五話 - 盗賊アジトぼっちで襲撃
ちょーっぴり残酷表現があるかもしれません。
ラディアスは囚われの女性を無事救出できるのでしょうか?
洞窟の入り口近くの藪に身を潜め作戦を練る。
いや、作戦もなにも一人なんだから攻撃もサポートも回復も全部俺。で終了だよな。
ちょっと寂しくなってきた。
まぁいい、ぼっちはぼっちらしく一人でやるさ。
俺は魔法は『付与』の一つしか使えない。
でも、俺の持つたった一つの魔法は守備範囲がだだっ広いんだぜ?
何せ、“付与”はどんなものにでも出来る。
そして、俺は“付与”さえすれば...
大抵の魔法は使えるんだからな。
とりあえず見張りを倒すために付与済みの石を投げた。
ーコンッと音が響く。
「ん?なんだ?石?上から落ちてきたのか?」
「知らねぇよ。ところで早く交代にならねぇかな。久しぶりの女なんだし俺も-..........」
男の言葉は最後まで紡がれることはなかった。
石から風が刃のように放たれたからだ。
二つの首がごろりと転がる。
藪から飛び出し洞窟へと走った。
「おい!てめぇ何者っー...うわぁぁぁっ!」
戦果の報告を肴にでもしていたのか酒を飲んでいた数人に向かって剣を振り、炎を繰り出した。
剣が炎を纏っているわけではなく、炎を放射しているのだ。
人間ローストなんて見たくもないのでそのまま走る。
更に奥に行くと大人数に囲まれた。ざっと十人くらいか?
「何者だてめぇ、ここを“疾風の闇”盗賊団のアジトと知って来やがったのか!?楽に死ねると思うなよ?」
幹部の一人であろう偉そうな男がご丁寧にも盗賊団の名称を教えてくれた。
「俺はここに捕らわれている女性を迎えに来ただけだ。素直に渡すなら受け取ったらすぐ帰る。それ以外なら、最悪皆殺しだ」
『皆殺し』殺人狂じゃないんだ、進んで殺したいわけじゃないが、そのくらいの覚悟は突入前にしてきた。
出来るだけ生け捕りに出来ればいいけど、それはよほどの力量差がないと難しい。
多勢に無勢だし、遠慮をするつもりはない。
「馬鹿め!!死ねぇっ!!!!」
俺はナイフに付与した風の力を使い無数の風の刃を繰り出す。
盗賊達の腕や足が切り裂かれてゆく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!腕が!!腕がぁぁ!」
叫んだ男の腕は肩から先が無くなっていた。
「無詠唱の魔法使いだと!!!?国が軍を派遣したってのか!?」
軍だったら一人で盗賊団のアジトに突入なんてするわけねぇだろ。
混乱しすぎだ。
「ふざけんなぁ!!軍がなんだってんだ!!!」
だから軍じゃないって。
心で軽い突っ込みを入れながら風魔法を行使する。あれ?俺けっこう余裕あるのかな?
風の刃に切り裂かれ動きが鈍くなった者から次々に凍らせていく。
死ぬかもしれないが運がよければ仮死状態になり解凍されれば目覚めるだろう。
この際どっちでもいい。
無事最奥に辿り着き、防衛の結界を剣で切り裂いて中に入った。
中には五人ほどの男がいた。一番後ろにいるのが頭目だろう。暗い澱んだ目をしていた。
そしてその隣には半分剥かれた状態で気絶している女性が一人。殴られたのだろう右頬が腫れている。
盗賊達の苛立たしげな様子を見るにギリギリ間に合ったようだな。
こんな奴ら成敗だ成敗!許せん!
