98.暴走する阿呆と取り成す妹
「そ、そんなわけが……っ」
挙動不審になり、せわしなく視線を泳がせる。自分でも疑ったことがあるようだ。核心を突かれて、どうしたらいいかわからない顔だった。
父親の同僚は、残された幼いリコに「父親は盗賊だが失敗して護衛に殺された」とは言えなかったのだろう。誤魔化すように「盗賊に殺された」と話した。実際は「盗賊なので殺された」が正しいはずだ。
「一度目は見逃がし、二度目は注意、三度目は叩きのめす。だが次に同じことをしたら、命をもらうぞ」
きっちり警告を残した。聞いていないと言い逃れられないよう、人が多い場所で口にする。食べかけの料理に手を伸ばしかけ、その腕で攻撃を受け止めた。左腕に入れた暗器の表面を、刃が滑る。慌てたのはアロンソ達だった。
剣はレグロが押さえている。抱えたまま飲んでおり、奪われていなかった。腰に差した飾りのような短剣が武器だ。鞘が腰に残っていた。切れ味はよくない研ぎの甘い刃物が、パキンと音を立てて折れる。
「きゃぁぁあああ!」
給仕の店員が叫んだことで、騒ぎが大きくなった。あっという間に周囲の男達がリコを拘束する。それがなければ、私が刃を突き立てていただろう。
「はぁ……忠告すら耳にしない阿呆か」
溜め息が口をつき、押さえつけられたリコを見下ろす。先ほどのレグロの発言を何だと思っている。私達が貴族だと口にしただろう。それはお前が愚かな行為をして、傭兵団に迷惑をかけないよう牽制したのだ。私も忠告していた途中だぞ?
「すまない、傭兵団としての教育が甘かった。俺らのせいだ。今回は……」
「許す気はない。この平民は貴族に刃を向けた。その意味がわかるな?」
もし成功していたら、リコの命が代償になる。だが、この程度の腕で私を傷つけることは不可能だ。だから……処罰は一つだ。二度と武器を握れないようにする。
「お兄様ったら、煽るんだから」
綺麗に魚の身をつついたベスが、呆れたと肩を竦める。これは仲裁の意味があった。煽りすぎたせいで暴走したのなら、手心を加えなさいと。
私はどこまでも相手を追い詰めてしまう。性格的に我慢できないのだ。甘えているように見えるし、油断しているのも気に入らない。最後は許されると考える奴の愚かさも嫌いだった。
「ベスは私が悪い、と?」
ここで彼女が頷き、私が折れる。いつものパターンであり、私達の正しい距離感だった。頷こうとしたベスより早く、アロンソが口を開く。
「すまない。女性に対してこのような……いくら謝っても足りない」
無言でアロンソを見つめた。もしかして、私が女性だと見抜いていたのか?




