ビッグゲーム1
白石と正儀は10階までの専用エレベーターに乗り3階で降りた。そこから左に曲がった角の部屋はガラス扉が大きく開けられ、白石が足早に歩いて行くとすぐに受付があった。正儀は一歩踏み込んでその光景に驚いた。とにかく広い。一部屋ぶち抜きのオフィスは10セクションに分けられ、一つひとつが島のようにデスクが並べられている。上司が正面に座り、その斜め前を部下がお互い向かい合いながら並ぶという配列だった。正儀は思った。お客さんが来たとき、これだけ見渡せたら確かにみっともなくてデスクの上で弁当を食べることができない。ましてや人数は100人を超えるだろう。男性はスーツ姿、女性は制服を着ている。やはり見栄えというは大切だ、、というのが正儀の第一印象だった。有無もいわせない雰囲気がある。オフィスに入った途端、いかにもなにかあるという存在感。この重厚さは一朝一夕でできるものではない。端末機とテレビ画面は入り口に並んでおり、ここを通れば否応なしに目に入るし、どんなものか興味をもたない人はいないだろう。この部屋の配列を考えた人はかなりできる、と正儀は直感した。白石は受付の女性に会釈して、左側のデスクの島に向かって歩き出した。部長席の右前側のデスクに座る中年の恰幅の良い男性の前で足を止めた。そして微笑みながらいった。
「こんにちは、大野さん、今度うちに入った大型新人を紹介します。丸山正儀です」
「こんにちは、編成部の大野です」
「はじめまして丸山正儀と申します」
「おいおい、時代劇じゃないから申すはないだろ。大野さん、彼はずっと音楽畑でやってきたんです。『FMピュア』につられてうちに入ったのです。すこし手がかかりますがご指導のほどよろしくお願いします。おい、大型新人挨拶しろ」
「音楽以外の本を作るのは初めてなので、初歩的な質問をするかもしれませんが、今後ともよろしくご鞭撻ください」