ティモシー・"ビッグベア"・エリス(1)
いまだに、あの夜の夢を見る。幾度となく。砕けたコンクリ、超高温に赤熱する残骸。しゅうしゅうとしきりに何かが漏れる音。焼け焦げて横たわるエイリアンの死体。
踏みにじるように瓦礫へ足をかける、我らがクリスタルガール。その、青ざめた水晶の輝き。
まるでつまらないゴミを見下ろすかのような、冷徹で透き通るあの瞳。僕を真っすぐに見つめる、あの青い瞳。
「どうしたの? 呆けたみたいに。エリス先生?」
空気を切り裂くような、凛として張りつめた薄氷が鳴るような、この声。僕の耳朶をくすぐる、この軽やかな声。
あの頃と、何も変わらない。
「ちょっとね。君と初めて出会った時のことをね。それより、今は……僕らしか、いないよ?」
「ふふ。そうね、ティム」
彼女が誰にも、クラスメートの女の子たちにも……もちろん男の子たちもだけど、この綺麗なブロンドの髪や細くて折れそうな身体を、絶対に触れさせようとしないその理由を、僕は知っている。知っていることに、僕は、優越感を覚えずにはいられない。彼女の小さな身体が見た目よりずいぶんと重たいことも。青い肌へそっと触れると、ひんやりと冷たいことも。
「君とふたりきりだなんて、こんなところを見られたら、僕は生徒からも教師からも総スカンだね。学校から追い出されてしまうかな」
「大丈夫よ。無粋な目撃者には、か弱くて可憐なペネロピー・マーロンじゃなくて、もっと年相応の女性にでも見せておくから。たとえば……音楽のオランド先生とか」
「……それはそれで問題が」
「ふふ。冗談。忘れた? 私、いつでも透明人間になれるのよ」
彼女はいつだって、僕を手玉に取る。ころころ、ころころと、太り気味の僕の身体を手のひらで転がして、そのたび少しばかり意地悪なことを言って。
「コーヒーは?」
「ありがと。いただくわ」
今は昼食を食べに出ているジェファーソン先生のデスクへ悠々と腰かけて、カップに口をつける彼女が足を組み替えるその仕草が、彼女の作るまやかしの幻像だと、痛いほどに理解しているはずなのに。僕はいつまでたっても、彼女のふとももやスカートの奥への興味を振り払うことができない。
あの頃と、何も変わらない。彼女も。僕も。
「それで、キラ、例のあれはどう? エリオットくんと、リコくんとやってるあれ。エイリアン・ビジランテだっけ」
「そうね、今のところ上々よ。あなたと違ってまるでお子さまで、困ってしまうけれどね、あのふたりときたら……ともかく、先週は四人ほど仕留めたわ。私の町を食い物にしようだなんて、悪い子たちをばっさりと、ね。ふふふっ」
ああ。笑う彼女はいつだって、強くて、尊大で、僕らの女王様で。強がりの負けず嫌いで。それでいてどこか抜けてて、気が弱いところもあって。
「さすが、君だね。あの頃と変わらないよ」
「そう? あなたはずいぶんと、大きくなったわね。横に。今でもあの頃みたいに走れる? あの夜がもう一度訪れたとしたら、必死に、全力で」
「はは、ちょっと無理かな……でもきっと、頭に水晶のクラウンをかぶったカッコイイ誰かが、守ってくれるんじゃないかな」
「おあいにくさま、私だっていつまでも、子守ばかりしているわけにはいかないの。なーんて、ふふふ! しょぼくれた顔しちゃって。冗談よ、もちろん、友だちでしょう? いつまでだって。ずーっと、ね」
ああ。そんな彼女が、僕は愛おしくて、愛おしくて、たまらない。
あの頃と、何も変わらない……夢を見るんだ。僕は恋に臆病な、少年のままで。