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許嫁は土地神さま。  作者: 夙多史
第一巻
32/39

五章 困ったときの神頼み(4)

 夢を見ていた。

 夢だと気づけるほど僕の意識は鮮明だった。なのに僕はどこにもいない。まるでテレビに映し出された映像のみが視界全体を覆っているような感覚だった。

 僕の知らない場所。僕の知らない人たち。そして恐らく、僕の知らない時代。

 だって街はコンクリートの建物なんてなく藁葺屋根が並んでいて、行き交う人々は時代劇で見るような和服に包まれているからだ。江戸時代、いやもっと前かもね。

 はっきりわかることと言えば、これは僕の夢じゃないってことくらいか。

 ただの風景だった視界が遷移する。

 次に映し出された景色は、僕の知っている場所だった。

 白季神社。今よりもかなり新しくて綺麗なそこで、一組の男女が縁側に腰掛けて楽しげに談笑していた。

 片方は白銀の髪をした女性で、白い着流しを纏っている。きめ細かい雪肌に大海のごとく蒼い瞳。すごく小和に似ているけど、背は高いし、彩羽にも負けないお胸様が着流しの隙間から魅惑の谷間を覗かせてるね。あそこに飛び込めるなら死んでも構わない……じゃなくて!

 あれは、前の白季小和媛命様だ。

 間違いない。十年前に見た姿そのままだ。

 となると、横にいる野郎は誰なんだ? どことなく僕に似ているけど、僕じゃない誰か。いくら凝視しても脳内メモリの検索リストには引っかからないね。

「他国は熱心に戦しているところもあるってのに、白季の地は今日も平和だな」

 謎の男が天を仰ぎながら言う。

「ああ、わたしがこの地の土地神でいるうちは災厄などに見舞われることはない」

 白季小和媛命が柔らかく微笑んで答える。

「流石、神様は言うことが違うねぇ」

「こら、人間ごときが神をからかうな」

「と仰る白季の神様も、元は人間だったんだろ?」

「う……それはそうだが」

「元々人間だったから、人間の俺に惚れちまったんだろ?」

「だ、誰が惚れているものか! 自惚れるなボケ! 領主の息子のくせにお忍びでこんなところに足繁く通っているから、仕方なく退屈凌ぎに話しかけてやっているだけだ!」

「ぷっ」

「待て! なぜ笑う!」

「いやいや、白季の神様が可愛くってつい」

「こ、この、からかうなと教えたぞ!」

 なんか見てるこっちが苛立ってくるほどいい雰囲気のカップルだね。あの白季小和媛命は僕の恩神で小和で許嫁なのに……どこかに包丁落ちてないかな。釘バットでもいいよ。

 と、唐突に男が立ち上がった。

「俺の夢はな、親父の後を継いでこの白季の地を都に負けねえくらいでかく賑やかにすることなんだ」

「どうした突然、その話は来る度に聞かされて耳にタコができているぞ?」

「そりゃ当然だろう。なんせここは神社だぜ? 俺は白季の神様に願掛けに来てるんだ。これを言わなきゃ来た意味がねえだろ」

 あの僕に似た男、領主の息子って言ってたな。てことは後の殿様的ななんかだろうか?「てなわけで、白季の神様、どうか俺の願いを叶えてくださいな」

「まったく、何度も言っているだろう。願いを叶えるのはお前自身で、わたしはほんの少しの手助けしかできないと」

「いやいや、それでいいんだよ。楽して願いが叶っても束の間で終わっちまう。俺は努力をする男だぜ」

「ふふ。そういうところがお前らしいよ」

「時に白季の神様、あんたには叶えたい自分の願いってないのか?」

「わたしか? わたしは……どうだろうな」

「いっつも俺の願いを聞いてくれてんだ。今度は俺が白季の神様の願いを聞いてやるよ」

 白季小和媛命の願い。そこは僕も気になるところだ。

「そうだな。お前と一緒だ。いや、お前の願いがいつの間にかわたしの願いになったのかもしれない。この白季の地を、もっと平和に、もっと繁栄させたい。そうなった世界をわたしは見たい。たとえ何百年かかろうともな」

「何百年って、俺が生きてないじゃねえか」

「それまでに見せてくれるのだろう? もしくは、わたしの方が先に土地をより豊かにしてしまうかもな」

「言ったな。なんならどっちが早いか恨みっこなしの勝負と行こう。ていうか、そっちが隣の神様に負けちまったら俺の夢も潰えるんだ。頑張れよ」

「無論だ。緋泉の奴には負けんよ」

「うし。なら約束だ。俺かあんたのどっちかが必ず白季の地を繁栄させる」

「うむ、約束だ」

 白季小和媛命が見せた満面の笑みを最後に、白季神社の光景は幻のように溶けて消え去った。


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