5.男というもの
皆さんこんにちは.
夜道には注意して歩いていますか??
今回のお話は夜道が舞台(?)です.
新キャラも登場します.
主人公のように面倒事に巻き込まれないためにも、
皆さん夜道には気を付けましょうね.
こつ、こつ、こつ
規則的に聞こえる自分の靴音.
ローファーから響く、こもったような音は何とも耳に心地よい.
こつ、こつ、こつ.
こもった音は、閑静な住宅によく響いて.
「はぁー….」
白い吐息は夜空に漂い.
こつ、こつ、こつ.
足取りはただ淡々と家へと向かう.
「さむ….」
ゆっくり進むことはなく.
こつ、こつ、こつ.
早く進むこともない.
「マフラー持って来れば良かったなぁ.」
ただただこもった音を響かせながら、家へと向かう.
こつ(ゴツ)、こつ(ゴツ)、こつ(ゴツ).
こつ、こつ、こつ. ごつ.
…ん?
何だかおかしな音が聞こえるような気がする.
自分の足音に混ざって、何かが聞こえてくる.
私の体重の何倍か重そうな身体を支える足音が、後ろから追ってくる.
こつ. ごつ.
こつ、こつ. ごつ、ごつ.
こつ、こつ、こつ. ごつ、ごつ、ごつ.
ピタリ. ピタリ.
私が止まれば足音も止まる.
当然、振り返ってみたところで誰かいるはずもなく.
こつ. ごつ.
こつ、こつ. ごつ、ごつ.
こつ、こつ、こつ. ごつ、ごつ、ごつ.
ピタリ. ピタリ.
くそ、ナメやがって.
「おい、こそこそしてないで出て来い.女だからってナメんなよ小魚が!」
この声が犯人の心の琴線に触れたのだろうか.
電柱の陰から、大きな男が出てきた.
よくもまぁあんなデカい図体で電柱に隠れていられたもんだ.
「何なんだお前.何で後を付いてくる.」
「だ、って、」
野太い声が息苦しそうに言葉を吐く.
よく見てみると、男の耳の下からは何か捻じれた房が見えていた.
……何だ、あれ.
「アタシの犬島くんと毎日仲良さそうにしてるから!!」
アタシ?
んー、まぁ、今は僕っ子や俺っ子もいる時代だもんな.
アタシっ子がいても不思議じゃないか.
「仲良くはしていない.あいつが勝手に付きまとってくるだけだ!」
「そんなわけないでしょ!あんたが犬島くんに付きまとってるんじゃない!」
……どうしてこう私に話しかけてくる男どもはこう聞き分けがないのだろうか.
やれやれ、思わず首を振ってしまった.
「もうアタシの犬島くんにちょっかい出さないで!!」
怒声を上げながら、男は巨大な赤ん坊のように泣き始めた.
えーんえーん、なんて可愛いもんじゃない.
効果音を付けるなら、「おーんおーん」だ.
消防署で働けばいいのに. サイレンとして.
巨体を揺らし大声で泣きわめく声の端で、「あ、」なんて小さな声が聞こえた気がした.
それは、もともと私が進もうとしていた道のほうからだった.
振り返ると、そこにはサンドバックが立ち竦んでいた.
「ミズ子ちゃん!どーしたの、こんな所で??」
「犬島くん!?」
「“ちゃん”だと!?」
2人の視線が突き刺さる.
だって、女だと思わなくてびっくりしたんだもん.
ということは….
あの房は 編み下げ か.
というかいつまでこっち見てるんだ. 殴るぞ、サンドバック野郎.
目を細めて睨み付けると、何を勘違いしたのかサンドバックはにこりと微笑んだ.