第二十三話 ~ダンジョンにいこう(2)
ダンジョン初体験
今日は初のダンジョン探索だ。
準備は万端なのでいつもより少し早めに朝食を食べて宿を出る。
昨日ギルドで聞いた通りに町を出て西の道を進む。
相変わらず良い気候だし、魔物も出ないため気持ちよく小一時間ほど進むと少し先に分かれ道が見える。
西へ直進する道と南に向かう道とに分かれているようだ。
分かれ道に着くと木で出来た簡単な標識が立っており、南に進むとダンジョンと書いてある。
標識に従って、南に進むと岩山の前に砦のような建物があるのが見えた。
「あれがダンジョンの管理棟みたいだな」
「そうみたいですね。
管理棟はダンジョンの魔物と外の魔物に備えるために国の兵士が常駐しているそうです」
昨日ギルドで教えてもらったのかセシリーが教えてくれる。
最近は言われたことだけでなく、自発的に情報収集や必需品の買い出しなどをやってくれてとても助かっている。
そんな話をしながら管理棟に近づくと、入口に兵士が立っていたので、いつものように愛想笑いを浮かべて兵士に話しかける。
「お勤めご苦労様です。ダンジョンにきたのですが手続きはここでしょうか?」
「お前たちは冒険者か? だったらギルドカードを出してくれ」
言われた通りにギルドカードを提示する。
「うむ、問題ないな。……後ろの3人は奴隷か」
兵士がセシリー達の首輪を見たのか聞いてきたので「そうです」と返しておく。
特にそのまま通してもらえそうだったが何かあると嫌なので確認しておく。
「申し訳ないのですが、我々は今回初めてダンジョンに入ります。
何か注意事項などあれば教えてもらえないでしょうか?」
「そうか…… 注意事項か…… 特にないんだが死なないように危険を感じたらすぐに逃げることだな。
ダンジョン内の魔物はなぜか外に出てこれないようだから最悪入口までくれば逃げ切れるらしいぞ」
「そうですか、ありがとうございます。死なないように気を付けます」
そのまま建物内に入り、建物内の裏手に続く門をくぐると岩山に高さが3メートル、横が5メートルほどの洞窟の前にでた。
どうやらこれがダンジョンの入り口のようだ。
セシリー達を見回したが特に気負った風もなさそうだったのでそのまま洞窟に入ってみる。
「んっ?」
洞窟内に入ると外と空気が違うような気がしたので3人に確認してみる。
「入った瞬間に何か感じなかったか?」
「特に何も感じなかったです」
「何も」
「何か薄い膜のようなものを通った感じがしました」
セシリーとアニーは何も感じなかったようだが、ロミーだけは感じたようだ。
自分とロミーが感じるということは魔力関連だろうか。
きっと、ダンジョンの魔物は外に出てこないということらしいから、この空気というか魔力の中でしか生きられないとかあるのだろう。
「推測だが、それがダンジョンの中の空気ということなんだろうな。
動きなどを確認して問題がなければ進もう」
全員で動きを確認して特に外と変わらず動けるようなので先に進む。
ダンジョンの壁は単なる岩肌で知らなかったら単なる洞窟に見えないこともない。
その洞窟は見える範囲では奥にまっすぐ続いている。
事前に用意しておいたランプに火をつけて全員に配り、奥を目指して自分を先頭にロミー、アニー、セシリーと歩いていく。
ダンジョンの奥は覗き込んでも何も見えないし音も聞こえない。
見えるのはランプで照らされた範囲だけ、聞こえるのは自分たちの足音や呼吸音だけという状況だ。
なかなか精神が削られる。
少し進むと奥に進む道が2つある分かれ道に出たので右に進む。
今日はまだマップもないので右側の壁に沿って歩いていこうと思う。
帰るときは左側の壁に沿っていけばいいので迷うことはないはずだ。
右に進んで少し歩くと大きく右に曲がっている道に出た。
何か気配がしたので気配探知をすると、曲り角の向こうに魔物が3匹いるようだ。
気配からしておそらくゴブリンだ。
後ろを向き、3人に小声で伝え指示をだす。
「魔物だ。3匹だ。
自分が突っ込むから、セシリーは流れてくる魔物を警戒。
ロミーは後方を警戒、アニーは魔物が流れたら攻撃だ」
「「「わかりました」」」」
3人が小さく返事を返してきたのでタイミングを見計らって曲り角の向こうに飛び込む。
