アゲイン4
「彼は広告代理店で営業をしています。背が高くて、ちょっとショーケンに似ている」
「じゃあ、僕は太刀打ちできないな」
「当りまえです。それに彼は高校時代ずーっとラクビーをやっていたから躰ががっしりしているの。あなたは骨と皮しかないでしょ」
「自慢じゃないけど、僕は体重が48キロしかない。これ以上痩せたらサイズもメンズじゃなくボーイズになってしまう。そうなったらセンスのいいジーンズなんて探すのが大変だよね。そんなことより彼とはどこで出会ったの」
「高校が一緒だったの。彼がラクビーの選手で私がマネージャー。とても足の速いフォワードだったから憧れた女の子はたくさんいたわ。でも、私を選んでくれた。とてもうれしかった。だけど、大学に入ったらきっぱりとラクビーを辞めてしまったの。辞める理由を聞きたかった。私にはいってくれると思ったのに」
「それだけが心残りなんだね」
「そう、彼の本心が知りたかった。聞きたかったけど、母親にこれと思った人についていきなさいといわれていたから、素直にしたがったの。私もつらいけど、彼はもっとつらいんだって感じたの」
「へぇー、物語があるね。僕なんてそんな重い決断したことがないからよくわからないけど、僕ならすべて正直に話すね。だってそうじゃないとお互い支えあっていけないじゃないか。つまりラクビーを続けるのと続けないのでは歩むべく人生が違ってくるよね。そんな大事なことを一人で決めること自体おかしいよ。先輩とか監督はそのことを知っていて、つき合っている君だけが知らなかったら問題だな。一番はじめにこれから共に生きたいと思う女性に話すべきさ。先輩や監督のいうことはアドバイスにしかならない、結局決めるのは本人さ。未来像を予想するなんて真面目に考えない人が多いけど、ある程度のビジョンをもつことは大切だと思う。そうしないと後の人生で彼が挫折したとき君は失望しかしない。まあ、男なら家族のためならどんな仕事もするだろうけど、あのとき現役を続けていたら広告代理店だけじゃなくいろんな道を模索できたはずだろ。だから何も聞かずについていくのは、一見、日本の女性のおしとやかさのようだけど、逆に自分の首を絞めることになると思うんだ。もっと彼とよく話さなくちゃだめだよ、間違っているかな」
「ううん、間違っていないと思う。だけどスポーツ選手にはそれなりの試練とか女にはわからない考えがあると思うの。彼についていくだけ、そう決めたの」