エリオット・エバンス・ワーグナー(1)
地下室下りたら、またガブさんが吐いていた。
犯人は分かり切ってる。ボクはすかさず階段を駆け上がって、
「ジェニー!! エイミー!! また地下下りたろ、行くなって言っただろ!!」
「へえい」
「うーい」
イタズラ双子め。まるで反省しちゃいないんだ。
ドアを蹴って閉めてから階段を下りると、ガブさんがまだ盛大にゲーッと赤黒いのを吐き出しながら、ふらふらと起き上がったところだった。
「ていうか……何で、食べるのさ? 吐くの分かり切ってるのに……」
「るせえ。こんな異郷でよ、食いモンもねえとこに、親切な原住民が俺んとこ来て、差し出すんだよ。いかにも美味そうな……ドブ犬のハラワタみてえな……食うだろ? 普通は」
「食べないよ」
とことん地球の食べ物が口に合わないガブさんは、いつだって飢えていて、そうやって目の前に差し出されると、我慢ができないらしい。
ガブさんの身体が受け付ける唯一の食べ物といったら、
「持ってきたけど。いる? 食べられる?」
「よこせ。おう、これこれ」
ブラッドリー・フライド・チキンのオリジナル、1ピース。これに激辛デスコヴィル・ソースを死ぬほどぶっかけたのが、ガブさんの大好物。放り投げてやったら、でっかい口で空中でキャッチして、一口でぱくりと食べた。
「がふ、はふ……うめえ。うめえ……がふ、がふ。はふ」
うえっ。いつ見ても……ボクは、辛いのは苦手だ。ペネロピーはボクのこと、舌がお子様なのね、なんて言うけど、こればっかりは趣味・嗜好の問題だとボクは思う。
ガブさんは大食いだけど、少なくともそうして一日1チキンをボクの小遣いから献上していれば、とりあえず満足してくれる。まあ、いくら腹を壊して吐いたって、足の一本や二本引っちぎられたってガブさんは死なないし、病気もしなけりゃノミもシラミも付かない。たぶん犬を飼うよりは、ずっと気がラクなんじゃないかな? あの強酸性のヨダレをまき散らすのだけは、ちょっと勘弁してほしいけど。
「ぐぉぉぉぇぇぇっぷ!」
……あと、これも。
「おう、美味かったぜ。地球のメシはこれだからやめられねえ」
「そりゃあ、どうも」
「そこんとこ、お前さんたちにゃ感謝してんだ、おれは。だがな、エリオット……お前にひとつ、どぉーおしても! 伝えておかにゃあならんことがある。分かるか? なあ坊主」
6本足の一番後ろで首のあたりをかりかりとやりながら、ガブさんは顔をしかめて言った。
「お前の妹ども、ありゃあ悪魔の双子だ。何てモン食わせやがる」