一話 - さぁ、出発だ。
初投稿です。もうドキドキ。
ご感想や誤字脱字の指摘など頂けたら幸せです。
思いつくまま書いています。よろしくお願いいたします。
俺は、自分の前世を知っている。
前世は日本人だった。
いつものように仕事帰りにコンビニ寄って、酒とつまみを買って帰る途中に居眠り運転の馬鹿に轢かれて死んだ。
まぁ、なんて死に方だよと文句の一つも言いたいところだが、親も兄弟も親戚も、彼女すらいなかった俺としてはそこまで前世に思い入れはない。
そんな起きてしまった過去より、今自分に降りかかっている問題の方が俺にはよっぽど重要だった。
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「義母さん、本当に、何度も話合っただろ?俺は魔法使いなら誰でも使える初級の基本中の基本、『火付け』すら出来ないんだぞ?なのに今更魔法学校へ行けだなんて、どういうことなんだ?」
「だってラディ、貴方には魔力があるんだもの、魔法の才能もきっと目覚めの時を待っているのと思うのよ」
「いや、目覚めの時とか待ってないから。そんなあるかどうか分からない才能の目覚めを待つより少しでも生きる術を身に着けたほうがいいと思うんだ。だから、俺は冒険者になるんだよ。義母さん」
「ラディ....」
そう言って金髪碧眼の美女もとい、義母リアナは悲しそうに項垂れた。
俺は義母さんのこういう顔に弱い。
別にマザコンってわけじゃないぞ。
ただ、血の繋がらない俺を育ててくれた優しい人を悲しませたくないだけだ。
俺は前世で二十一歳という若さで死んだ後、この世界に転生した。
転生したものの本当の親は生まれてすぐに流行病で死んだらしい。
ちなみに前世での親は交通事故で俺が五歳の時に死んだ。
俺は“親”というものに縁がないんだなとつくづく思うよ。
本当の親の二人の親友だった夫婦が俺を引き取りここまで育ててくれた。
前世では高校卒業までは施設で育ったから知らなかった“親の愛”というものは義父と義母が十分にくれた。
だから俺の親は今まで育ててくれた二人だと思ってる。心から感謝してるんだ。
俺に魔法使いになってほしいと両親が望むなら出来るだけそれに添いたいと思う。
でも、俺は魔法が一切使えなかった。
この世界は魔法が存在してる。
存在してるといっても結構貴重でほとんどの人は魔力なんて持たずに生まれてくるのが普通だ。
そんな中、俺は魔力があることは小さい頃から言われていた。
たまたま村に来た魔法使いがそう言っていたらしいからな。
自分でも分かる。この身体の奥深くにたゆたっている何かがきっと魔力なんだろう。
そりゃあ頑張ったさ、魔力があるなら当然魔法を使ってみたいだろ?
前世ではラノベの愛読者だったんだ、大魔法とか憧れるのは当然だよな。
でも、どんなに真剣に集中しても、一言一句間違えずに詠唱しても、毎日倒れるまで訓練しても、
『火付け』どころか水一滴すら出すことは出来なかった。
俺は魔法を使うことを早々に諦めた・・・・
かのように振舞った。
実は、特訓中一つだけ使える魔法があることに気が付いた。それは
『付与』
武器や防具、道具などに火や水の属性をつけたりするあの魔法だ。
俺の育った村は人口50人程度の辺境の小さな村だからよく分からないが、たぶん珍しい魔法なんじゃないかと思う。
属性を持つ『属性武具』は人気だけどあまり出回ないと聞いたことがあるからだ。
普通は魔物の核である『魔石』を使って武器や防具に属性をつけるらしいけど、属性を付けられるほど純度の高い『魔石』は高価で入手困難といわれている。でも、俺の『付与魔法』に魔石は必要ない。
それだけで一儲け出来そうな気さえする。
それに、いろいろ試していたら使い方によってはこれって“チート魔法”なんじゃないか?と思うくらいの汎用性が判明してしまった。
この魔法は扱いに注意しなくちゃいけない。目立ちすぎたらダメだ。
この魔法のせいで両親や義兄、この村の皆に迷惑がかかったらきっと俺は耐えられない。
杞憂で済めばいいがそうじゃなかったら取り返しがつかない。
だから俺はこの魔法のことを誰にも言わずにいた。
上位の冒険者になれば国の権威すら通じないと聞いたことがある。
それを聞いた俺は上位の冒険者を目指そうと心に決めた。
まぁ、この付与魔法が別に珍しくなかったとしても冒険者として世界を巡ってみたいって願望はあるから進路は変わらないんだけどな。
「義父さんの鍛治屋はアルフ義兄さんが継ぐことは決まってるだろ?だから俺は安心して家を出られる。二度と会えないわけじゃない。ちゃんと顔も見せに来るから。そうだな、一年経っても冒険者ランクがDランクまで上げられなかったら義母さんの言うとおり魔法学校で魔法を勉強するよ。それでいいだろ?」
冒険者のランクはGから始まり、Dランクになって初めて一人前の冒険者として認められる。
元B級冒険者である義母が安心するように俺は自分から条件を提示した。
「ラディ...、そう、ね。貴方は小さい頃から冒険者が夢だったものね。...ごめんなさい、我が侭を言ってしまって、冒険者のランクは気にしないで、それで無理をしてラディが怪我をする方が辛いわ」
俺の覚悟が伺える条件の提示に義母はやっと納得したようだった。
「話は終ったか?ラディ」
ちょうどいいタイミングで義兄のアルフが鍜治場から戻ってきた。
黒目黒髪の俺と違って義母の輝くような金髪と義父のアイスブルーの瞳を持つイケメンだ。
「ああ、終った。一週間後には家を出ようと思ってるよ」
この世界では15歳で成人と定められている。
成人になると同時に家を出ようと昔から密かに決めていた俺は迷わずに答えた。
「一週間後とはまた急だな。ちゃんと父さんにも伝えろよ」
「あぁ」
アルフ兄は少し驚いたものの日々冒険者への夢を語っていた俺だから仕方ないと思ったようだった。
それから一週間後、俺はとうとう冒険者として旅立つことになった。
彼の冒険が始まります。私の冒険も始まりました!