乗り越し下車
初投稿です。
昔かいたのを、少しずつアレンジしながらのしていこうと思います。
俺は平凡という生活に満たされ、決してそれに満足しているわけではないのだが、いつからかそれが普通だと割りきり日々生きている。
年齢は29、親元からは離れ独り暮らし、平凡なサラリーマンとして会社に勤め給料も平凡。
趣味はこれといってなく友達も少なからず多からず、高校から付き合っている彼女もいる。
いわば平凡ながらに幸せな環境で生きていると言えばそうなのだろう。
だが、どこかにモヤモヤした気持ちを抱えている。
人は何のために生まれて何のために生きるのか、誰もが一度は考え自分なりの答えを出す問題に悩まされた時期もあった。
結局答えなどまだ出てはいない。
そして今日も俺は生きていく。
7時10分、いつもの携帯から1日の始まりのアラーム。
このまま眠りたい欲望を押し殺し、温もりの残った布団から飛び出す。
顔を洗い歯を磨き髪を整え、チンという音と共に出来上がる食パン一枚。バターを塗りたくれり缶コーヒを横に置けば立派な朝食の出来上がりだ。
そそくさと食道に流し込めば、夜までこの部屋とはおさらばだ。
いつもの道をいつもと変わらぬ時間に歩きいつもの時間の電車に乗る。
朝のラッシュに巻き込まれながらも30分ほど我慢すればいつもの駅。
駅からもいつもの道を歩き会社に到着。
朝の朝礼から始まるどこにでもある会社の風景。
シナリオ通りの仕事をこなし、昼は旨くもない社内食道で済ます。
昼からもシナリオ通りに仕事をこなし、定刻になれば帰り支度をし駅に向かう。
朝よりか幾分ましな電車に揺られいつもの駅。
コンビニで弁当と明日の朝の缶コーヒーを買い、朝おさらばした冷えた部屋に転がり込む。
「ふぅ、」
大して疲れきってもいないが、そんな溜め息に似た声がかすかに漏れた。
シャワーから出ればテレビをつけて、コンビニ弁当を食道に流し込む。
携帯を触りながら見てもいないテレビから聞こえるのは、空き巣、放火、誘拐、殺人と物騒なニュースばかり。
眠気がくるまでそんなテレビと付き合いながら布団に入り眠りにつく。
29ならまだ若いだのとよく言われるが、時代が時代なだけに中途半端な年齢でありこんな日々を過ごしている人は結構いると思っている。
だが、誰もがとは言わないが決してそんな自分に満足はしていないはず、心のどこかで明日は何かいつもと違う事が起こるかもしれないと期待している。
実際はこれといって何も起きない。
そう何か自分で行動を起こさなければ、何も起きはしないのである。
みんなそれもわかっている、わかっているが何もしない。
結局みんな答えを知りながら毎日を平凡に過ごしているのである。
そこで俺は一ついつもと違う事を明日することにした。
帰りの電車で途中下車、いや、乗り越し下車というものをしようと思いついたのだ。
大したことではない、ただいつもの降りる駅を乗り越し、2駅、3駅先で降りて景色でも見ながら家に帰るというシンプルなもの。
そんな無意味な事と人が聞けば笑い飛ばされるかもしれない。
しかし、同じ毎日を淡々と過ごしている俺からすれば何か変化をつけた明日は少し楽しみに思えた。
7時10分、アラームがけたたましく1日の始まりを告げた。
いつも通りの1日が始まる。
だが周りからはわからないだろうが、乗り越し下車をすると決めたことが思いの外1日を楽しくさせていた。
誰にもわからない俺の中の変化である。
もしかしたら通勤中や仕事中も、にやついていたかもしれない。
早く定刻にならないかど思っていたせいか、時間が過ぎるのもいつもより遅く感じていたが、時計がやっと定刻を告げた。
帰ろうとイスから立ち上がったのと同時だった。
「山田くん、すまないが残業してくれ」
この山田とは俺の名前、姓は山田、名は太郎と例文に出てきそうな平凡な名前。
そして今の言葉を発したのは上司である小林課長。
「あ…はい」
二つ返事に答えてしまったが、心の中では思っていた。
(会社入って以来残業なんて一度もなかっただろーが!いやいやまあ百歩譲って残業はいい、なぜに今日?今日は大事な日なんだよ!バカ野郎!)
言葉にしたら解雇だろう言葉が次々頭を駆け巡った、それほどに俺の中では乗り越し下車は楽しみになっていたのだ。
まあ、そんなことを言ってても仕方ないと心を切り替え、とにかく早く仕事を終わらすことに専念した。
しかしだ、コピー機は壊れるブレーカーは落ちるパソコンがたち上がらないなど、ハプニングの連続。
会社を出たのは深夜0時を回っていた。
電車まだあったかと不安に思いつつも駅まで全力で走って行くと、最終であろう電車が今にも走りだしそうな勢いだったので慌てて飛び乗った。
間に合った。
息を切らしながら適当なとこに座り、今日1日を振り返る。
今日は最低な日だった、せっかく乗り越し下車を楽しみにしていたのに1日のプランが台無しだ。
確かにいつもと違う日にはなったがこれは違う。
そんなことを色々考えているうちに初めての残業に疲れたからかウトウトし始めていた。
「お客さん…終点です…」
次に気づいたのは駅員のそんな声だった。
「あ、すいません」
すぐに立ち上がり電車から飛び出ると、すぐに電車は走りだし行ってしまった。
それにしても辺りが暗い、駅名の看板すら見えにくい。
こんな駅あったかと思いながらも早く帰りたいのですぐに駅を出て線路沿いをきた方向と逆に歩き出した。
そんなに不安には思っていなかったのは、俺の降りる駅から終点駅まで4駅ほど歩いても一時間弱で知ってる所にはいけるだろうと思っていたからだ。
俺は結果的に乗り越し下車をしてしまっていた。