スケジュール1
「よっ、ひさしぶり千優ちゃん」
「もう、話すことはなにもありません」
「そこまで嫌わないでよ。きょうは世間話じゃなくて仕事の話なんだ」
「えっ、仕事ですか?」
「アイドル歌手の入江良子は知っている?」
「ええ、今年鳴物入りでデビューした大型新人でしょ」
「彼女の第2弾シングルが3か月後に正式に発売されることになったんだ」
「それがうちの仕事とどんな関係があるんですか」
「話は最後まで聞いてよ、そのタイトルが『赤いバラのエチュード』っていうんだ。エチュードってどういう意味か知ってる?」
「英語ならある程度はわかるけど、全然知らないから英語じゃないですね」
「へぇー高校では英語をしっかり勉強したんだ」
「まわりくどいいい方はやめてもらえませんか、私は忙しいんです」
「あーごめん、エチュードはフランス語で絵画や音楽の練習作品という意味があるんだ。だから直訳すれば『赤いバラの絵の練習作品』という意味になる」
「そのことがなにか」
「赤いバラって情熱って意味があるじゃない。だから、新曲キャンペーンで『良子のばらばらプロポーズ大作戦』。あなたに代わって良子が愛のキューピット。100本の赤いバラを届けてあなたの熱いメッセージを伝えます、というものなんだ。当選者は30人を予定しているんだ。千優ちゃんの店で赤いバラ3000本さばけたら結構大きいだろ。明日の午後までに見積もりを作ってほしいんだけど大丈夫?よくオーナーと話し合ってくれる」
「バラ100本ですか」
「そう、それで配送も千優ちゃんの店にお願いしたいんだ。ファンからのメッセージと一緒に入江本人のコメントをつけるからそれを配達してほしいんだ」
「わかりました、明日の午後でよろしいのですね。オーナーとよく話し合ってみます」
「OK、よろしく頼むよ」
明日の午後にはプロダクションのファーストに行かなければならない。まいったな、白石さんに怒られるよな。入社早々からアルバイトなんていえるわけないし、困ったな。