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エイリアーナ・プレデリカ  作者: 墨谷幽
13/15

ティモシー・"ビッグベア"・エリス(1)

 いまだに、あの夜の夢を見る。幾度となく。砕けたコンクリ、超高温に赤熱する残骸。しゅうしゅうとしきりに何かが漏れる音。焼け焦げて横たわるエイリアンの死体。

 踏みにじるように瓦礫へ足をかける、我らがクリスタルガール。その、青ざめた水晶の輝き。

 まるでつまらないゴミを見下ろすかのような、冷徹で透き通るあの瞳。僕を真っすぐに見つめる、あの青い瞳。

「どうしたの? 呆けたみたいに。エリス先生?」

 空気を切り裂くような、凛として張りつめた薄氷が鳴るような、この声。僕の耳朶をくすぐる、この軽やかな声。

 あの頃と、何も変わらない。

「ちょっとね。君と初めて出会った時のことをね。それより、今は……僕らしか、いないよ?」

「ふふ。そうね、ティム」

 彼女が誰にも、クラスメートの女の子たちにも……もちろん男の子たちもだけど、この綺麗なブロンドの髪や細くて折れそうな身体を、絶対に触れさせようとしないその理由を、僕は知っている。知っていることに、僕は、優越感を覚えずにはいられない。彼女の小さな身体が見た目よりずいぶんと重たいことも。青い肌へそっと触れると、ひんやりと冷たいことも。

「君とふたりきりだなんて、こんなところを見られたら、僕は生徒からも教師からも総スカンだね。学校から追い出されてしまうかな」

「大丈夫よ。無粋な目撃者には、か弱くて可憐なペネロピー・マーロンじゃなくて、もっと年相応の女性にでも見せておくから。たとえば……音楽のオランド先生とか」

「……それはそれで問題が」

「ふふ。冗談。忘れた? 私、いつでも透明人間になれるのよ」

 彼女はいつだって、僕を手玉に取る。ころころ、ころころと、太り気味の僕の身体を手のひらで転がして、そのたび少しばかり意地悪なことを言って。

「コーヒーは?」

「ありがと。いただくわ」

 今は昼食を食べに出ているジェファーソン先生のデスクへ悠々と腰かけて、カップに口をつける彼女が足を組み替えるその仕草が、彼女の作るまやかしの幻像だと、痛いほどに理解しているはずなのに。僕はいつまでたっても、彼女のふとももやスカートの奥への興味を振り払うことができない。

 あの頃と、何も変わらない。彼女も。僕も。

「それで、キラ、例のあれはどう? エリオットくんと、リコくんとやってるあれ。エイリアン・ビジランテだっけ」

「そうね、今のところ上々よ。あなたと違ってまるでお子さまで、困ってしまうけれどね、あのふたりときたら……ともかく、先週は四人ほど仕留めたわ。私の町を食い物にしようだなんて、悪い子たちをばっさりと、ね。ふふふっ」

 ああ。笑う彼女はいつだって、強くて、尊大で、僕らの女王様で。強がりの負けず嫌いで。それでいてどこか抜けてて、気が弱いところもあって。

「さすが、君だね。あの頃と変わらないよ」

「そう? あなたはずいぶんと、大きくなったわね。横に。今でもあの頃みたいに走れる? あの夜がもう一度訪れたとしたら、必死に、全力で」

「はは、ちょっと無理かな……でもきっと、頭に水晶のクラウンをかぶったカッコイイ誰かが、守ってくれるんじゃないかな」

「おあいにくさま、私だっていつまでも、子守ばかりしているわけにはいかないの。なーんて、ふふふ! しょぼくれた顔しちゃって。冗談よ、もちろん、友だちでしょう? いつまでだって。ずーっと、ね」

 ああ。そんな彼女が、僕は愛おしくて、愛おしくて、たまらない。

 あの頃と、何も変わらない……夢を見るんだ。僕は恋に臆病な、少年のままで。

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