いは、どうやら、確信に変わりつつある。
「リーダーは、キミしかいないよ。ボクじゃ無理。分かるでしょ? ね。はぁ……何だってそう、自信が無いのかなぁ。普段はそんなとこ、誰にも見せないのにね。無口でクールで、でっかくて頼りがいがあって、それで……」
こいつは、心の一部が、死んでいるんだ。