ランプで照らすと、ゴブリンが3匹いたが驚いているようだ。
そのまま一番近かったゴブリンを斬り下げた後、反応できていない次のゴブリンを斬り上げる。
その時点でようやくゴブリンが攻撃をしてきたが、余裕で躱して返す剣で倒した。
ゴブリン達は地上と同じようにしばらくすると消えて、やはり同じように皮を残した。
辺りに敵の気配を感じないのを確認してセシリー達に声をかける。
「ゴブリンは倒し終わった。後ろは何もなかったか?」
「はい、何もありませんでした」
特に何もなかった割に3人とも疲れているようだ。
暗闇の中、ランプの灯だけで警戒することが精神的に疲れたのだろう。
これは慣れるしかないだろう。
「慣れない場所での戦いに疲れるだろうが気を抜かないでいこう」
3人を励まして先に進むと小部屋のような場所に出た。
こういうところには何かいるんだろうなあとか考えていると、壁の隙間からじゅわーと緑色の何かが染み出してきた。
やがて、染み出してきた緑色の物体は集まったあと塊となってこちらに向かってくる。
どうやら、話に聞いていたスライムのようだ。
動き自体は速くないというか遅い。
緑色の体から腕を伸ばすような攻撃をしてくるがこれも遅いので余裕を持って躱せる。
試しに剣で斬りつけてみたら簡単に切り落とすことができた。
「スライムだ。3人共警戒」
「「「わかりました」」」」
所見ということでまずは自分だけで対処してみる。
今度は腕ではなく、本体であろう塊に斬りつけてみるが、抵抗なく2つに分断できた。
しかし、それらの塊はもぞもぞ動いてすぐに1つに戻ってしまった。
「攻撃が効かないのか?」
思わず独り言が出てしまったが、ふと思いついてステータス確認をしてみる。
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名前:
種族: グリーンスライム
年齢: ―
レベル: 3
体力: 9/10
魔力: 1/1
腕力: 4
器用: 3
知力: 1
運 : 5
技能:
溶解、斬撃耐性
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どうやら、斬撃耐性というのが問題のようだ。
おそらく、体力が減っていることから斬撃のダメージを1にするとかそういうスキルなのだろう。
ただ、体力は少ないからこのまま力押しでもいけそうだ。
グリーンスライムが攻撃を再開してきたのでステータスを見るのを止め、こちらも隙を見て反撃する。
動きそのものは遅いが、攻撃のタイミングや角度などが読みづらいため、隙を見つけるのがなかなか難しい。
それでも何とか10回目となる分断をしたところ、今度はつっつかず、丸い玉を残して消えていった。
ようやく倒せたようだ。
ちなみにドロップはグリーンスライムのコアのようだ。
グリーンスライムを倒せて一息つけたので、セシリー達に声をかける。
「ようやく倒せた。そちらは大丈夫か?」
「ゴブリンが後ろから2匹きましたが問題なく倒しました」
気が付かなかった…… スライムとの戦闘は思ったより長くかかったようだ。
しかし、スライム1匹にこれだけ時間をかけていたら、複数匹いた場合や今回のように別の魔物に襲われるなどがあるかもしれない。
これはスライム対策を考える必要がある。
とりあえず、今日はまだ余裕のある今のうちに引き上げるべきだろう。
「そうか。では、今日は引き上げよう。自分も思ったより疲れた」
セシリー達にも異存はなさそうだったので来た道を引き返す。
特に魔物に出会うこともなく、管理棟まで戻ることができた。
思ったより時間は過ぎていて、お昼を過ぎていたので休憩を兼ねて昼食を食べてからディケロに戻ることにする。
食べながらセシリー達にダンジョンの感想を聞いてみる。
「ダンジョンはどうだったか? 自分は精神的に疲れる感じだ」
「私も同じです。見える範囲が少ないので警戒により気をつかいます」
3人共大体同じような感じだった。
ダンジョンの警戒に関して何か小技などないかギルドで聞いてみるのが良いだろうな。
ともかく、初めてのダンジョンは色々初体験で興味深かった。
今回わかったこともあるし、色々考えて準備もする必要があるな。
まあ、今日は疲れたので、宿に帰って寝よう……




