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徒然なるままに書き申したる短編集

魔族と人類、悪と善

作者: 森の人

現在連載中の"アイユエニ"という作品の十章を執筆中に、なかなか進まぬ筆(?)からの逃避で書いたものです。

人物名を考えるのが面ど…思いつかなかったので付けてません。

連載ものとして続けようとなったら、それに合わせて名前を付けてあげられるかもしれませんが、今の所はその余裕はなさそうです…。

魔族が悪で人類が善

神は人類を正しい方へと導く神託を下し、それに従う者たちは必ず救われる

魔族、魔王、そしてそのものらが信仰する魔神は全て悪である

魔神は神の敵であり、それは人に甘い声で揺さぶりをかけ、時に偉大なる神になりすまし、人類の破滅、そして魔族の栄華を実現させるべく邪魔をする

まさしく魔族の神『魔神』である

悪の勢力の神、悪神と呼ぶべきか


要するに何が言いたいのかといえば、『人類こそが正義であり、それに仇なす魔族こそが悪なのである』ということだ



そんな相反する二つの勢力の代表者達が衝突前最後の和睦の機会として一堂に会していた。


魔王「なあおい、ゴミ屑ども」

人類側の王A「……貴様、魔王の分際で我々を侮辱するか!?」

魔王「俺らを『魔族』と呼び、自分たちの思い通りにならない、敵対する存在だから"悪"だ、とお前たちはそう言うんだろう?」

人類側の王A「それのどこが間違っている? 正しき神の導きに従い生を営む我々こそが正義であり、貴様ら魔族は悪であることは事実ではないか」

魔王「それが間違いだと言ってるんだよ、ゴミ屑」

人類側の王A「貴様!!」

魔王「お前たちは”お前たちの価値観や都合”で勝手に俺たちのことを魔族だの悪だの言って、自分たちの行いこそが正しいと主張する。…だが俺たちからすれば、お前らこそが、信仰に囚われ神の教えがなんだ神託がどうだと言って俺たちを攻撃してくることこそが悪だ。それに"魔族"だとこの場で言っているのも、お前らとの話を円滑に進めてやろうという俺の配慮に他ならない。俺たちは聖なる種族、”聖人族”と自称しているし俺は聖王と呼ばれている。お前たちゴミ屑のことは聖なる俺たちに仇為す邪の種族、"邪人種"と呼んでいる。これもお前らに合わせて人族、人類と呼んでやっているんだ」

人類側の王B「お前ら魔族が聖なる種族だと? 笑わせるな、奇妙な術を用いて我々人類を蹂躙しておいて何が聖族だ!」

魔王「お前らが奇妙な術と言っているのが聖なる種族であるとこの象徴だろう? それを魔の術だとするのは"お前らの価値観"での話だ」

人類側の王C「魔術に対しての…いえ、あなた方の行使する不思議な術が魔の術だという思い込みは私にもわかります」

魔王「ほう…」

人類側の王B「C、貴様、まさか魔族と繋がっているのか!?」

人類側の王C「B、落ち着いてください。そういうことではありません。彼らの術の中には火の玉を生み出すものや雷を喚ぶものなど破壊を主としたものが多いですが、干魃に苦しむ村に恵みの雨を降らす術を行使した魔族を私は見たことがあります」

