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  作者: 東ノ 蜆
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着信①

スマートフォンからメールを報せる軽快な音楽が鳴っている。

私は仕事から帰り一息ついている所だった。

高校卒業と共に今の会社に就職し3年経ち、その環境や生活のリズムには慣れてきたが、仕事後の疲れには一向に慣れというものが無いらしい。

私の勤めている会社は製造関係を生業としている職場で、そんなに大きくない従業員総勢50名くらいの中小企業と呼ばれる会社だ。製造員と事務員に分かれていて、その比率は男性の方が圧倒的に多い。私は事務員として勤めている。

友達からのメールかな。とスマートフォンに手を伸ばし、内容を確認する。

『おつかれさま!気になったんだけど、奈央ちゃんて彼氏いるの?』

それは製造で働く会社の先輩からのメールだった。

彼とは一度親睦会と称した、会社の若い子達で集まった飲み会で連絡先の交換をした以来連絡も、何か交流があった訳でも無かった。

それに私、高橋奈央(たかはしなお)は生まれて21年間彼氏などいた事が無い。

『いないですよ。突然どうしたんですか?』

素直に私は答える。

彼は私より3つ歳上の小塚翔(こづかしょう)という先輩で、会社のみんなから慕われている。

仕事熱心であり、休憩中は仲間達とふざけ合いながら和気あいあいとしている。

もっとも、製造の方の事をよく知らない私は「らしい」というくらいしか知らないのだが。

『そうなんだ!この前のクリスマスパーティー断られたからもしかしてと思ってさ(笑)』

ああ。そういえば先月誘われたんだった。すっかり忘れていた。

それも会社の若い子達で集まってやろうという小塚先輩の企画だったらしい。

それも、というのは、先ほど言った親睦会やそういうあれこれで集まる会を企画するのが大体小塚先輩だからだ。

クリスマスパーティーは家族と過ごすことになっていたので行けなかった。

『それは家族で過ごしてました。すいません。また機会があったら誘ってください』

社交辞令のような返信を済ませスマートフォンを置き、私はお風呂に入ることにした。

これ以上、彼も話すことはないだろう。

おそらくちょっとした興味本位で聞いてきたんだろう。

そう思い、私は疲れた体を癒しに浴室に向かった。




やっぱり日本人にはお風呂よねー!と心身共にさっぱりした気分で部屋に戻ってきた私はスマートフォンをチェックする。

すると小塚先輩から返信が来ていた。

社交辞令的な文が書かれているのだろうと何の気なしに画面を見る。

『じゃあさ、来週の土曜日。個人的に奈央ちゃんをデートに誘っていい?』

頭が真っ白になる。

彼氏どころか、私は今まで男性とデートなどしたことが無い。

それは私が決して可愛いでも綺麗でも無い部類の見た目であることは当然として、学生時代も女子の比率の高い学校へ通っていたこともある。

社会人になってからは何か変わろうと明るく振る舞ったりと意識はしているが、街で見かけるキラキラとした女の子と比べて私は断然イケてない人間なのだ。

その私へデートの誘い。

どうしよう。頭が混乱する。

なんで小塚先輩は私なんかを誘ってきたんだろう。

それも興味本位か。単なる遊びなのか。私なら簡単に落とせると思ったのか。

思考が悪い方悪い方へと傾いていく。

するとまた着信があった。

『突然で困らせちゃったかな?ごめんね。おれもまだ奈央ちゃんのこと良く知らないし、奈央ちゃんもおれのこと良く知らないし、お互いのこと知るつもりでどうかな?』

そうだ。私は彼のことを何も知らない。

彼の気持ちがどうあれ、何も知らないのに先ほどまで彼に悪い考え方を持ちつつあった自分に失望する。それと同時に彼に申し訳なくなる。

だから私は駄目なんだ。

『わかりました。私でよければよろしくお願いします』

人生で初めてデートに誘われ。私は初めてのデートをしようと決意した。

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