8.仲直り
皆さんこんにちは.
自分にその気がなくても、
人のためにと思って決断したことでも、
不本意ながら相手を傷つけてしまうことってありますよね.
それでも、一生懸命に想いを伝えれば相手に伝わると信じていたいです.
「∑んぶっふぅ!!?」
「∑んごご…!ぐふん.」
部屋の中に苦しそうな声が充満する.
「ぐふんてwwタ○ソンっぽすぎて笑えるwww」
笑いを堪えすぎてお腹が痛い.
読者の皆さん、お気付きいただけただろうか.
犬島と魚津のお茶には痺れ薬をいれておいたことを.
痺れ薬と言っても、しばらく舌が麻痺する程度のものだけど.
「え?ふ、2人とも…??」
「大丈夫大丈夫.安心したまえ小鳥遊くん.」
「はぁ….」
不審者を見るような、未知の生物を見たかのような怯えた目つきで小鳥遊は私を見てきた.
…本当に小動物みたいだな.
くりくりした目、柔らかな栗色の髪の毛.私とそんなに大差ない身長.
女子に間違われても何も言えないレベルで可愛らしい顔立ちをしている.
「君にちゃんと話してほしいんだ.自分の気持ちを、魚津に.」
「え…?」
「2人一度に喋ったら、声量では確実に負けるだろう??」
だから、小鳥遊のお茶には痺れ薬を入れなかったのだ.
「んどぅどぅ、ごっふ!」
「うるさいぞ、喚くんじゃない.一度でいいから小鳥遊の気持ちを黙ってきいてやれ.」
「んーどどぅー….」
「よりを戻すか戻さないかは、それから決めればいい.それに….」
尻切れトンボで言葉を切ると、全員の目が私に向けられる.
「この家にいる限り、全ての決定権は私にある!」
「「….」」
「んふふん…//」
魚津と小鳥遊が白けた視線を送ってくる.
何だ、犬島を見習え. 奴のように頬っぺた赤くして羨望の眼差しを向けろ.
■□■□■□■□■□■□■□■□゜。・☆
高校入って、君と出会って付き合って.
僕の世界は変わったんだ.
元々引っ込み思案だった僕は、君のおかげで変われた.
色んな人と話せるようになったし、友達も増えた.
でも、半年前、偶然聞いてしまったんだ.
『魚津マジうざくなーい??』
『何で小鳥遊くんと付き合えるわけ?』
『どーせ小鳥遊くんの優しさに付け込んでるんしょー??』
そんな風な噂話が他の所でもされていることを、友人に聞いて知った.
噂が増えてきたのと、ミズ子ちゃんの持ち物が無くなったり、靴がゴミ箱から出てきたりしたのも同じくらいの時期だったよね.
だから、噂話が消えて、君を傷つける奴がいなくなったらまた君と付き合いたいって思ったんだ.
今思えば、その僕の決断も君を傷つけたんだよね.
あの時、君にどうしたいか訊くべきだったんだ.
僕は、君と別れないで噂をしている人たちに君の良い所、可愛い所、全部伝えれば良かった.
そんな簡単なことに気付いたのが最近のことだった.
本当に、バカだよね僕って.
後悔してるんだ、一方的な考えで君と別れたこと.君を傷つけてしまったこと.
「だから、また僕とやり直してください!!本当に勝手な考えだって分かってる.でも!」
ここまでを、小鳥遊は一気に喋った.
今は土下座しそうな勢いで魚津に頭を下げている.
心の底から、魚津の傍にいたいと思っているんだろう.
「今度は、君のこと守るから!!僕、強くなるから!」
「….」
小刻みに震える小鳥遊を、真剣な眼差しで見つめる魚津.
そんな2人を見つめる私と犬島.
傍からみたら、何て異様な光景なんだろう.
「ん、」
魚津が言いにくそうに何か言いかけた.
皆の視線が一気に魚津に集まる.
「ミズ子ちゃん、何でも言って!!僕、君が出した答えならどんな結果でも受け入れるから!」
….
…….
……….
「……んどうふ….」
「ぶっ…!」
まだ舌が麻痺してたのかwww
思わず吹き出してしまった私の頭を誰かが小突いた.
振り返ると、犬島がいなすような目つきで私を見ている.
お前か.
犬島が口だけ動かして言葉を紡いだ.
『ダメでしょ.』
…だってこの緊迫した状況で“んどぅふ”なんて言うから.
むぅ. 何となく頬を膨らますと、ほっぺをぐにーってされた.
やめろ、そんなに肉を引っ張るな.伸びる、伸びる!!
「いいの!!?」
「「∑!!?」」
突然の大声に驚く私と犬島.
え、そういうことなんだ.
「ありがとう!!ありがとうミズ子ちゃん!!僕、大切にするから!」
「んぶぅ…//」
展開が掴めないが、よりを戻すことになったっぽいな….
っていうか何で今ので通じたんだ.
会話らしい会話じゃなかったぞ.
愛か.愛なのか.