人類側の王A「それは真か? 魔族じゃなかったということや、もともと雨が降りそうだった時に偶然魔族がそこにいただけということも考えられるのではないか?」

人類側の王C「いえ、その魔族が術を行使するところも見ましたし、それまでは雲ひとつない晴天でした」

人類側の王A「そんなことが…」

魔王「それで、お前は"魔"術ではないということを理解したというわけだな?」

人類側の王C「ええ。…ですが、それでもあなた方の行いは悪であり、あなた方を魔族と呼ぶ事は変わりません。神を否定するような発言、我々を邪とする発言がその証拠です」

魔王「…この中では唯一、少々見込みがありそうな者だと思ったが、それは間違いだったようだな」

人類側の王C「ご理解いただけませんか…」

魔王「理解? お前たちの価値観は理解しているつもりだが?」

人類側の王C「いえ、理解しておられませんよ。理解しているのであれば、あなた方の行動が悪であるという事実を受け入れられるはずだ」

魔王「おや、先ほど善の行いをした魔族がいると言ったのはお前じゃなかったか?」

人類側の王C「ええ、確かに言いました。ですが、それは例外でしょう。ごく一部のごく少数の例外と言ったものは何事にも付き物でしょう?」

魔王「そこで例外として切り捨て、我々の考えを知ろうとしないところがお前の足りないところだ」

人類側の王C「悪の考えを知る? それで毒されたら、王の立場である私が洗脳されたら人類は終わりではありませんか」

魔王「自分たちの考えと相手の考えを知り、それを分けて考えることができないということがそもそも問題だろう…。やはり、お前らゴミ屑と話しても無駄だったようだな」

人類側の王B「貴様ぁ…!!さっきからゴミ屑ゴミ屑と、喧嘩を売っているのか!?」

魔王「…お前は俺の話を聞いていなかったのか?」

人類側の王B「聞いていた。だがその中に我々をゴミ屑と呼ぶ理由はなかっただろう!」

魔王「……聞いてはいたが理解していなかったということか。お前にもわかるようにさっきの話を要約して言ってやるとすれば、『お前たちが自分たちの価値観で俺たちのことを魔族と呼ぶように、俺たちもお前らのことを俺たちの価値観で邪人種と呼ぶ』だ。つまり、俺は今、俺の価値観でお前らのことをゴミ屑と呼んだ。それだけのことだ」

人類側の王B「この場での共通理解として、我々人類のことをゴミ屑と呼ぶことを決めているならまだしも、貴様個人の考えで勝手にそう呼ぶのは明らかに侮辱だろう!」

魔王「…共通理解になるように、一人ずつ説得するか数を減らしてやろうか?」

人類側の王B「そ、そういった考えこそが悪であり、貴様らが魔族であるという証明なのだ!」

魔王「神の教えだ、神の教えだと馬鹿みたいに騒いで、俺たちの話を聞こうともせずに侵攻をくりかえすお前らが善で、その侵攻を食い止めるために力を行使し自衛する俺たちが悪? …ふざけるのもいい加減にしろよ」

人類側の王C「魔王、とりあえず落ち着い…」

魔王「落ち着いているさ。落ち着いて考えて、お前たちの相手もお前たちの価値観に合わせつつ我慢しながらやってきた。…だがそれに対してお前たちはどうだ? ただ『貴様ら魔族は悪だ。魔族の考えなんて知らないし、知りたくもない』と言って、俺の言葉を、俺たちの考えを否定するだけだった! 歩み寄ろうとし、互いに手をとり合おうと差し出した俺たちの手をこちらを見向きもせずに叩いたんだぞ!? さらに言えば、その後に唾を吐きかけられたようなもんだ! もういい、お前らとの和解は無理だ」

人類側の王A「当たり前だろう? もともと我々に和解の意思などない。悪と正義の和解などあり得ないのだから。和解したと見せかけて裏切ような悪を受け入れるはずがなかろう?」

人類側の王B「そう通りだ!」

魔王「…だからゴミ屑だというんだ」

人類側の王B「貴様、また!!」

魔王「次会うときは俺たち"聖人族"がお前ら"邪人種"を滅ぼすために侵攻したときだろうな。せいぜいそれまで生き延びるといい。たっぷりと後悔できるように嬲って殺してやる」


そう言い残して、人類に魔王と呼ばれ、同胞から聖王と呼ばれる男は立ち去った。



和睦は叶わず、まもなくして戦端は開かれた。

戦力に絶望的なまでの差があったこの戦争は、もはや一方的な蹂躙と呼ぶに相応しいものであった。

降伏した者による裏切りや報復を恐れるが故に一切の例外をなく、完全に滅びたと思われるまで殺戮は続けられた。


囚われ嬲られ死にゆく中で、王は和解をしようとしなかったあの会談に参加していた時の自分を恨んだ。


しかしこの凄惨な出来事を回避するための、本当の、根本的な問題は和睦を蹴った王自身ではない。

恨むべき、そして解決すべき問題は自分と違うものを恐れ迫害し、悪として定めて言い伝えてきた歴史そのものである。

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