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許嫁は土地神さま。  作者: 夙多史
第一巻
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三章 お願いごと叶えます(3)

 まだ顔がじんじん痛む。

 小和様の蹴りには一片の容赦もないからなぁ。彼の愛と美を司る女神様は全世界に裸身を公開しているのに、僕一人に見られたくらいであんなに怒らなくてもいいと思うんだ。

 まあそれはさておき、あの後も大変だった。

『私もなるくんちに泊る!』

 彩羽は小和が本当に許婚だと知ると唐突にそんなことを言い出したんだ。若い男女が一つ屋根の下で過ごすのが心配だったのか、それとも駄々っ子の幽霊に軽く憑依されていたのか。どっちもありえるから困ったものだね。

 説得を試みてざっと一時間半。最後に『僕はロリコンじゃないから間違いは起こらないよ!』と言ったら溜飲が下がったようにあっさり帰ってくれた。小和にはなぜかポコポコ殴られたけどね。

 それからようやく対霊媒体質についての作戦会議を再開。ただ面を突き合わせてうんうん唸るだけじゃ前進しないので、小和様が自信満々に『わたしは強いぞ』と言い張った花札をやりながら考えることとなった。

 遊び方はスタンダードに『こいこい』。手札から交互に札を出し合って場にある札を取り、役を作って得点を競うゲームだ。それを一年の月と同じ数――つまり十二回戦行って最終的に得点の多い方が勝ちとなる。おじいちゃんや彩羽と昔よく遊んだから僕もそれなりに自信あるんですよフッフッフ。

「――まず訊いておきたいのだが、霊媒体質とは具体的にどういったものなのだ?」

 小和が手札から松のカス札を出して場の同じくカス札を取る。カス札を取るしかないなんて、どうやら小和様は手札と場の相性が悪いみたいだね。

「僕もそんなに詳しいわけじゃないけど、『体から発する霊的エネルギーの波長が長い人』らしいよ。幽霊はその霊的エネルギーに磁石みたいに引き寄せられて、取り憑いた人間の精神が不安定になった時に意思を乗っ取ったりするんだ」

 よし、萩のタネ札ゲット。このまま『猪鹿蝶』を狙って行こう。

「霊媒体質は幽霊ならなんでもかんでも引き寄せるんじゃなくて、その人の性質と合う幽霊が引き寄せられる。その点、彩羽は良い子だから悪霊らしい悪霊に取り憑かれたことはないんだ。なんでか知らないけど動物が多いかな」

 小和は無言で手札から一枚を場に置き、山札を捲る。こんなこと言ってもちんぷんかんぷんだよね。僕だってそうだ。ほとんどが彩羽ママから聞いた話だし。

「霊的エネルギーを制御できれば一番なんだけど、一朝一夕じゃどうにもならないし、彩羽だって何年も修行してるけど全然だからね。才能がない上に霊的エネルギーが強過ぎるみたいだから」

「ならば精神の方を鍛えてはどうだ? 体質自体が克服できなくとも、意識を乗っ取られなければよいのだろう?」

「それこそすぐにはどうにもなんないと思うよ」

 小和の言ったことも一般的な対処法で、既にいくつか試している。ヨガや呼吸法、滝修行なんてのもやってたね。小和の白装束に似た着物を纏って滝に打たれる彩羽。着物が透けて実にエロかったなぁ。

「……なにやらスケベなことを考えている顔だ」

「な、なに言ってるのさ。物凄く紳士的なイケメンじゃないか」

 ジト目で睥睨してくる小和から逃れるように僕は手札の札を切った。煩悩退散。

 小和は十秒ほど僕を睨んだ後、諦めたように溜息をついて花札を継続する。

「ふむ、やはり並々ならぬ努力はしているようだな。となると、あいつのへなちょこ陰陽術で見事霊を撃退した、という芝居を組んで自信をつけさせる策も既に試しているか」

「……」

「ん? どうしたのだ、成人? 死んだタコみたいな顔をして」

 小和が怪訝そうに僕を覗き込んでくる。死んだタコってどんな顔だよ。

 まあいいや、光が見えたから。

「それだよ小和!」

「ひゃっ!? い、いきなり大声を出すな! 驚くではないか!」

 手札を零しそうになった小和に、感極まった僕は思わず詰め寄る。

「彩羽は除霊術を学んでるけど、自分でもダメダメだって気づいているんだ。だから自信がない。その自信がつけばきっと取り憑かれても意識を乗っ取られることはなくなるよ!」

 精神を鍛える方向ばかりに注目してて、除霊術の自信をつけるなんて思いつきもしなかったよ。盲点だった。彩羽のエセ除霊術じゃどうにもならないって決めつけていた。いや実際どうにもならないけど、そこに自信を持ってくれれば幽霊を拒絶する意思の強さに繋がるはずだ。

「ありがとう小和! 新たな道を見つけてくれて! ご褒美に頭なでなでしてあげるね」

「ふわっ!? や、やめろ抱き着くな離せわたしの髪に触るな! た、たたた祟るぞ!」

「えーではないかえーではないか。あはは、小和は可愛いなぁ」

「か、かわっ……こ、この、いい加減にしろボケェエッ!!」

「痛い!? なんで噛むの!? これはご褒美だよ!?」

「うっさい黙れ祟るぞ! ご褒美ならキャラメルを寄越せ!」

 ということで一粒あげたら至福の表情になって落ち着いてしまう小和。なんて扱いの簡単な神様なんだ。『キャラメルあげるからおいで』と言われたら知らないおじさんにもひょいひょいついて行っちゃいそうで心配だよ。

 とりあえず方針が決まったところで僕たちは花札を再開し、ほどなくして十二回全てが終了した。

「どう計算しても僕の勝ちだよね」

 僕は初戦の『猪鹿蝶』を始め、松・薄・桜の『三光』や『赤短』などの五文以上で四回、それ以外で三回勝ったから得点はなかなかだ。

 対する小和は、なんと『カス』しかなかった。カス札は十枚揃えれば一文になるけど、それで五回勝ったところで僕の点数には程遠い。

「なにを言っている。計算するまでもなくわたしの勝ちだろう」

 コロコロと何個目かのキャラメルを口の中で転がしながら小和はムッとした。

「いやいやいや、確かに計算するまでもないけど勝ちは僕だよ」

「むむ? さては成人、五回以上を『カス』を揃えれば得点など関係なく勝利すると知らないのか? 『塵も積もれば山となる』というではないか」

「なにそのローカルルール!?」

 初耳過ぎる。そりゃあ『カス』で勝ち続けるのは難しいけど、そんな裏技が公式に存在してたら他の札がカスに見えてくるよ。

「今さら気になったんだけどさ、小和って誰に花札習ったの?」

「誰にって、そんなのもちろん…………誰だっけ?」

「僕に訊かないでよ」

「うぅー、とにかくそういう勝ち方があるのだ!」

 抗議の結果、最後まで小和様ルールは撤廃されることはなかった。


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