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許嫁は土地神さま。  作者: 夙多史
第一巻
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二章 憑かれに憑かれて(3)

「うっぷ……朝っぱらから死ぬかと思ったよ」

 完全にノックアウトした小和を母さんの部屋に寝かせた僕は、学校に遅れそうだったので急いで支度して家を出た。小和を一人にするのは心配だけど、見た目は子供でも神様だから問題ないよね。

 私立興栄高等学校。それが僕の通っている学校の名前だ。白季町内にある小さな高校で、本来は電子科や機械科や建築科といった工学部がメインの専門学校だった。けれど、それだけじゃ営業的に厳しくなったから僕や彩羽が在席する普通科も設立されたらしい。

 おかげさまで偏差値は全国的に見ても下から数えた方が早いくらいで、ヤンキーはあんまりいないけどアホばっかりが集まる学校だ。頭のいい奴は余程の物好きじゃない限りお隣の緋泉市にある進学校に流れる。あ、僕は家から徒歩で行ける距離にあるって理由で入学した余程の物好きの一人だよ。だから――

「おーっす、セージン。なんで朝からゲッソリしてるんだ? 自家発電はほどほどにしとけっていつも言ってるだろ」

「いやぁ、セージンくんだってオトコノコだから押し寄せる欲求の波濤には抗えないんじゃあないかな?」

 朝っぱらから下ネタトーク全開のアホどもとは違うんだ。

「出たな妖怪・双子淫魔」

 振り返ると、そこには一組の男女が並んでいた。野郎の方はバスケ部のエース並に背が高く、悔しいけど男の僕から見てもイケメンだ。女の方は背は平均的だけど、整った輪郭に人懐っこそうな大きな瞳、長い髪をツーサイドアップに結った美少女だ。

「こらこら、小学校からの親友を化け物みたいに呼ぶんじゃない。俺っちには出原朝陽いではらあさひっていう立派な名前があるんだぜ?」

「そうだそうだぁ! あたしにも出原夕陽いではらゆうひっていう立派な名前があるんだぜい?」

「わかったから纏わりつかないでよ!」

 僕を両脇から挟み込んでくる鬱陶しいこの二人は、認めたくないけど古くから付き合いのある双子の悪友だ。生まれた順に朝・夕って名づけられたみたいで、二卵性双生児だから瓜二つってほどは似ていない。だけど兄妹揃ってエロゲーが趣味という変態で、兄はインキュバス、妹はサキュバスっていう不名誉なあだ名をつけられている残念な奴らだ。

 まあ兄の方はともかく、妹の方はお胸様が少々ガッカリなために本物のサキュバスさんに失礼だと思うんだよね。

「セージンくん、今とってもあたしに失礼なこと考えなかった?」

「いやいや、ぺちゃぱいのサキュバスもありかなって思ったりしてないよ」

「思ってるじゃん! こう見えても寄せて上げれば挟めるんだよ!」

「えっ? なにを?」

「そう、ナニを」

 自分の胸を両手でわしっと掴んで持ち上げる出原妹。ダメだこいつ、なんとかしようにも既に手遅れかもしれない。

「ところでセージンが一人で登校たぁ珍しいな。霊媒少女はどうしたよ?」

 出原兄が辺りを見回しながら訊いてくる。霊媒少女とは彩羽のことだろうね。

「彩羽なら、たぶん先に行ってるんじゃないかな」

「およ? そりゃホントに珍しいね。いつも嫉妬するくらいベッタリ並んで登校してくるのに。なんかあったの?」

 出原妹が好奇心の煌めきを瞳に宿す。『好奇心猫を殺す』って言葉を突きつけるタイミングはまさに今なんだろうね。別に聞かれてもなんの問題もないから答えるけど。

「ちょっと今朝、恥ずかしいところを僕に見られちゃって部屋を飛び出したんだよね。おかげで携帯を返しそびれたよ」

 証拠とばかりに彩羽の携帯を見せると、出原兄妹は僕から五歩離れてなにやらヒソヒソ話を始めた。相変わらず仲の良い兄妹だね。

「(聞きましたか朝陽さん。あたしの推測じゃ部屋ってのはセージンくんちだと思います)」

「(聞きましたとも夕陽さん。恥ずかしいところってのが具体的に気になりますな)」

「(朝から頑張ったんでしょうか。お熱いことで悔しいですね)」

「(だからゲッソリしてたんですな。リア充爆発しろと言ってやりましょうか)」

「声を潜めてるつもりかもしれないけどバッチリ聞こえてるからね!」

 この兄妹は常にそっち方向に回路が直結しているから困りものだよ。

「で、本当はなにがあったんだ? 隠し立てすると今後一切セージンには俺っちたちのお宝を貸してやらないからな」

「それは困る! ていうか隠すつもりなんてないよ。いつものアレさ」

「ああ……」

「アレね」

 出原兄妹は揃って微妙な顔をした。『アレ』で通じる古き良き友人たちで助かるよ。

 白季町は小さな町だから、ほとんどの住人がこの二人みたいに彩羽の体質を知っている。幽霊を信じる信じないは別として、彩羽が突然無意識に奇抜な行動を取ることを黙認してくれている。そんな町だからこそ彩羽は普通に暮らしていられるんだ。

 だけど――

「あたしあの子苦手だから、今日はセージンくんの傍にいなくてほっとしてるんだよね」

「悪いけど俺もだ。飯綱の姿が見えないからセージンに話しかけられたようなもんだしな」

 黙認は黙認でも、温かく見守られているわけじゃない。自分から彩羽に歩み寄ろうとする者がいないってことだ。

 昔、彩羽は体質のせいでイジメられていた。僕はそんな現状をどうにか変えてあげたいと躍起になったことがある。家族同然に育ってきた女の子がイジメられているのを、黙って見ていることなんてできなかったからね。

 結論を言えば直接的なイジメはなくなった。でも、差別レベルではないにしろ避けられてしまうことまではどうにもできなかった。

 だから僕が彩羽や周りを巻き込んだ中心に立とうと思った。おかげで出原妹のように『嫌い』から『苦手』になる程度には改善されたと実感している。

 けれど、やっぱりまだまだ僕以外の親しい友人はできてないみたいなんだよね。神様の小和なら仲良くなれるかと思ったけど、第一面会が最悪だった。なんとかするには骨が折れそうだ。

「おーい、どうしたどうしたセージン、黙りこくって」

「ご、ごめん。暗い気分にさせるつもりはなかったの。新作のエロゲーの話でもしよっか」

 心配そうに両脇から僕の顔を覗き込んでくる出原兄妹。さっきは彩羽のことをあのように言ってたけど、この二人は苦手意識があるだけで悪い奴らじゃないんだよ。

「新作のエロゲーってことは……今週発売の『シスター☆スパイラル』か!」

「そうそう、それそれ!」

「なんだセージンもしっかりチェックしてんのな」

 とりあえず、携帯返すついでに小和のことをしっかり説明しないとね。


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