「うおぉぉお!!!」
俺は気合と共に盗賊達に向かっていった。
一人切り伏せ二人目をナイフで心臓を一突きにする。三人目に襲いかかろうとした時に背筋に悪寒が走った。頭目らしき男が歪に嗤う。
「死ね!!」
「敵を切り裂けぇ!!エアスラッシュ!!!!」
俺に向かって全方向から風の刃が降り注ぐ。俺が放つ風の刃ほどの威力じゃないがあまりに突然だったため対処が遅れた。
全身を切り刻まれる。
「...つっ!!」
完全に防ぐことは出来なかったがなんとか深くなりそうな傷は負わずに済んだ。
魔法使いの男は自信を持って放った致死の魔法を完全でないまでも防がれて呆然としている。
「俺の魔法を...防いだ?」
次の魔法を放たれる前に魔法使いの男を袈裟懸けに切りつけた。そして足元を凍りつかせ動きを封じてた男へナイフを投げ絶命させた。
俺はゆっくりと残る一人、頭目へと剣を向けた。
「ククッ...ククククク...俺の手下を全員殺っちまうとはなぁ...へへ、てめぇやるじゃねぇか。どうだ、今なら俺の側近にしてやるぜ?この女が欲しいなら好きなだけ抱けばいい。貴族の後ろ盾もあるんだぜ?いい思いをさせてやる。とうだ?てめぇにとってもいい話ー」
「...屑が」
話を最後まで聞くまでもない。
俺はナイフに付与された土魔法で洞窟内の土を操り頭目を急所を外して刺し貫いた。
「おい、大丈夫か?」
気を失ってる女性の肩を軽く揺すってみた。よく見たら同い年くらいの少女だ。銀色の髪は長く、猫耳が生えている。ギルドの受付嬢マリーさんと同じ獣人のようだった。
「う......んん...」
すぐに少女の意識は浮上しぼんやりと瞼を上げる。俺を見るとはっきりと怯えの色を瞳に宿し、震えだした。あまりの恐怖に悲鳴すら出せないらしい。
「あ...あぁぁ.......」
汚らしい敷物の上でガタガタと震え絶望を貼り付けた表情に心が痛む。
さっきの盗賊も男で俺も男だ。この怯えきった少女には同じに見えても仕方ない。
しかし、こちらには害意がないことは分かってもらわなきゃいけない。
出来るだけゆっくりと近づき腰を落として、目線を近づける。
「大丈夫か?俺は盗賊じゃない、酷いこともしないぞ?助けに来たんだ」
そっと頭に手を乗せゆっくりと撫でた。
乗せた時こそびくりと肩を震わせたが徐々に落ち着きを取り戻しているようだった。
「...叩かない?」
少女が震えながら小さく聞いた。猫耳もぺたりとしおれている。
俺は当然答えた。
「叩くわけないだろ?...怖かったな」
慎重に少女の背に手をまわし、落ち着かせるようにぽんぽんと優しく叩いた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
火がついたように泣き出した少女をあやす様に背を叩く。
やがて泣きつかれた少女は緊張の糸が切れたように意識を失った。
とりあえず今日は外で野宿をすることにした。
盗賊を討伐して猫耳の少女を救出して外に出たら雨はすでに止んでいたからだ。
どうして洞窟で野宿しないかって?
さすがに血溜まりが点在し、血臭漂う洞窟で夜は明かしたくないだろ?実行犯俺だけどな。
火魔法で野宿する範囲だけ乾かして少女を寝かせる。
腫れた右頬を見て【回復魔法】の付与を忘れていたことに気付いた。今自分の持ち物で付与に適してそうな武具類はあったかな?とインフィニティボックスを探したがちょうどいいのがない。
「まぁ、今はこれでいいだろ」
仕方ないからその辺の木の枝を一本拾い【回復魔法】を付与した。
腫れた頬を治療してから即席魔法具と化した木の枝を折り付与を消滅させる。街に戻ったら何か武具類を買おう。
火を熾し、さっき狩ったばかりのラージラビットを捌き一口大にして串に刺してゆく。
ちょうど焼きあがっていい匂いが立ち込めた頃に猫耳の少女は目覚めた。
俺を見て一瞬びくっと怯えるように全身を強張らせたが救出された場面を思い出したのか少しずつ近寄ってきた。
警戒しつつ近寄ってきたが、結局俺にぴったりとくっつく形で落ち着いた。
どうやら俺を安全な人と認識してくれたようだが、ここまでくっつかれると俺の方が落ち着かないが仕方ない。
しばらくぱちぱちと火が爆ぜるのを見ながら沈黙していたが、兎肉が焼きあがったようなので猫耳少女に声をかけることにした。
「肉が焼けたけど、食うか?」
少女は猫耳をぴこぴこと動かしこくりと小さく頷いた。
食料でお腹も満たし、落ち着いたところでいろいろ聞くことにした。
「名前は?歳はいくつだ?」
問われた猫耳少女は俺の正面に座ると頭を地面に付くほど下げた。土下座だ。
「私、の、名前...はミレイ。14歳。助けて、いただいて、あり、ありがとうございます」
「ああ、ほら、そんなに頭を下げなくていい。どこか安全なところまで送っていくから。どこに送っていって欲しい?」
頭をあげさせ何気なく聞いたのだが、ミレイはその言葉を聞き、目に見えて固まった。
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