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許嫁は土地神さま。  作者: 夙多史
第一巻
22/39

三章 お願いごと叶えます(8)

 あの仏壇になにがあるのか気になったが、人が死んでも守り続けていたものを覗き見る趣味なんて僕にはない。

 だから確認はせず、僕らは意識を失った彩羽を抱えて逃げるように屋敷を後にした。

 夕暮れの道中、あの地縛霊がどうなったのかを小和に訊ねると、

「神気を使って霊を成仏させたのだ」

 彼女は淡白な口調でそう答えた。神気さえあれば幽霊を成仏させることくらいはできる、と前に言っていたけど――

「神気って、使って大丈夫なの?」

「なけなしのを絞り出した。あの場ではそうする他なかったからな。だから――ふわぁ」

 小和は大きな欠伸をする。

「うぅ~、疲れた。眠い。成人、負ぶってくれ」

「彩羽を背負ってるから無理だよ」

 背中に感じる至福の弾力を手放してなるものか。

「わたしは文字通り命を削ったのだぞ! もっと労われ!」

「うっ……」

 それを言われると痛いなぁ。負ぶってあげたいけど、生憎と僕の腕は二本しかないんだよ。

「ちなみにどのくらい削ったの?」

 口にしてから訊かない方がよかったかもしれないと後悔した。どうしよう、十年とか二十年とかだったら。僕は一生小和様の奴隷になるしかないよ。

「人間の寿命で表すなら……一年ほどか」

 一年。恐れていたほど多くはないけど、それでも長い。僕から流れた神気の五分の一を使ったってことになる。

「今夜はキャラメルご飯にするから許してください」

「よし許す!」

 小和様は軽くて安かった。頬を上気なんてさせてゲテモノ、もといキャラメルごはんを想像しているのかな。ああ、ヨダレが、だらしなくヨダレが出てるよ土地神様!

(…………コヨリ…………ヒメ…………)

 幸せそうな小和の顔を見ていると、ふと、あの地縛霊が最後に紡いだ言葉を思い出した。

 アレは小和――土地神・白季小和媛命を指していたのだろうか? だとすればわからないことだらけだね。どうして屋敷に縛られていたはずの地縛霊が白季の土地神様の名前を呼んだのか……。

 人違い? それとも僕の聞き違いかな?

 あの後すぐに小和に訊いてみたけど、わからないって言われたし。

「う~ん、まったくもって謎だ」

「なにが謎なのだ、成人?」

「小和様が謎過ぎるよ」

「わたしなのか!?」

 だっていつもいつも肝心なところで曖昧なんだよ、この神様は。

「わたしは土地神だぞ! それからお前の許嫁だ! どこに謎がある!」

 そこら辺の全部だよ、という言葉が出かかったけど僕はかろうじて飲み込んだ。言ってしまうとキックという名の祟りが振りかかりそうだから。

 と――

「……ん」

 彩羽の意識が戻った。

「あれ? ここは……? 私、どうして……?」

「おはよう、彩羽」

「あ、なるくんおは、よ……? ! ? ?? !! !?」

 見えないけど、今、彩羽の顔色が七変化したような気がした。

「わ、わわわ私な、なるくんにおんぶされてるっ!?」

「うわっとっと!?」

 背中で激しく身動ぎするもんだから危うく転びそうになったよ。

「気がついたのなら下りろ乳デカ女! 次はわたしがそこに乗る番だ!」

 小和が耳に刺さるロリボイスでギャーギャー騒ぎ出した。ていうかなんで遊具みたいな扱いされてんの僕?

「え? どうして小和ちゃんがいるの?」

「さっきたまたま合流したんだよ」

「お前が幽霊を見事成仏させた後にな」

 さりげなく小和が自分の手柄を彩羽に譲渡する。プライド高くて我が儘な神様だけど、その辺の分別はきちんと弁えているから助かるよ。

「私が、成仏させた……?」

「そうだよ。覚えてない? その後すぐに気を失っちゃったんだけど」

 僕も嘘に便乗すると、彩羽はふるふると首を横に振った。

「覚えてない。でも、なるくんが私を助けてくれたような気がする」

「き、気のせいじゃないかな。僕は見てただけだよ」

 助けたのは小和だ。僕の力なんて微々たるものだった。

「それよりもさ、彩羽、自分で歩けるなら下ろすけど?」

「ありがとう。でも、もう少しこのままがいいな」

 柔らかくそう言って、彩羽は顔を僕の肩に預けた。ウヒョッ! お胸様がウヒョッ!

「むむむぅ、成人、鼻の下が伸びているぞ」

「そ、そんなことないんじゃないかな!」

 小和から放たれる絶対零度の視線を浴びながら、僕は実はもうくったくたの足を懸命に動かして我が家を目指す。

「ありがとう、なるくん。今日はとっても楽しかった。昔に戻ったみたいで」

「そ、そう? ならよかったけど」

 なんとなく照れ臭かったので僕は天を仰いだ。夕陽が完全に沈み、暗い夜空に星々が点々と瞬いているね。

「ふふっ、お願い事、一つ叶っちゃった」

 と、背中の彩羽から微かな笑い声が漏れた。

「ん? なにか言った、彩羽?」

「ううん、なんでもない」

 よくわからない彩羽だった。


 その翌日、神気が僅かに増したと小和が嬉しそうに騒いでいた。

 彩羽が霊媒体質を克服したとわかったわけじゃないのに、なんでだろうね?


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