トラップ3
正儀は思い切って聞いてみた「僕の病名はなんですか」
すると医師は「精神分裂病<現在の統合失調症>の症状が出ています」
その返事に正儀はデリカシーのない病名だと感じながらも「機械を使って幻聴や不眠といった症状を作り出すことは可能ですか」と聞くと、
「まさかそんなことはできませんよ」と医師は答えたが、正儀は、
「そのまさかが僕の症状なのですが」とくいさがる。すると医師は、
「とにかく今日は家に帰ってから食事して寝る前の薬を飲んでよく眠ってください。まずは乱れてしまった生活のリズムを正常に戻しましょう。精神安定剤と睡眠導入剤を出しておきますので決められた回数を忘れずに飲んでください。そして病室のベッドが空き次第入院の手続きを行ってください。いろいろな薬を試してみてどれがいいか確かめてみましょう。それと規則正しい生活を取り戻すには入院が一番いい方法です」すると正儀は
「僕の症状はそんなに悪いのですか」と確かめると医師は、
「いい状態ではありません」とはっきり答えた。
正儀は「わかりました、帰ってからしっかり薬を飲むようにします。ありがとうございました」と診察室を後にした。そして母親と長期療養にならなければいいなと話し合った。
その帰り道、正儀はなるべく大きな本屋に行って精神分裂病に関する本を2冊買った。そして精神分裂病がどんな病気で、どんな症状なのか調べることにした。
家に帰ってそれを読んで驚いた。精神分裂病の症状の現れ方がまず不眠であること、それに幻聴が聞こえること、そして被害妄想のうえに引きこもりになってしまうこと、さらにぶつぶつ独り言をいうこと。つまり自分の身に起ったことをそのまま素直にしゃべると症状の重い精神分裂病になってしまう。これは罠だ。おそらく精神病に精通した人間が綿密に考え、そして実行したものだ。しかも絶対に誰が仕掛けたのかわからないし、証拠も残さない。もし俺が罠だといくら叫んでも誰も信じてくれる人はいないだろう。まったく逃げ場のない策略であり、完璧なシナリオだった。まあいい、いまはとにかく寝よう。そして薬を飲んで10分もしないうちに正儀は眠りについた。
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