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許嫁は土地神さま。  作者: 夙多史
第一巻
23/39

四章 お出かけは大変だ(1)

 あれから数日が経過した。

 僕は口の軽い出原兄妹を筆頭に学校内で例の『噂』を流し、小和もご近所さんや商店街を中心に布教活動(?)を続けていた。

 最初はそのうち補導されるんじゃないかと心配だった小和だけど、その日本人離れした見た目のおかげかそういうこともなく、商店街のお店を手伝ったり迷い犬をお得意の探知で見つけたりして段々と町人にも受け入れられてきた。

 さらに手におえないことに一部では偶像化されたりして、せっかく頑張って流している噂よりも広まっているから困ったものだね。

『白季町に舞い降りた白銀の天使』

 これが校内にも隅々まで浸透している小和のキャッチコピーだ。天使じゃなくて神様なんだけど。

「うぅ~、どういうことだ? あれほど噂を流したというのに誰も祈りに来ないとは」

 自分自身が噂の妨害原になっているなど露知らず、小和は神社の縁側に寝そべって蕩けそうなくらい暇を持て余していた。一応毎日少しずつ掃除してるけど、髪や着物が汚れちゃうよ?

「成人、ちょっと町へ下りて願いがありそうな奴を探して来い」

「なんて無茶振りっ!? 探し物なら小和の方が得意でしょ!」

 適当な人を捕まえて『ぐっへっへ、あなた悩んでいますね。ここだけの話、その悩みを解消できるいい方法があるんですよ』とか言って怪しまず信じるような純心者は彩羽くらいだ。

 そうそう、彩羽と言えばここ数日間で憑依される数がめっきり減ったんだよ。僅かでも除霊術の自信がついたからかな。喜ばしいことだけど、一時的なものかもしれないので油断ならない。しばらくは様子見になりそうだ。

「しかしこうも音沙汰なければ時間の無駄浪費だぞ。アホそうな子供でもなんでもいいから連れて来い。なぁに、キャラメルで釣れば一発だ」

「軽く誘拐してるよねそれ!? 最近の子供を侮ってたら痛い目見るよ!?」

 信仰心が薄れて神気が足りなくなった土地神は人を攫うようだ。なるほど、これが世に言う『神隠し』ってやつか。

「成人は文句ばっかりだな。あぁ~もう! 暇だ暇だ暇だぁ!」

 ついに『暇』って言い出したよこの神様。駄々っ子モードに突入した小和を慰めるにはキャラメルというアイテムが必要なんだけど、生憎と今は在庫を切らしている。

 これが僕の許婚ですよ、奥さん、どう思います?

 許婚か。……許婚ねぇ。

 思えばそれらしいことなんにもやってないよね。仮にも小和は僕の彼女ってことなんだから、デートくらいやった方がいいのかもしれない。

「はぁ……この調子だと神気も減る一方だ」

 小和から大きな溜息が漏れる。一人分の信仰心は得たが、大した変化はない。寧ろその微々たる前進のために一年分の神気を消費したのだから大赤字だ。溜息をつきたくなるのもわかるよ。

 ああやって小和が駄々を捏ねるのは、たぶんそのことに対する不安を包み隠そうとしているんだと思う。だって小和は態度こそ退屈している子供に見えるけど、それは空元気で、焦りや不安を隠し切れず表に出してしまうことが時折あるんだ。今みたいにね。

 どうにかしてあげたいな。

 信仰増加に関して僕にできることは全部やっているつもりだ。それ以外で小和を元気づける方法となれば……しようか、デート。

「ねえ小和、今度の土曜日だけどさ、どっかに遊びに行かない?」

 縁側でごろごろしていた小和がピタリと停止し、青く澄んだ瞳でこちらを睨む。

「馬鹿を言うな成人、遊んでいる暇がどこにある!」

「いやいやいや、たった今『暇だ』って連呼してたじゃないか」

「む? そんなこと言ったか?」

 えー。あまりに退屈過ぎて自分の言動すら覚えてないのかな?

「息抜きも必要だよ。ただ延々と来るかどうかもわからない参拝客を待ってるだけなんて、それこそ時間の無駄浪費じゃないか。それだったら遊びながら噂を拡大していった方が有意義だと僕は思うね」

「それも、そうだな」

 小和はうんしょと小さい体を起こすと、銀細工のような髪と白装束をパンパンと軽くはたいた。それからまだなにか煮え切らない様子で御社を見上げる。

「だが、ここを離れるわけには……」

「神様がいない時に祈ったらどうなるの?」

「〈祈り〉は社の中に貯蓄される」

「なんだ、だったらなにも問題ないじゃないか」

 郵便ポストみたいだ、と密かに思った。

「成人は、遊びたいのか?」

 とててて、と僕の下まで駆け寄ってきた小和が上目遣いで訊ねてくる。青い瞳が不安げに揺れていて……抱き締めたくなるくらい可愛いなぁもう。

「もちろん。可愛い女の子と遊びたくない男子高校生なんていないよ」

「お、お前は時々さらっと恥ずかしいことを言うな! わ、わかった。少しくらいなら、遊んでやってもいいぞ」

 顔を赤らめてそっぽを向く素直じゃない小和。本当は自分だって遊びたいんじゃないの?

「さてと、そうと決まればどこに行くかだけど……まあ、僕に任せておいてよ」

 よく考えたらデートって初めてだからなにしたらいいのかわかんない。ギャルゲーとかの知識って現実でも役に立つかな?

 とりあえず出原兄妹辺りの意見を聞いてみよう。顔がいいから割とモテるんだよ、あいつら。


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