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許嫁は土地神さま。  作者: 夙多史
第一巻
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三章 お願いごと叶えます(6)

 さて、困った事態が発生した。

 彩羽と逸れてしまいました。

「彩羽ぁーっ! 聞こえたら返事してぇーっ!」

 さっきからこうして呼びかけているんだけど一向に返事がない。携帯も通じない。どういうわけかこの辺りは圏外なんだ。これだから田舎は。

 とにかく大声を出しても聞こえないくらいこの日本屋敷は広い。子供が探検したくなる気持ちもわかるね。そう言えば昔、どこかのお殿様だかお姫様だかの別荘だったっておじいちゃんに聞いたことがあったような気がする。

 適当に襖を開けて畳の和室をいくつか抜けるとまた廊下があった。下見をしたと言ってもこんなに奥までは調べていない。あの時は懐中電灯を持っていなかったし、ここまで踏み込むつもりもなかったからだ。

 準備が不十分だったことは否めない。思いついたら即実行を心がけている僕だけど、今回は少々早急過ぎたかな。白季小和媛命の信仰収集と彩羽の体質克服。どちらも早く解決したいと心のどこかで焦っていたんだ。

 と、廊下の突き当たりで二階への階段を発見した。

「階段、こんなところにあったんだ」

 屋敷が二階建てなのは外から見て明らかだったけど、昨日の時点で僕は階段を見つけられなかった。玄関付近じゃなくて奥の方にあったのなら納得だ。

「あっ」

 よく見ると階段に真新しい足跡がついていた。大きいのと小さいの。これは小和も彩羽も二階に上がったと考えるべきだね。一階をうろうろしてても見つからないわけだ。

 ようやく掴んだ手掛かりに足が軽くなる。

 思わず一段飛ばしで階段を駆け上った、その途端――

「うわっ!?」

 突然真横から現れたなにかに突き飛ばされた。

「成人! 助けてくれ! こ、殺される!」

「小和!?」

 僕にしがみついて離れない銀髪の少女は、小動物のように震えていた。シーツはどこかに捨てたのか、いつもの白装束姿だった。

「ごめん、小和。まさか彩羽があんなにやる気になるなんて思わなかったんだ」

 彩羽は剣を握って前衛で戦うようなタイプじゃない。だから破魔刀は持ってきてもあんな風に使わないと高を括っていた。

 僕は小和を落ち着かせるためにその細やかな銀髪を梳くように撫でた。小和は抵抗しなかった。

「……わたしの演技が巧み過ぎたせいか。もう少し手抜きすればよかった」

「というか彩羽の心が無垢過ぎたんだと思うけど」

 逆にあれ以上手を抜いたらどうなるのか見てみたい。

「離せ、成人。もういい、落ち着いた」

「いや、しがみついてるのは小和だから」

「――ッ!? う、うるさい! そんなことはわかっている! 祟るぞ!」

 バッ! と自分から飛び離れる小和に僕は苦笑する。それにしてもいい匂いだったなぁ。シャンプーとか同じの使ってるはずなのに不思議だね。

 僕はカバンから予備の懐中電灯を取り出して小和に渡す。

「とにかく彩羽を捜さないと。二階にいるんだよね?」

「さっきまでわたしを追い回していたからな」

「了解。小和は先に外に出ててもいいけど?」

「断る。これ以上こんな薄気味悪い場所でわたしを一人にするな」

 小和は僕の制服の袖をきゅっと摘まんだ。本当は恐かったのかもね。

「それにわたしならすぐに見つけてやれるぞ。探し物は得意だからな。こっちだ」

 摘まんだ袖を引っ張って僕を先導する小和。そうか、土地神様だから白季町内の探知はお手の物だったね。

 彩羽捜索を再開しても小和は手を離さなかった。いつも強気で偉そうだけど、寂しがり屋でちょっぴり恐がりな神様。なんだかんだで小和様は可愛いんだもんなぁ。いつか必ず『お兄ちゃん』と呼ばせてみせる!

「なあ、成人」

「変なことは考えてないよ!」

 反射的に否定すると小和は「はぁ?」と言いたげに眉を曇らせた。心を読まれたわけじゃなかったのか。

「また変態的なことを考えていたのか?」

「そんな馬鹿な。それよりもなにか言いたかったんじゃないの?」

「む、そうだった。わたしの勘違いかもしれないが、この屋敷、どうも初めて来た感じがしない」

「一度来たことがあるってこと?」

「いや、初めて……のはずだ。なのに、どうしてか懐かしい感じがするのだ」

 小和は懐中電灯で辺りを照らす。二階の廊下は古いだけでなんの変哲もない柱や土壁があるだけで一階と特に違った感じはしない。

「白季神社を思い出すとか? ほら、この屋敷も相当に古いから」

「う~ん、そうかもしれん」

 どこか釈然としない様子で小和は唸った。

 その時、進行方向に薄らと光が見えた。照らし出されたそこは廊下のT字路になっているらしく、光は右側から差し込んでいる。

「成人」

「うん、彩羽だろうね。ようやく見つけ――」


 T字路の右から左へ、薄黄色い光の玉が通過した。


「……」

「……」

 ゾッとする僕ら。

 急に肌寒くなり、さーっと血の気が引いていく。

「な、な、な、なるひと」

「なななんだね、こ、こよりくん?」

 僕らの声は完全に裏返っていた。

「こんやは、キャラメルごはんをしょもうする」

「あ、そこは現実逃避なんだ」

 おかげで幾分か冷静になれた僕。小和はまだテンパったままだ。あとキャラメルごはんはやめといた方がいいと思うよ。

 それはそうと――

「今のって、まさか出原兄弟の言ってた火の玉?」

 本物が出るなんて聞いてない。子供が秘密基地を守るためについた嘘じゃなかったの?

 幽霊が存在することは事実として受け入れている。でも、霊能力者じゃない僕でも視認できる幽霊なんて初めてだ。

 ――本当に幽霊なのか?

「……確認してみよう」

「ま、待て。あっちに行くのか……?」

 歩き出そうとする僕を小和が引き止めた。

「うん、だって彩羽も向こうにいるんでしょ? なにあったら大変だよ」

「う、うむ……そうだな……」

 小和が不承不承な様子で納得してくれたところで、僕たちは恐る恐る慎重に光が過ぎ去った方へと歩を進めるのだった。

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