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エイリアーナ・プレデリカ  作者: 墨谷幽
11/15

ガブ・ガブル(1)

 とにかくおれは、腹が減っているんだ。

 おれの夜歩きに坊主は良い顔をしないが、まあ知ったことじゃない。毎日のチキンには感謝しちゃあいても、だからといって鎖で首輪に繋がれてるつもりもない。別に餌付けされてるわけじゃあない、本当だぜ?

 時折、車道の真ん中にひっくり返ってる小汚え酔っ払いとか、仕事帰りの細っこいメスガキとか、あのクソシェリフと目が合ったりすることもある。そんな時ゃ後ろ足を影の中に隠して、前足と真ん中足だけ出しといて、道端で残飯をあさるみすぼらしい野良犬のフリでもしときゃ、やつらは簡単に通り過ぎていく。フリだぜ、フリ。本当にあさったことは……ま、2回くらいか。

 何しろおれは、腹が減っているんだ。

 地球の食いモンがこれほどおれに合わないと分かってたら、おれはわざわざ来なかったはずだ。いいとこだって聞いてたが、そこだけは誤算だった。結局おれは、おれと同じように地球くんだりまで逃げてくるアホの中から、特に好戦的で地球人にバレようが知ったこっちゃないぜ、好きにやらせてもらわあ、ってな激アホを見つけてはつまみ食いをして、どうにか食い繋いでいる。みじめだ。いい加減、それにすっかり慣れちまってるって事実がまた、おれの繊細なプライドを傷つけやがる。

 ちくしょう。夜風が空きっ腹に、染みるぜ。

「おん! おん!」

 ちっ。まただ。バカ犬め。おれを仲間だとでも思ってやがるのか。

「おん、おん! おんっ!」

「野良犬ふぜいが、おれと対等なつもりかい? え? 寄るんじゃねえよ。食っちまうぜ」

「おんおん、おんっ! おんおん!」

 まったく。汚くて臭いんだよ、お前。こう見えて、おれは綺麗好きなんだぜ。

 何犬というんだか知らないが、おれを見かけるたび、泥やら何やらで汚れたこいつは、ひょこひょこおれに寄ってくる。何が嬉しいんだか、千切れそうなほどに尻尾を振りながら。酔狂な野郎だ。

 違った。メスだっけこいつ。

「わふ。わふん」

「またかよ。きったねえな、それ、今度は何くわえて……いや、だからな。おい。おれは、食えねえの。吐いちまうの。いらねえって」

 顔を合わせるたび、こいつはゴミ箱の中や公園のベンチの下、電話ボックスの陰からでも見つけてきた何かしらの戦利品を、何ともお優しいことに、おれへ分けてくれようとする。具がごっそり抜け落ちたタコスの皮とか。マズいバーガー屋が使い切れずに廃棄したレタスのきれっぱしとか。噛みかけのガムの時は、引っぺがしてやるのにえらく苦労したもんだ。何だっておれがあんなことを。

「わふん!」

「……わあったよ。食やいいんだろが、食やあよ。しつけえ野郎……メスだ」

 結局食っちまうおれも、まあ、どうかとは思う。後で吐くのが分かり切ってるとしても、どうにもおれは、そうしちまうんだ。

「! お前……こりゃ」

 バカみたいに舌を出して、アホヅラさらしながら、食え、とこいつはおれに言う。腹減ってんだろ、と。言葉は通じなくても、はっきりと。

 今夜はどうやら、ゲーゲーやらずに済みそうだ。本日二本目のチキン。パリパリに乾ききってるのと、多少ホコリにまみれてるのは、まあ目をつぶってもいい。この際贅沢は言うまいよ。

「あー。なんだな。まあ。おう。ありがとよ」

「おんっ!」

 ちっ。このアホヅラ。笑っちまうぜ。嬉ッしそうな顔しやがってさ。

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