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パーソナル・ヒストリー

 きょうは何曜日だったかな。


こう面接が続くと曜日の間隔が麻痺してくるな。


編集職を求人誌で探すのも俺くらいだろうな。


みんな取引相手にうまくとりつくろって新しい仕事先を決めてから会社を辞める奴が多いが、俺はそういうのが嫌いだ。


なぜなら、育ててもらった恩義を忘れて、次の仕事場を探しながら働くという行為が許せないからだ。


俺の場合、いままで音楽雑誌でしか書いたことがないから、他のジャンルを扱っている会社に入れればいいな、と秘かに思っている。


だが、自分が考えるほど世の中は甘くない。


とどのつまるところ俺には音楽しかないのだ。


モータージャーナリストになることが小さい頃からの夢だったが、そんなものは俺にメシを喰わせてくれない。


ビートルズのナンバーだったら俺の筆は進む。


だが、どんなに刺激的なスポーツカーのエンジン音を聞いても筆の速度は進まないだろう。それが文筆の世界である。


 音楽でメロディー、ハーモニー、リズム、どれが一番大切か、と音楽関係者に聞かれることがある。


しかし、俺には答えられない。なぜなら、俺には曲を作る発想と技術が未熟だからだ。


言葉なら何を書きたいか、を頭にインプットすれば、単語の2つや3つすぐにイメージできるが、作曲の場合そうはいかない。


たとえいいメロディーが浮かんだとしても、音感がないから実際に楽器で音を確かめなければならない。


特に音を拾うのは馴れないから厄介だ。


それに楽譜に(しる)すことも音楽を難しくする。


さらにいえば、文章を書く人にはまったく持ち合わせのないセンスも必要である。


つまり言葉をつらねるには話すことができればいつかは書けるようになるかもしれない。


だが、音楽はそうはいかない。まず、ひらめきがなければいつまで経ってもいいメロディーなんてできやしない。


印象に残るメロディーを生み出すにはある程度の資質とセンスが求められる。


たまたま1曲ぐらいは素晴らしいひらめきがあるかもしれない。


だが、何曲も続けていい作品を作るには相当な実力を持っていなければ実現は難しい。


つまり、オリジナリティ、プラス、バリエーションがなければならないのだ。


そのうえ、楽曲のいい、悪いはみんな簡単に決める。


作曲者がどんなに苦労して作ったものでもそんなことはおかまいない。


聞いて気に入らなければ「よくない」ですべて終わってしまうのだ。


どこが悪いのか、と聞かれれば答えるのは微妙だ。


「ノリが悪い」「インパクトがない」など、言葉を並べることはできるが、的を射た指摘というのは難しい。


そもそも音楽で伝えたいものと文章で伝えたいものでは表現する内容が違うからだ。


それなら作詞はどうなるのだ、と疑問を持つ人もいるだろう。


作詞は言葉の(いん)を考えたり、音符の数に合わせたり、言葉のリズムを考える。


つまり歌うことを想定した文章だ。その点小説の文章は、読むためのものということになる。


だから必然と重要なポイントも変わってくる。


音楽は印象が大切だが、読む文章は意味合いが大切になってくる。


おまえはどちらが好きか、と問われれば話は複雑になってくる。聞くだけなら音楽のほうが好きだ。


だが、現状では音楽でメシを食べるにはあまりに課題が多い。そして時間も必要だ。そして文筆はいまは生きる糧である。


 

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