アゲイン1
「わあ!ほんとに私が来るまで待っていたのですか」
「僕に二言はありません。たとえあなたが来てくれなかったとしてもこの店が閉店するまでいましたよ。面接は終わったし、あとは何もすることがないので」
「でもいま夜の7時半ですよ、あれから5時間以上も経っているのに」
「僕は人を待つのに5分も5時間の関係ない。本を読んでいるといつのまにか時間が過ぎてしまうのです。ただ、ちょっとたばこを吸いすぎたのとお腹が空いたな、これはいくら僕でも逆らうことができない」
「私が来ないとは考えなかったの」
「あなたが来てくれれば新しい会社にも入れるかもしれない、それが僕の願掛けといいましたよね。
だから僕は運命に従ったわけです。
あなたが来なかったらそれはそれでしかたないし、僕はその程度の男でしかないと納得できます。
だから来ないことも8割考えたんです。そのぶん来てくれたときはとてもうれしいから」
「私はいままでどんなにかっこいい男性でも、ナンパされてついて行ったことがありません。女の子に気軽に声をかける人は魂胆が見え見えで信じる気になりませんから」
「それでもあなたは来てくれた、それだけで僕はうれしい」
「私はバラ1本に1000円を渡して、せっせと店を去ってしまった人におつりを返しに来ただけです」
「でも来てくれた」
「商品を受け取らないのに代金をもらうわけにはいきません」
「でも僕のことは嫌いじゃない」
「そんな感情ありません、あるわけないでしょ」
「会いたくない人に会いに行きますか」
「銀行の口座番号を知らされていたら振り込みました」
「僕はそんな失敗しません」
「卑怯です」
「チャンスは何度もない、失敗は許されない」
「迷惑です、彼氏はいるし」
「そんなことはわかっている」
「あなたは私のタイプではありません」
「僕は自分の感情に素直になっただけです、悪気があったわけではない」
「そんな気持ち無責任です、私には迷惑です」
「何もきょう君を抱きたいというのでない」
「あたりまえです、会ってから10分そこら話しただけでそんなことになるはずがない」