スケジュール3
「つらいことも多いけどね、でもFMクリエイトでは本を作ることに専念する。音楽関係の雑誌の編集はできそうもないからさ。まあ、空いた日にアルバイトをするさ」
「私は花が好き、だからいつも花に囲まれているいまはとっても幸せです。この幸せをみんなに配ることは私の役目だと思っているんです。だけどみんなで喜ぶなんて、高校時代のマネージャーの時しか味わっていないな。その感覚忘れちゃいけないんですね」
「千優ちゃんは高校時代にすばらしい経験をしているよね。僕なんか高校は私服だったから、学校帰りに友だちと吉祥寺のジャズ喫茶に行って、バーボンを飲んでたばこをふかしていた。いま考えたらませたガキだよね。ジャズのことなんかまったくわからないくせにジョン・コルトレーンのサックスに酔っていた。たちの悪い高校生だったな、いまの仕事はそのあおりかな。あっ、時間を取らせちゃったね、また顔を出します」
「今回の仕事ありがとうございました」
「どういたしまして僕は千優の笑顔が見ることができてとてもうれしい、じゃあね」
道すがら正儀は千優が少しでもマスコミの仕事に触れられただけでいい、と考えていた。そうすれば自ずと彼氏の仕事が理解できる。こういうことはいくら口でいってもわからない。ただうけながすだけだとCMのどこに価値があるのかわからないし、発想のセンスなんて考えもしないだろう。正儀は彼女のためだけにこの企画を考えたが、それはいうべきではないと心のなかで念を押した。あまりにも重いハンマーだし、彼女には迷惑と感じるだろう。ただ正儀はやりがいのある仕事につくことの大切さ、お金だけでは量れない生きがいを千優に伝えたかった。そして彼女もその気持ちを共有していることに安堵するのだった。あとはFMクリエイトの仕事に頭を切り替えよう、3日間の遅れを取り返そうと決意していた。