Ⅱ
続き
セツナがユウタに奪われたモノ
もう戻らない
振り向かない
「なぁ、ユキナ…。」
「軽々しく過去を話さないで。」
シュンタの瞳が見開かれる。
「“ユキナ”だった頃の記憶は捨てたい。」
瞳が揺らぐ。
私は続ける。
「私は“セツナ”なの――。じゃないと、ドールでも人を斬れない。言ったじゃない。」
視線がそれた。
シュンタは口を開いた。
「俺の中ではいつまでも“ユキナ”だ。いくら変わったって、ユキナなんだ。」
悲しそうな顔。
瞳が涙で揺れている。
「-っ」
何か言おうとしたその時、間の抜けた声がした。
「コラー!ハルタにユキナー!帰ったならサッサと報告しろっ!…あれ、なんかタイミング間違えたか?ワシ?」
…クソジジイぃ。
このおっさんは総家笑与ーエタ。ふざけた名前だ。笑顔を与えるなんて。
多分60は越えた爺さん。
だけど見た目は40ぐらいのおっさん。
人形壊、ドールクラッシャー――DKのリーダーでもある。
――そしてユリカの父だ。
よくこんなおっさんから産まれたなって思う。
「おっさん、私の名前はセツナ。なんべん言えば覚えんのよ?」
おっさんは眉をあげた。
「いつもならユキナでも怒らんのに、何カリカリしてんだ。それにおっさんと呼ぶな。お美しく、気高くて格好いいエタ様と呼べ。」
「…分かりました。自称お美しく、気高くて格好いいエタ様?今すぐ死にたいらしいですね?」
私は剣を抜いた。自称お美しく、気高くて格好いいエタ様の首筋に当てた。
「嘘嘘嘘嘘嘘!やーめーれっ!いいよおっさんで。てゆーかワシよりハルタだろ?原因!」
盗み聞きか。おっさん。
「ユリカに挨拶しなくてよいのか?」
「彼女は人形よ。もう正真正銘の。人形に挨拶するの?」
私は自身にむけて皮肉を言ったつもりだった。
「今なら研究員もいないのになぁ。そうかそうか。」
にやにやしておっさんは言う。
「う゛ー…。」
「ユキナ、行くのか?」
シュンタ…。さっきまでしょんぼりしてたくせにっ。
「分かったわよっ!行くわよっ!てゆうか私はセツナだからっ!」
私は当たり散らして、ユリカがいる部屋に向かって歩き始めた。
ユリカがいる部屋は本部の一番奥。
特別な人しか入れない部屋にいる。
コンコン。
ドアをノックする。……返事はないけど。
「ユリカー?居るなら返事しろー?入るぞ?」
おっさんはそれでも話しかける。
お医者さんが“根気よく話しかけた方が良い”とかなんとか言ったから。
ユリカの部屋はドアを入ってすぐ階段だ。
長い階段を登ると、天井に行き着く。天井を一定のリズムで叩くと天井が開く。最先端技術らしい。
天井の上。
一面が硝子の部屋だ。
他は白い壁に床。高い天井。
そこにユリカはいる。
23歳。
ユリカと、呼び捨てにしているがユリカは23歳だ。だけど見た目は少女だ。
人形のように整った顔。白く滑らかな肌。長い黒髪。
当たり前だ。
ユリカは中に人形を宿してる。
疲れた…
次は過去編ですた