エリオット・エバンス・ワーグナー(3)
ダイヤルを何とはなしにくるくる撫でていたら、ジリリと電話が鳴った。
「ハァイ、エリオット」
「ハイ、ママ」
一週間ぶりのママの声は、相変わらず弾んでる。良い旅を満喫中ってところかな。
「どう? 今週は何か、変わったことは? 妹たちはどうしてる? パパはむすっとしてる?」
「特に、何も。パパは仕事に夢中だし、ジェニーもエイミーも手が付けられないよ」
「それはグッドね、グーッド!」
電話の向こうで、ママはけらけら笑う。
週に一度、ママはこうやって電話をかけてきて、根掘り葉掘りとボクや家のこと、学校のこと、友だちのこと……楽しかったこととかイヤなこととか。とにかく何でも、聞きたがる。そのうちの全部を話すことはないけど、夜のこととかは適当に隠して話したら、ママは楽しそうに笑ってくれる。
「フフフ。すっかりお兄ちゃんだね、エリオットってば」
「あのさ、ボクさ、この前高校生になったんだけどな」
「あれっ、そうだっけ? 早いなぁ。子どもの成長って、そんなに早いんだなぁ」
そんな人ごとみたいに。どうもママは、ママであることの自覚が欠けてるって思うんだよね。ボクらを置いて、ずっと遠くに行っちゃうくらいだし。
まあ、だからボクが代わりに、家の中をどうにか回してるんだけど。
「あ、子どもって言えばさ。そういえばママ、この前エリス先生が言ってたんだけどさ」
「うん、ふとっちょティムが何か言ってた?」
「ママって、"ロケットクイーン"なの?」
一瞬間があって、ママはすぐにぶふうって吹き出して、爆笑した。
「ぷ、あっははは! そうそう、そんな風に呼ばれてんだったわ、子どもの頃」
「本当に? じゃあ、マーゴ・"ロケットクイーン"・ワーグナー?」
「その頃はまだワーグナーじゃなくて、オニールだったけどね。くふふふ……」
ハチャメチャなママが、まだボクより小さかった頃を想像する。
……上手くいかないな。想像できない。
「っていうかエリス先生にきつーく言っときなさい、輝かしい我らが青春の……若気の至りってやつをおおっぴらにするのなら、あなたの屋根裏おねしょ事件の全貌もまるっと大公開しちゃうからね、って」
「えっ何それすごく知りたいんだけど」
けらけら笑って、ママは、ヒ・ミ・ツ♪ と言った。仕方ない、本人に聞こう。学校で聞こう。
ママと30分ばかり色んな話をして、
「じゃあねママ、愛してる」
「おやすみ、エリオット。ママも愛してるわ」
ボクはかちゃんと受話器を置いた。