アゲイン5
「女の子の人生なんて男によってガラッと変わるよね。安月給だったらつらいだけだし、人生設計のできない男に自分の人生を託すなんて無謀なこともしないだろう。彼がコピーライターを目指すことは悪いことだと思わない。だけど、幼い頃大人になったら就きたい職業が誰でも一つはあったじゃない。でも、実際にその職業に就いた人が少ないのはなぜだと思う」
「うまく説明できないけど資質とか才能がないと感じたか、または子供のときのイメージと実際は全く違うことがわかって挫折するんじゃないかな」
「いい線いってる。だけど一番大切なことは最後まで諦めないことなんだ。ただ、日々努力することも必要だけどね」
「へぇー、丸山さんは努力しているんだ」
「もちろん、顔で笑って心で泣いて……。あまりちゃかすなよ、いいこというつもりだったのに。あっカルボナーラもマルゲリータも来たね。さあ食べよう、、ワインも口当たりが軽くてとてもいい感じだ。すごくおいしい」
「ごちそうさま、とてもおいしかった。バラより高くついてしまったわね」
「なになに、これぐらいの出費は痛くないさ。また話ができたらうれしいな」
「彼氏に悪いからダメ」
「えー、僕は彼氏のライバルになれるのかい」
「それは無理」
「なんだ、まあいいさ、またこの街で君に会えるよう明日から一週間祈るさ」
「へぇー、それぐらいで決まるんだ。毎朝会えるといいですね」
「それ本心?」
「違う」
「ちっともかわいくない、まあいいでしょ。じゃあね」
千優と別れてから彼女に話したかった内容が頭に浮かんだ。たとえば俺がコピーライターでプレゼンに臨むとしたら、徹底的にマーケティング調査をやり、これでもか、というぐらい討論したうえで最善のコピーを引っさげていく。でも、我々のコピーより後の順番のコピーが明らかに上回っていて、うちとしてはそのコピーより上を行くコピー作らなければならなくなったとする。だが、わが社をあげて徹底的に作り上げたコピーに対して、短時間でそれを上回る作品を作るのは至難の業だ。だけどこういうときスポーツマンは強い。ラクビーならノーサイドの笛が鳴るまで逆転を諦めない。相撲の力士なら二枚腰といわれる強いねばりで、劣勢であっても可能性のある限り闘い続ける。この姿勢が大切である。諦めたらその瞬間ジ・エンドだ。千優の彼氏もそういう男だろうか。もしそうなら、いずれどこかで俺と会うはずだ。