ネク・ネクル(2)
確かにな。これまでの私や私の分身たちの行いを振り返れば、きっと私は、さぞかし忌み嫌われているんだろう。分かってる。屍生生物なんて、誰が見てもグロいしキショい。あ、これは、ロリーの言葉づかいがうつったな……ともかく誰もが、私たちをそう思ってるんだろう。
だが、ちょっと待ってほしい。それは私たちにとって単純に生きるための営みであって、いたずらに誰かを傷つけようと思ったり、意味も無いのに損壊したりなんてつもりは毛頭ないのだ。何も好き好んで、そんなことをするつもりはないのだ。
なんていうか……うん。私たちは、たとえば地球人と比べたら、ひどく次元の低い生き物なんだ。この身体の扱いに慣れていくうち、本来の私が持たないこの脳という器官について深く知っていくうち、私にはそのことが、痛いほどに理解できてきた。
地球人は、知的生命というものは、どうしてこんなにも複雑精緻なのだろう。
「野郎、寄生虫め!! 宇宙の癌細胞め!! こんなところにまで来やがって……!」
「囲め、絶対に逃がすな!! 逃がしたら終わりだぞ……!」
「接近戦はやばいぜ、おいお前、飛び道具持ってたろ! 何かゲロ吐くやつ! あれ使え、撃て!!」
「ゲロじゃねえよ、溶解液だ!! おげェエエエエエエ」
まるっきり、ゲロじゃないか。悪いが、そんなものに当たってやる気はないぞ?
いやそれより、私だ。私のことだ。
より表現に正確を期するなら、ネク・ネクルの中で知的生命と呼んで差し支えないのは、今のところ私だけだろう。地球人の肉体が、私に……思考する能力、などと。こんなものを与えてくれることになろうとは。キルスティン・キトウィッグに何らかの特異性があったことは否定し切れないが、今のところその決定的な根拠は見つけられていない。
……言ってるそばからこれだ。根拠ときた。ネク・ネクルが。
「ぐ、っあ……!?」
「おいっ、大丈夫かゲル・ゲルニウム!? くそっなんだよあの触腕、あんなはえーの見えねーよ!!」
「畜生、寄生されたか!?」
「いや、まだ生きてる! 何だってんだ、おちょくりやがって、クサレムシが……!!」
目の前のこいつらや、地球人に比べて、私たちのなんと単純なことか。殺す。寄生する。増える。殺す。寄生する。増える。増える。増える。増える。
うんざりだ。
「あー、お前たち。頼むから、ちょっと話を聞いてくれないか? 確かに私はネク・ネクルだが、意味も無く誰かを殺したり、寄生したり自分を増やしたりするつもりはないんだ」
「なんだ、何か言ってやがるぞ!?」
「ネク・ネクルってしゃべんのか!? おい!」
「知らねえよ、こんなクソッタレ生物のことなんざ、知りたくもねえ! さっさとやっちまおうぜ!!」
ぬああああ、人がナーバスでセンチメンタルでブルーな気分に浸っているというのに、面倒な奴らだな!
仕方がない。あまり、こういうのはやりたくないんだが……ロリー、怒るかな? 怒るよなぁ……怖いんだよなぁ、あの目。睨まれると、下腹部からあの黄色い排泄液が噴き出しそうなくらい怖い。
「まったく、なあ、お前たち。私より、よっぽど怖いんだぞ?」
「う……うわぁっ!? なんだこいつ……なんだこいつ!?」
「頭から、真っ二つに……なりやがっ……? あああ、中から!! 中から……!!」
「よ、避けろぉぉぉぉぉぉ!!」
だから、殺さないというのに! 分からん連中だなぁ!!